覚悟の代償。2
「旅に出なよ。スイ。きっと君の研究技術を欲している国や都はたくさんある。もちろん悪用される危険性もあるかもしれない。でもそれはスイの情報網ならわかることでしょ?」
私の言葉にスイは行動を止めたが、すぐに口元を緩めて優しい眼差しを向けた。
「そうだな」
たった一言だった。
でもその一言は今までの葛藤を打ち消したようにも見えた。
スイは魔法具や研究資料を片付けると、一つの地図を取り出した。
机の上に広げると、指を差しながら地形を説明していく。
「和ノ国は今、権力争いのせいで戦場と化している。ヒスイの魔力のことも考えると和ノ国を突っ切るのは無謀だろう。隣町に隠れた国境がある。門番もいなくて、門だけがある状態だ。管理しているのはその街の長老だ。長老は厄介だから誰もそこを通ろうとはしない。でも俺の名前とこれを出せば通してくれるだろう」
そう言って取り出したのは一つの紙切れだった。
そこには約三百年前の文字が書かれていた。
しかも和ノ国の文字ではなく魔法書に書かれる暗号のような文字だ。
「これは何?」
「長老はホワイト王国の元宮廷魔法師だ。魔法のことを教えれば簡単に通す。だから俺はいつも研究資料を渡している」
「賄賂のようなものだね」
スイは「まあな」と鼻をふんと鳴らして誇ってみせた。
国境は誰でも通れる訳じゃない。
管理をしているということは相当厳しい人のはずだ。
だが、その人を懐柔する術すら持っているスイはなかなかに見込みがある。
「この長老が管理する門を抜ければホワイト王国への道が続いている。ホワイト王国も今は問題がありそうだが、戦にはなっていない。通るならそっちの方が安全だろう」
「ありがとう。スイ」
「お礼を言うようなことはしてない。ただ、豆知識を教えてやった。それと賄賂を渡した。それだけだ。強いて言うなら何かあった時に名前を出させてもらうよ」
「記事にはしないでよね」
「わかってるって」
スイとのやりとりは穏やかに進んだ。
今後の計画も順調に行けば旅を問題なく再開できそうだ。
ホワイト王国はどちらにせよ通る道だった。
その近道を教えてもらえるのはありがたい。
だが、問題があるというのも気になるが、スイにそれまで聞くと情報料が取られそうだから自分の目で確かめるのが良さそうだ。
スイにお礼を言い、部屋を出ると次は私とヒスイの部屋に戻った。
ずっと気になっていたことを聞くために。




