古代魔法と長話。1
小道を抜けるとそこは古い家屋が並ぶ町だった。
蔵や瓦小屋と呼ばれる建物が並び、町民が着ている服も和装服でいかにも和ノ国という感じだ。
「ここが平琳町ですか。落ち着いた町ですね」
「まあ、それだけ歴史があるんだろうね。管理も任されるほどの長老がいるわけだし」
国境の管理をしているというだけで厄介そうなのは目に見えているのに、この町の落ち着き具合を見ると余計に私の心はむず痒くなる。
スイからもらった書物を見せれば通してくれるとは言うが、ここまで歴史があると私の存在も気になってくる。
仮に私が前に訪れている土地だったらかなりまずい。
そしてこの光景は記憶の片隅にある。
つまりは和ノ国にはるか昔に訪れていることになる。
「何もしてないといいんだけど……」
「なんのことですか?」
小声で言った言葉に反応され小さくバレないようにため息をついたのだった。
「なんでもない。長老の家に行こう」
「そういえば長老の名前、聞いてませんよね?」
「あ……」
ここにきて初めて思い出した。
長老とは知っていても、名前を聞いていない。
人探しをするのに致命的なミスだ。
いきなり町の人間に長老はどこだと聞けば怪しまれるに違いない。
目立ちたくない。
覚えられたくない。
それよりも先に、この町に記録があってほしくない。
葛藤に駆られていると、後ろから引きずるような足音が聞こえた。
「お前さんがライラか」
掠れた声に振り返ると、そこには腰の曲がった老人が杖をついてこちらを見ていた。
名前を知っているものだから嫌な予感を巡らせて言葉を探る。
慎重に言葉を紡がないといけないような雰囲気に気疲れする。
「そうです、あなたは?」
珍しく私が敬語になり、ヒスイも首を傾げる。
この国では言葉遣いに厳しい。
だから何か私が昔にやらかしていないか怖いのだ。
「ここの長老じゃよ」
「あなたが!」
ヒスイは弾かれたように笑顔になるが、私は引き攣った表情をするしかなかった。
長老自ら私のことを知っているとは何かやらかしたような気しかしない。
「えっと、名前……」
「昔の記録に書いてあったからの」
「逃げるよ、ヒスイ」
「え、え?」
首根っこを掴んで踵を返そうとすると長老が高笑いをするのが聞こえた。
意地の悪い掠れた声だ。
「嘘じゃよ。スイから電報をもらったんじゃ」
「え?」
その一瞬でスイが仕組んだことだとわかった。
スイは不老不死を知っている。
私の口の利き方も。
おそらく今頃楽しんでいることだろう。
「この反応をするのはやはり本人じゃな。スイにしつこかった時の礼をしてやってくれと言われてな。おかげで一瞬だったが楽しめたわい」
意趣返しにも程がある。
というか意趣返しにもなっていない。
冗談が通じない相手だったら困っていたところだ。
「家に来なさい。ゆっくり話を聞こうじゃないか」
長老はゆっくりと私たちの前を歩き始めた。
「案外いい人ですね?」
ヒスイがヒソヒソと言うのに対して私はさらに嫌な予感を強めて苦笑いをした。
「どうかな。スイが素直に言っていればの話だ」




