複雑な関係。2
憑依する体をヒスイが作り、その体の基準をスイが調べる。
その案を出すのは早かった。
だが、予想以上にスイの説得に時間がかかった。
「だから、やりたくないって言ってるだろ」
「これをできるのはスイさんしかいないんです!」
ヒスイが先ほどから必死に説得を試みているがなかなかスイは頷かなかった。
その理由にはケイとの複雑な関係があった。
スイはケイに自分が優れている部分があると知られたくない様子だ。
今回の計画はスイの優秀ぶりを見せつけるような作戦であり、はっきり言ってケイに見せ所はない。
だから自分の手柄をケイが奪えない状況になるのをスイは嫌がっているのだ。
「スイ、私たちも町長を殺したくはない。今、提示している計画は町長に憑依している魔物を倒すだけの計画なんだ。分かってよ」
「俺は、兄さんとは違うんだよ」
スイはケイも町長もいない部屋で淡々と話し始めた。
「俺と兄さんは母親が違う。兄さんは親父の妻だった。そして俺はケイの母さんが亡くなった直後にできた愛人の子だ。でもなぜか俺は父さんの血を強く受け継いだ。そのせいでケイは自分が何者なのかわからなくなってる。たった一つわかるのは俺より優秀で父さんに好かれていること。その状況で俺が手柄を上げたくない理由もわかるだろ」
顔も雰囲気も似ていることから何も問題のない兄弟のように見えていたが、実際には私たちの想像よりも重たい現実があったらしい。
今を生きる人間にはこの問題は大きな問題なのだろう。
ヒスイも押すことを忘れ、迷いの表情を見せている。
きっとヒスイのことだから同情や自分の家のことを重ねているのだろう。
だからこの状況を打破できるのは私だけだ。
「スイは間違っているよ」
スイの目つきが鋭くなったのを感じた。
でも私はここで負けなかった。
ここで負けたら一人の体の犠牲、そして三人の心の犠牲が出るのだから。
「ここでこの計画を遂行しなかったらまず町長、君たちの父親を殺さなければならない。既に他の国では魔物に取り憑かれた人間は始末される国もあるくらいだ。今のこの国の情勢を考えたらそれも免れないだろうね」
私はスイの目を見なかった。
見てしまったら最近になって芽生えた私の良心が何か訴えてくるかもしれない。
それ以上に、大切な人を守りたくない人はいないと私も知っているから厳しいことを言うのに目を見るのは適していない。
「そしてケイについてだけど、ケイはきっとスイに情けをかけられていると知ったら悲しむ。それに町長を殺せばケイは本当に自分が何者なのかという証拠を失うことになる。父親から好かれているならケイもきっと父親のいる環境が心地いいのかもしれない。それを君に壊す根性はあるの?」
「ライラさん、言い方が……」
ヒスイは流石に止めに入ったが、私は止まれない。
ここで言い方を弱めたらスイの心に響かない。
だから私はスイの肩に手を置いて最後の言葉をかける。
「ケイもスイもきっと父親を好いているはずだ。今の平穏を壊さずにそしてスイの願い、ケイの願いを叶えるのにはこの方法しかないんだ」
「お前に何がわかる」
「私は目の前で大切な人が死んでいく辛さを知っている。そしてそれがどれだけ後悔につながるかも、どれだけ人生が変わるかも知っている。だから言っているんだよ」




