覚悟の代償。1
あの後、町長は自分が憑依の媒体にされていたことも知らず私とヒスイの見送り会を計画していた。
スイとケイの要望もあって二人は関与しておらず、私とヒスイだけで退治したということになっていた。
私的にはスイの才能を認めてほしいところではあったが、この町にいる限りは厳しいものがあるだろう。
町長とケイは見送り会の準備に迫られ忙しくしていた。
だが、スイはなんだか悩んだ様子で仕事をしているのが目に入った。
ヒスイは最近、眠そうにしていてなかなか布団から出てこない。
おそらく魔力を極端に使ったのだろう。
補充には時間がかかりそうだ。
見送り会の前日。
私はスイの部屋に来ていた。
相変わらず魔法具やら研究資料がたくさん並んでいる。
「スイ、ここまで研究が好きなら仕事にすればいいじゃない」
私の言葉を速攻で否定してくるものだと思っていた。
だが、今日のスイは返すことなく資料を眺めていた。
「ライラは旅をしていて良かったことはあるのか」
「私は好きで旅をしているわけじゃないよ。ただその場所に留まることができないから旅をしているだけだよ」
「でも歓迎してくれる町や村だってあるんじゃないのか、それこそ今回のように依頼を受けたりしていれば。お前はかなりの手練れだよ。魔物の討伐はできる人手が限られる」
確かにアルタやヴィーアンなら喜んで歓迎してくれるのかもしれない。
だが、それは私にとって一瞬の出来事だと知っていた。
「最初のうちは歓迎しても時代が経つにつれて人々は私の存在を怖いと思うんだよ。それに私は不老不死の理由を知られたくないね」
「魔王ヒースが関係しているからか」
「なんでも知っているね」
「まあな。魔王ヒースが探す女が自分の故郷にいると知って追い出すやつは大勢だろうな」
スイは情勢や街の反応をよくわかっている。
旅の心得などとっくに身につけているのだろう。
きっと彼は背中を押してほしいだけなんだ。
「スイも旅に出たいんじゃないの?」
スイはやはりその質問には黙る。
だが、観念したように息を一つ吐いてから私に向き合った。
「確かにこの研究がどこまで通用するのかこの目で確かめてみたい。でもこの町を兄さんを捨てる気にもならないんだ」
スイはやはり兄のケイを気にしすぎている。
きっとケイはスイが旅に出るといえば心配はしながらもきっと送ってくれるだろう。
そのケイのことをわかっていない訳ではない。
ケイが抱えている悩みをケイだけに押し付けるのが嫌なのだろう。
「故郷を捨てるのは確かに寂しいことだ。でもケイは切っても切れない仲だろう。兄弟という」
兄弟は確かに複雑な関係にもなるし、時に自分を引き止める存在にもなるのだろう。
でもきっとケイはそんなことを望んでいない。
スイの願望を知れば後押しをするだろう。
でもスイは今それを望んでいない。
だから代わりに私が背中を押す。
誰にそうされた訳でもなくても、自分があの時かけて欲しかった言葉を知っているから。




