覚悟の代償。3
いつもは普通に開けられる扉も今日は重く固く感じた。
あの時、ヒスイは何を思って魔法を放ったのか。
たとえもう人ではなかったとしても、対人戦のような状況だった。
ヒスイはその心を得てしまったのか。
それが気になって仕方がなかった。
人を殺めることはしたくない。
でも旅をしていれば、ましてやヒースを辿る旅をしていれば自ずと人を殺めなければいけない状況に陥る。
魔物に取り憑かれた。魔族に操られた。
そんな人間を村や集落では討伐してほしいという依頼さえある。
それが噂や確実性のない話なら断ることもできるが、実際に危害を加えてしまった人間やその場所の人間ではできなくなってしまったことを私は不老不死になった定めだと思ってこなしてきた。
だが、それが普通のことになってほしくない。
「ヒスイ」
扉を開ければ、そこには魔導書に目を通すヒスイの姿があった。
相変わらず、魔力の調整と魔法の知識の勉強は続けているらしい。
私を見るなりヒスイは微笑んで私を見る。
だが、その微笑みには戸惑いがあった。
それを私が、仲間が見逃すはずがなかった。
「無理をしないでほしい」
その瞬間、ヒスイの表情が変わった。
驚きの混じった悲しそうな顔だった。
「こないだの対人戦のような時はヒスイに無理をしてほしくない。それにヒスイは慣れてないんだ。判断を誤れば自分を危険に晒す可能性だってある。だから……」
「僕は自分の意志でやったことだと思ってます」
その時、初めて私は自分の考えを見つめ直した。
ヒスイには違う考えがあるのだ。
私とは違う考え、思考が。
「確かに対人戦は慣れていませんし、できればやりたくないものです。ですが、それをライラさん一人に押し付けることもしたくない。それにあの場面では僕が魔法を撃つ方が早いし確実だった。それはライラさんも気づいているはずです」
ヒスイの表情は後悔とは違う。
どちらかといえば初めてのすれ違いに戸惑いを覚えているような状態だ。
「それにあの時は勝手に体が動いたんです。知識と共に。一瞬で今僕が魔法を使った方が犠牲が少ないとわかったんです。だから後悔はしていません。ライラさんは僕に人間でいてほしいと思ったんですよね。過ちも何もない人間で」
痛いところを突かれた気分だった。
ヒスイの考えは正しい。
あの場面で私が短剣を使えば血が流れる。
だが、ヒスイの光魔法なら光で闇を消すようにその魔物を消すことができる。
私はヒスイに綺麗な人間でいてほしいと願った。
それがヒスイには通用しなくなっていた。
それは悲しいことじゃない。
やっとヒスイに覚悟ができたのだ。




