天国のフィオーレ。2
だが、山を降りる頃には一足遅かった。
平琳町に知らせが届き始めた。
どの書面にも視察の言葉や、近況報告の文字が綴られている。
山を降りるのにかかったのは一時間ほど。
その間に書面を用意できた国々だ。
知らせの届き方は伝書鳩だから追手や衛兵はまだ来ていないが、来るのも時間の問題だろう。
魔法使いが足りない戦中の国は喉から手が出るほど欲しい存在に今、ヒスイがなっている。
「お前さんたちは今すぐに国境を出なさい。ホワイト王国へは二つの道がある。道なりに行けば疑いがかかる。森を抜けろ。そうすればホワイト王国の森と繋がり、街に出る。街は賑わいの絶えない街じゃから紛れ込めばわからんだろう。その後は城下町に行きなさい。腕の立つ情報屋がたくさんおる」
「長老は?」
「大丈夫じゃ。魔王がいる時代、なんじゃろ?」
「なんでそれを」
「お前さんたちの顔を見ればわかると言いたいが、スイが教えてくれたんじゃ。本当は早く出国させなければならないところを引き留めたんだからな。これくらいの責任は負う。それに魔王が出たといえば情報屋には大儲けじゃ」
長老は冗談らしく言うが、魔王が出たと言って信じる国は少ないだろう。
それでも今は疲弊したヒスイのことを考えると人情をかけている時間はない。
長老の巧みな長話に賭けるしかない。
「わかった。どうか無事で」
「心配するな。それよりヒスイを頼んだぞ、ライラ。今ヒスイは戦える状態じゃないからの。未来ある若者はしっかり守ってやれ」
長老はそれだけ言い残すと、町民に収集をかけ始めた。
きっとこれからについて会議するのだろう。
どこまで話してどこまで誤魔化すのかはわからない。
だが、心配するべきは自分とヒスイの状況なのは変わらない。
ヒスイは一応話すことと歩くことはできる。
だが、攻撃魔法や飛行魔法は最低でも二日は使えない。
ヒスイだからこれくらいで済んでいるが、普通の人間なら死んでいる。
魔法使いでも魔力切れで職を休むか手放す者も出るくらいの魔力の大きさだった。
ヒスイは抑えたと言っていたから本来の魔法は絶大な魔力が必要だ。
ヒスイの足取りを考えると背負いたいところだが、町民に見つかれば私たちを証言される。
だから国境を越え、森を抜けるまではヒスイに堪えてもらうしかない。
「ヒスイ、行こう。長老はきっと大丈夫」
ヒスイは朧げな瞳をしながらも心配そうに微笑んだ。
私には心配をかけたくない。
だが、自分自身は長老を心配している。
そんなところだろう。
だが今はその気持ちを無視するしかない。
自分達の旅を続けるために。
「長老、元気で」
小さく呟いて私たちはこっそりと国境を越えた。




