魔王ヒースの誕生。1
老人の話を聞いた後、残った住人たちを避難させ、私とヒスイ、ラビンは外に出て被害状況を把握していた。
焼けこげた匂いと、濁りきった空にはこの都市の絶望が浮かんでいる。
「魔王ってどう考えても大魔法使いヒースですよね」
「普通に考えたらそうだな」
ヒスイとラビンはやや混乱しながらも話を進めていた。
魔力だけで生きる魔王の存在を否定した世界。
そしてその世界に誕生した魔王。
つまりは人間が魔王となった。
予測もしていない事態だ。
人間の寿命では魔族や魔物を従え、魔王になることは困難だった。
それこそ不老不死で何百年も生きていない限りは。
「魔王ヒースは何が目的だ。世界征服でも企んでいるのか」
「いや、それは違う。彼は争いに興味がない」
あの眼差しと愉快な笑顔、そしてどこからか感じる高揚感と狂気。
争いには興味がない。
そして欲しいものは全て自分の力で手に入れる。
手に入らないのは一つだけ。
「まるでヒースを知っているような口ぶりだな」
「ああ、よく知ってるさ。私を不老不死にしたのもあの男だ」
彼の手に入らないものは愛だ。
不老不死になった今、同じ時を過ごすものはいない。
そしてあれほどの力をつけてしまえば、恐怖に怯える人間ばかり。
愛など感じたこともないのだ。
だからヒースの愛するものという言葉は引っかかる。
彼に愛するものができるとは思えない。
「魔王ヒースが企んでいることはわからないのか? さっきの話だと何かを探すために世界を巻き込んでいるような感じがしたが」
魔王ヒースは愛するものなどできない。
もし愛するものがいるのだとしたら探しても無意味なのだ。
ヒースの力で不老不死にでもしなければ。
その仮説を辿り続けると、嫌でも探しているものに気がつき始める。
でも言葉にするのは怖かった。
長年生きてきた私がここまで怖いと思うのは初めてだ。
ヒースが求めているのは、ヒースが求めるようにできているのは。
この私しかいない。
「詳しいことを調べるよりも、先にこの都市の安全確保とこれからの対処法を考えるべきです。ラビンさん、住人の方々と詳しい避難先を調べてください。僕たちはこの周りの安全確認をしてきます」
ヒスイは私の手を掴むと、飛行魔法で空へと飛んだ。
私は連れられるまま空に浮いていた。
ラビンは何かを察したように頷く姿を見せて避難先に去っていった。
ヒスイがそうした理由はなんとなくわかっている。
私とヒースの関係を知っているからだ。
そしてヒースの求めるものを察した。
だからあの場にいることを避けた。
「ヒスイ」
ヒスイは私の目を見ないで微笑んだ。
その優しさが胸に沁みた。
「ありがとう」




