白日町の幽霊。1
嫌な予感を的中させ、どうやって踵を返そうか悩んでいた。
だが、その私を置いていくかのように、町長とヒスイの話は進んでいった。
「幽霊が出るんですか?」
「そうなんです。最近、町を騒がせていましてね。それで、他の国や他の街に依頼をしているのですが、どうも取り合ってくれなくて」
当然だ。と言いたいところを堪えて私は町長の話を聞いていた。
他の街が手を貸さないのは貸し借りを作りたくないからだと思われるが、他の国に取り合ってもらえないのはこの国の特色を理解しているからだろう。
和ノ国は人を疑うという思考があまりない。
その上、信仰が強かったり、上下関係がはっきりしていて他の国から来ると馴染むのに時間がかかる。
この国の文化の中に幽霊も存在するらしいが、幽霊は他の国ではあまり語られない。
信じられていないからだ。
私やヒスイの故郷エテールでは話題にもならず、旅に出て初めて聞いたくらいの珍しい単語にもなる。
ヒスイはなぜか知っているようで、興味津々に聞いている。
「どんな幽霊なのですか?」
「見た者は夢にうなされ、目覚めないとか。何人かは目覚めていますが、皆口を揃えてこういうのです。魔王様と」
「魔王……?」
その時、初めて引っかかる単語が出た。
夢にうなされるという時点では夢魔を疑ったが、そうでもなさそうだ。
魔王が新たに存在することはごく一部にしか知られていないはずだ。
ヴィーアンがその中心であることは確かだろう。
だが、国を挟んだ和ノ国にもう情報が流れているとは思えなかった。
そうなれば話は別だ。
幽霊なんかではないだろう。
「ライラさん」
ヒスイも引っかかったらしく私の顔を真剣に見つめている。
これは依頼を引き受けるしかなさそうだ。
「魔王は存在しないというのに、皆口々に魔王が現れたというのですよ。そのせいで働ける者も少なくなり、貿易や外交も滞っていて……」
「わかった。その依頼引き受けるよ」
「本当ですか!」
「とりあえずもう少し具体的な話が聞きたい。それと、和ノ国の国王は?」
魔王の存在を知らせるには国王に会うのが一番だろう。
だが、町長は首を振った。
「現在、和ノ国を治める王はおりません。王が十年前に亡くなられてからこの国では国を治めるものがおらず、争いが続いております。そのため、国境を越えるのにも多額が必要になるのです」
「なるほどね。権力争いで資金が足らなくなったか。白日町はどうなっているの?」
「今の所、争いからは遠ざかっているため平和な街でございました。ですが、幽霊騒ぎで平和ではなくなりつつあります」
ヒースはきっと争いのないところを狙ったのだろう。
争いがあれば、魔王の存在を知ったところで動揺しない可能性もある。
争いがあるなら自滅を望む。
そんなことを考えている可能性だってある。
そうなれば、まずは安全な町の確保だ。
「じゃあ、とりあえず町を案内しながら幽霊騒ぎについて教えて」
「わかりました」




