8、デザートも欲しいなぁ
朝からずっと問題児、ローランの動向をクロエは観察していた。
授業中は、満腹になった眠気が襲ってきたのか、机に突っ伏して二限が終わるまですやすや居眠りをこいているし、移動教室に向かう途中でまたすれ違いざまの後輩の魔力を試食する。
昼休み、食堂では種族に合わせた食事が提供される。
隣に座ろうとローランに誘われたクロエは、一般的なパンとスープの配膳を口に運んでいたが、ローランは持参した輝く魔法石の魔力を吸収している。
キラキラと虹色に輝いていた魔法石が、彼が魔力を「食べた」後は、ただの真っ黒な鉱石に変わってしまう。
「はあ、腹八分目なんだよなぁ、デザートが欲しいなぁ」
と独り言を言ってローランはクラスメイトを見回して物色し始める。
「逃げろ、また吸われるぞ!」
「倒れて午後の授業聞けなかったら単位がやばいんだよ!」
それが合図だと言わんばかりに、食堂にいた者たちは食事をしている手を止め、急いで廊下に出たり窓から中庭に飛び降りている。
まるで蜘蛛の子を散らすかのように、学生たちは散り散りに食堂から消えてしまう。
残ったのは委員長の四人とクロエだけだ。
ギルバードは早くも食事を終えて椅子にふんぞり返ってイビキをかいて寝ているし、端の席のオスカーは、自分の周辺に魔力のシールドを貼り、誰も近づけないようにして静かに本を読んでいる。
えーと、と辺りを見渡して都合の良い魔力を吸えそうな相手がいないことを確認するローラン。
「ねえお願い、レヴィン、少しだけいいから食べさせて?」
「またですか……。ひと吸いだけですよ」
どうやら仲が良いレヴィンが、彼の昼食のデザート担当のようだ。
レヴィンが嫌そうに自分の右手を差し出すと、そこには拳ほどの大きさの煌めく魔力の玉が乗っている。
自分の魔力を取り出し、食べやすいように球状に固めるだけでも、その辺の悪魔にとっては高等技術なのだが、レヴィンはそつなくこなしてしまった。
「はい、いただきまーす!」
とローランが言うと、口を大きく開けて一気にその魔力の玉を吸い込んでしまう。
「うん、なめらかでおいしい!」
舌なめずりをし、ローランは満足そうにご馳走さま、と 両手を合わせていた。
「魔力にも味があるんですか?」
クロエが不思議に思って尋ねると、ローランは深く頷いた。
「うん、魔力にはその人の性格や素質が反映するんだろうね。レヴィンのはなんていうか、繊細な味?
なんだ。 ギルバードのを前に食べたけど、獣臭くて味が濃くてめっちゃまずかった!
しかも食べたあとぶん殴られた」
「なんか納得ですね」
聞こえたらまた殴られますよ、とレヴィンが食堂の机で居眠りをこいているギルバードに聞こえないように声をひそめると、ローランもクロエを見ながら、シーと笑いかけてきた。
(……魔力の味を食べわけ、無尽蔵に吸えるピクシー、ね……)
クロエは、目の前にいる問題児のローランを見つめ、彼の可能性について思案していた。