天国のフィオーレ。1
私たちは裏山の山頂近くに訪れていた。
裏山も長老の管理区域だというので、そこなら人に見られる心配がない。
ヒスイは山頂に登るまでその古代魔法の書面を見続けていた。
時々唸ったり、呟いたり、首を傾げたりしていた。
そうしている間に山頂に着くと、ヒスイは杖を取り出した。
「どう? できそう?」
「物は試し、という感じでしょうか。理解はできたのですがかなり魔力も使いますし、何より範囲がわかりません。少し抑えめに魔力を使いますが、そもそもが神様たちの魔法なので規模が大きい可能性があります」
「もしも収集がつかなくなるようなことがあればわしが責任を持って逃してやろう。見せて欲しいと言ったのはわしじゃ。それに本来古代魔法は禁忌の魔法と呼ばれるぐらい貴重な物じゃ。そもそもお主に使えるかどうかわからないほどじゃからな」
全てを理解した上で長老は私たちに頼んだということだ。
詳しくいうと、禁忌魔法はまた別にあるのだが、最近の知識ではもう古代魔法は禁忌の魔法とされつつある。
この国で禁忌の魔法を使う責任がどれほどかはわからないが、長老はきっと約束は守ってくれる。
「もし暴走したら止めるから」
私は空中に浮こうと準備するヒスイに笑いかけた。
するとヒスイも穏やかな笑みを返した。
そして空中に浮いていき、深呼吸をすると杖を空へと突き差す。
口を開いたと思った瞬間、私と長老のいる地面が光り始めた。
足元から温かさを感じ始める。
ゆっくりゆっくりとその範囲は広がり私たちを囲うように一輪一輪が咲き始めた。
「こ、これが……」
その花は白くて小さな花だ。
でもどこにも咲かない花だと今までの感覚が告げ、五感が研ぎ澄まされるような感覚さえ自分の中に広がる。
ゆっくりと降りてきたヒスイが私たちに微笑んだ。
「今のうちに焼き付けておいてください。この魔法は僕が術を解いた瞬間に消えますから」
一瞬でもかなりの魔力を使う魔法だ。
今のヒスイは魔力を消耗しながらこの花を出してくれている。
ヒスイの体力もかなり消耗されるはずだ。
額には汗も滲み出ている。
それにこれほどの魔力に気づかない魔法使いはいない。
凄まじい魔力がここから溢れ出ている。
すぐに終わらせたほうが良さそうだ。
「長老、時間切れです。いいですか?」
「ああ」
たった一言呆然とする長老から聞こえた言葉でヒスイは術を解いた様子だった。
その瞬間に花は跡形もなく消えていく。
たった一瞬見えた花畑は幻想のようなまさに本物の天国にいるかのような時間を与えた。
私の脳裏にもこびりついている。
この景色は当分、いやもしかしたら永遠に忘れないかもしれない。
「急いで山を降りましょう。この魔力は探知されやすいですから」
ヒスイは疲弊しながらも冷静な判断を下した。
この魔力を感じ取った国々が視察に来るだろう。
魔王の存在を知っている国なら間違いなく疑う。
私たちは速やかにこの国から離れ、長老には上手く誤魔化してもらうしかない。
「ヒスイ」
長老は急足になっている私たちについてきながらも言葉をかける。
「ありがとう。おかげで妻に心置きなく会えそうだ」
それは長老らしい言葉のようにも聞こえた。
きっとあの一瞬でも長老は最愛の人を思い浮かべていたのだろう。
ヒスイの魔法が無駄にならずに済んだのだ。




