後日談のような始まり。4
その道中、彼が話すことはなかった。
ただじっと私の顔を見つめては目が合うとそらし、また見つめる。
そんな落ち着かない状況に私は早く用事を済ませようと心に決めていた。
「天気があまり良くないね」
真上から遠くの空まで一面に雲が広がっていた。
その上、雨の匂いまでしてくる。
地面は湿っていないから降るとしたら次はかなり降るかもしれない。
これも旅をしていてわかった法則だ。
「雨が降る可能性がありますね。急ぎましょうか」
そういう彼の顔は先ほどから少しずつ曇ってきている。
まるで町に行くのが嫌だと言わんばかりに。
でもそんなことを考えているうちに、魔力を絶大に感じるようになっていく。
複数の魔力、大きさの異なる魔力。
これらと最後に見た川の流れからして町が近いのだろう。
「見えました。あれがエテールです」
彼が指差した先には私の記憶とは全く異なったエテールがあった。
黒い建物が多く立ち並び、露店も少ない。
賑わっているというよりかは寂れていた。
私のいた頃はもっと色とりどりで露店もあり、人で賑やかだった。
世間話や噂話なども絶えなかったがそれも含めていい町だった。
それが今ではすっかり落ち着いた、静かな雰囲気の町になっていた。
「あまりいい町ではありませんが。でも食料には困っていない、比較的穏やかな町だと思います」
その話を聞いて少し安堵した自分がいた。
旅をしていると、次に来ようと思った頃には寂れてなくなっている町が多い。
その中で長い年月の中、滅ばずにいてくれた故郷になぜか安堵の息がこぼれる。
私にとっていい町ではない。
むしろ悪い出来事しかなかったところなのに。
人間は不思議だ。
「食料が欲しいんですよね? なら市場に行きましょう。この時間ならまだやっていると思うので」
「あ、大丈夫だよ。案内しなくても町まで来れば君も安心でしょ? だから……」
これ以上一緒にいたら傷が塞がる瞬間を見られてしまう。
そうなったら悲鳴ものだ。
早いところ一人になって、食料を確保したらこの町を出なくては。
そう思っていたのに、次に飛んできたのは怒号だった。
「ヒスイ! お前、鍛錬をサボってどこに行っていた!」
背後からする怒号と、彼の小さくなった背中。
これが彼の嫌がっていた原因だったらしい。
でもそれよりも早くここを出ないと。
傷が塞がる。
「魔法の鍛錬は欠かさず行うのが俺の家のルールだ。逆らうやつは容赦しない」
私のことなど見向きもせずに彼の肩をがっしりと掴んだ男は大柄で、いかにも魔法使いというよりは戦士や武闘家だった。
そんな中、彼は飛び上がるように肩を弾ませ、怯えた目をして手を震わせていた。
「次に鍛錬を怠った時はどうなるか知っていたよな? なぜ破った」
この騒ぎを町の行き交う人間は見て見ぬふりをしていた。
これがこの町の現状だ。
いつになっても変わらない。




