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16、俺より強いやつだけ

一触即発の空気の中。


クロエの煽るような言葉を受け、ギルバートは机に乗せていた足を下ろすと、ゆっくり立ち上がった。


逆立った茶髪を掻き上げると、数歩歩き、床に落ちていた自分の捨てた骨を拾い上げる。


その刹那、



ダンッ!



骨を握りしめた右拳を、そばにあった机の上に叩き下ろした。

鈍い音が響き、その衝撃で机の天板はひび割れ、台の部分がひしゃげてしまった。


ゆっくりとギルバートが拳を開くと、手の中の骨も粉々に砕け、さらさらと落ちていった。

全員が急な彼の暴力に驚き、耳を塞いだり口をあんぐり開けていたが、至近距離のクロエは微動だにせずギルバートを見つめている。


「気に食わねぇなぁ、魔王令嬢のお嬢ちゃん。俺に指図か? ああ?」


ギルバートはこめかみに青筋を浮かべ、目を見開いてクロエを睨みつける。

クロエは、毅然と返事をする。


「わたくしにはクロエという名前があります。そう呼んでいただけますか」


「はっ! 前から気に食わなかったが、アンタ生意気なんだよ」



彼は頑なにクロエの名を呼ばない。魔王令嬢と茶化し、馬鹿にしている様子のギルバート。

それは、俺はアンタを認めていない、という反骨精神の表れなのだろう。


「学園の備品を壊すのはやめていただきたいですわ」


拳を打たれ、ボロボロになった机はもう使い物にならないだろう。

掃除当番が備品室から予備の机を持ってこねば、と仕事が増えたことにクロエはうんざりする。


「学園での獣人クラスの素行不良が目に余ります。

クラス長のあなたが始終そんな態度なので、助長させているのでしょう」


ギルバートの取り巻きのジャガーやワニ、ミノタウルスの獣人たちでさえ、クロエの歯に絹着せない言い方に、肝を冷やしているように見えた。

怒り心頭のギルバートは、半袖の制服から見えるたくましい腕を組む。



「オヤジが魔王ってことにあぐらをかいたただの甘ちゃんが、偉そうにしてるんじゃねぇ。

ローランのアホがアンタの言うこと聞いてるらしいが、俺はそうはいかねぇぞ」



霧散する魔力を体に留め、魔力をおやつ代わりにあげることで、無邪気な妖精族のクラス長、ローランはクロエを認めたが、俺は違うという強い意志を感じた。


「俺が従うのは、俺より強いやつだけだ」


ギルバートはクロエの顔を覗き込み、鋭いフェンリルの牙を見せつけ、凶暴に笑った。

しかし、クロエもそれに合わせて不敵に笑う。


「それでは、私があなたに勝てば、従ってくれるのですね。

行列の割り込みもせず、弱いもの虐めもせず、ゴミもゴミ箱に捨てると」


そのクロエの煽るような言い回しに、黙って教室の端で聞いていたレヴィンが思わず吹き出していた。

子供でもできることをやっていない、不良軍団が情けないとでも言わんばかりに。


「やってやるよ。テメェにできるもんならな!」


牙を見せつけギルバートが吠える。


「それでは、これ以上物を壊されたら困りますので、中庭で決着をつけましょう」


クロエは窓の外の中庭を指差し、獣人族の委員長に宣戦布告を叩きつけた。

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