雨と幻獣ファウシー。3
ラスが火を起こすことを許したため、近くで暖をとりながらラスと親睦を深めていた。
攻撃しないとわかっても寝るという手段は取れない。
それは旅をするものの極意だ。
「ライラはなぜ旅をしている。不老不死とやらはどこで手に入れた?」
「ヒースにやられたんだ。それからは滞在する期間を決めて他の人間の記憶に残らないようにしている。記憶に残ると不便なことしかないんでね」
ヒスイは私の後ろで真っ赤な顔をして上半身を隠していた。
先ほど、風邪をひくからとラスと協力して脱がせたのだ。
私ももちろん下着姿になっている。
ラスはそんなヒスイが気に入ったのか尻尾で少し隠してやっている。
それに怯えている様子も最初はあったが、ヒスイも慣れてきたようだ。
「そんなお前がこいつと旅をしているのはなぜだ。仲間なんてお前が一番嫌うものだろう」
言いはしないが、いつか別れがくると告げているように表情で少し憐れんだ。
確かにラスに限らず、私の事情を知っている者ならばこの状況を不憫に思うだろう。
私だって正直なところわからない。
「強いて言うなら、興味があるからだね」
「お前らしいとは思わないがな。確かにこいつには興味が湧く。いろんな意味でな」
ラスはヒスイの魔力を感知しているのだろう。
さすがはファウシーの長だ。
魔法感知から、知識まで優れている。
「ラス。ヒスイの魔力についてどう思う?」
「伸び代はあるが、ここまで強い魔力は初めてだ」
「ラスは勝てる?」
ラスはふっと息を漏らしてヒスイの油断を誘った。
その瞬間にヒスイは眠りについた。
おそらく睡眠魔法。
受け止めるように尻尾がヒスイの枕になり、ヒスイは気持ちよさそうに寝ている。
「こいつが聞くと自信過剰になるからお前にしか言わないが、俺はこいつが油断でもしていない限り勝てない。いや、油断していようが手を抜いていようが勝てないだろうな。おそらく匹敵するのはヒースくらいだろう」
私の予想通りの答えをラスは返す。
だが、真剣な顔つきになるのも早かった。
「だからこそ、ヒースと闘わせてはいけないな。ヒースの執着心は噂で聞く限り強すぎる。ヒスイに興味を持ったら何をするかわからない。それにヒスイが闘えば無事ではないだろう。知識も、心もな」
そう。
ヒスイは生きてきた年数はともかく、心が弱い。
執着心が強く、慈悲を持たないヒースにはうってつけの相手。
ヒスイにとって最悪の相性だ。
知識も少ないとなると、戦略戦になった時に負ける。
心理戦でも勝つことは不可能だ。
そうなると実力戦。
だが、ヒースに匹敵すると言うのも想像程度で、ヒースがどれほどの力量なのか知る者はいない。
「ラス、もう一つ質問。次にここに戻ってくる時、ラスは生きてる?」
ラスは真剣な顔をもう一度柔らかい表情に戻してヒスイを眺めた。
「無理だろうな。おそらく俺の残りの命はこいつより短い。年寄りなんだ。それにファウシーはヒースに目をつけられている。いつか戦になってもおかしくはない。だが」
ラスはヒスイの頬にかかった髪を尻尾で退けると、ゆっくりとヒスイを撫でた。
その表情と力加減は親が子にするような優しい愛情のあるものだった。
「お前たちがあいつを倒すまで悪あがきしてもいいだろうな」
ヒースは気まぐれで邪悪には到底見えない。
だが、その偉大さと強大な力でもはや苦しむ者が出てきている。
それはもう悪意に変わってくるのだ。
もはや私たちだけの願いではない。
これから先、旅をすればするだけ同じ光景を見るだろう。
「それなら私も逃げるわけにはいかないね」




