12、ハグしてもいい?
クロエが、ローランの魔力つまみ食いという悪癖をやめさせたという噂は、すぐに学園全体に轟いた。
次の日、クロエが登校した途端、
「魔王の娘さんよぉ、助かったぜ! あの童顔坊ちゃんには手を焼いてたんだ!」
「俺たち魔力が少ないから、ちょっと吸われただけで授業なんて受けれなかったからなぁ」
と囲まれて大喜びされた。
ゴーレムや豪鬼は、体が大きく攻撃力・体力はずば抜けているが、魔力は比較的少ない。
肉弾戦で主に戦う者たちは、ローランから吸われると貧血を起こしその場にうずくまってしまうのだという。
強面の男子生徒たちに、胴上げされそうな勢いでクロエは賞賛された。
そして他にも、
「クロエ様。お荷物お持ちいたしますわ」
「ローラン様が、クロエちゃんはボクたちみんなで守るんだ!って言ってたよ」
「うふふ……本当に可愛らしくて気品のあるお顔」
ピクシー、コロポックル、サキュバスといった、妖精族の者たちからカバンを持ってくれたり、肩を揉んでくれたりと甲斐甲斐しく世話を焼かれることになった。
妖精族のクラス長であるローランが、「恩人のクロエちゃんには優しくするように!」というお触れを出したようだ。
可愛らしい顔のピクシー、子供のように小柄なコロポックル、セクシーな淫魔のサキュバスに囲まれ、ぞろぞろと寮から移動してくるクロエの様子は、みんなからの注目の的となっていた。
そして放課後になると、
「クロエちゃん、今日も誰の魔力も吸わなかったよ!」
とローランが急いで飛んでくるのだ。
「ご褒美ちょうだい!」
「ふふ、仕方がないですわね」
魔力の球を差し出すと、美味しそうに食べるローランと、羨ましそうにそれを見つめている妖精族の後輩たち。
「あとさ、またこの前みたいにまたハグしてもいい……?」
ハグ、というのは、霧散してしまうローランの魔力を押さえるための応急処置で行ったことを言っているようだ。
「あら、あれはハグではなくて、魔力を縛りつけただけですわよ」
「そうなんだけど。クロエちゃん、柔らかくて、いい匂いしたから忘れられなくて…」
潤んだ瞳で見上げてくるローラン。
その愛らしい顔で何人もの敵を魅了しては、魔力も生気も吸い取った来たのだろう。
しかしクロエはそんなチャームの魔法にはかからない。
「問題解決の手段以外で、殿方を抱きしめるなんてはしたないこと、わたくしはしませんわ」
「うう、手厳しい。でもそんなクールなところも素敵だよ!」
自分の悩みを解決し、おいしい魔力を与えてくれるだけでなく、クロエを女性としても好きになってしまたローランは、ふわふわと宙を浮きながらご機嫌そうに笑っている。
しかし、そんな二人を横目で見ながら、面白くなさそうな男が一人。
「チッ……目障りだぜ」
壁に背中を預け、腕を組んでいたギルバードは、仲睦まじそうなクロエとローランを見て、舌打ちをした。
「これで問題を解決したって、優越感に浸ってるつもりか? 魔王令嬢さんよぉ」
ギルバードは牙を剥き出し、急に学園に来た邪魔者が気に食わないと、牙を剥き出し顔を歪めた。