雨上がり、水の都へ。2
ラスと別れ、目指す場所は決まっていた。
水の都、ヴィーアンだ。
ヴィーアンは豊かで清らかな水が流れていると昔から言い伝えられ、今では水の都とも呼ばれる。
食べるものを探して町に行くのも一つだ。
だが、今回は別の目的もあった。
ラスの話によると、ヴィーアンは近々争いごとが絶えないという。
ヴィーアンは元々穏やかな都市だ。
争いごとが頻発するような治安の悪さは今まで聞いたことがなかった。
だが、ラスの証言によれば魔物がヴィーアンの周りをうろついているところを何度か目撃しているらしい。
魔物に喰われる町や都市はそう少なくない。
だが、気になるのはヴィーアンの結界だった。
ヴィーアンは遥か昔に僧侶が結界をはり、水の都を守ったとされている。
あの結界はかなり高度な技術だ。
その高度な結界を破っているのだとしたら、ただの魔物ではない可能性が高い。
それこそ、ヒースが関わっている可能性があるのだ。
「ライラさん、そのヴィーアンにはられている結界はいつの時代のものですか?」
ヒスイはいつも通り魔法の鍛錬として炎を灯しながら歩いていた。
そのヒスイが余裕の顔で話をできるようになったのだから成長したものだ。
「そうだね、今から約三百年前かな。あの時の僧侶はかなりの手腕の持ち主だった。だから結界も……」
「だとすると、解析は余裕でできますね。大魔法使いヒースならもう結界を解析し終わっているはずです。ですが、結界の威力はここからでも感じます。つまり破られていない。おそらく大魔法使いヒースの駒ではないかと」
私は言葉に詰まった。
いつからヒスイはここまで分析できるようになっていたのだろう。
結界のある都市はここから約五日歩いてようやく着く。
その距離を把握できるようになっている。
その上、結界の分析まで計算ができるようになっている。
ヒスイは確かに寝る前に魔導書をよく読んでいる。
だが、人間が残す魔導書はどれもくだらない魔法しか記されていない。
スタンリング。ヒスイのファミリーネームだ。
どこかで聞いたことがある名だが、それが思い出せない。
一体その家はどの血筋なのか、どんな魔導書が封印されていたのか。
だが、今となってはヒスイに尋ねるのはご法度になっている。
家族のことは触れない。
それが暗黙のルールだ。
だが、そうも言っていられないのも事実だった。
ここまで知識がつけられているのはなぜか。
知る必要が今、あるのだから。
「ヒスイ、ヒスイが持っている魔導書は家のもの?」
「え、そうですけど」
「代々伝わるものなの?」
「いや、これは誰も読めないからと捨てられていた本で僕はそれが読めたので拾ったんです。確かに、スタンリング家のものではありますけど」
ヒスイしか読めない。
そう知った時、何かが頭の中を走った。
だが、それをかき消すように遠くで爆発音が響いた。
それはヴィーアンの方向からだった。
「もしかして結界が?」
「いえ、結界の気配はまだあります。おそらくどちらかの攻撃かと」
「急ぐ必要があるみたいだね、ヒスイ、飛行魔法どれくらい使える?」
「五日は無理です。ですが……」
ヒスイは鞄からゆっくりと魔水晶を取り出した。
アルタの時に何か役立てばともらったものだ。
「これの力を借りれば一回の休息程度で今の爆発音地点までは飛べるかと。爆発音は都の手前です」
そう、ヴィーアンまで五日の距離がある。
それでも爆発音が聞こえるのは旅をしていて研ぎ澄まされた勘と耳の質のおかげだ。
爆発地点まで一度の休憩で行けるなら早いほうがいい。
「じゃあ、頼んでもいい?」
「わかりました」




