雨と幻獣ファウシー。2
幻獣ファウシーは狼のような姿であり、額に紋章が埋め込まれている。
大きな体に赤色の毛並み。
狼とは違う点はそれだけじゃない。
人間の言葉を話せる幻獣で、戦闘力も桁違いの力を持っている。
そのファウシーが洞窟の入り口で雨水を垂らしながらこちらを見ていた。
「ファウシーか、ここは君の縄張り?」
私が平然と答えるのに対してファウシーは面白そうに笑った。
「逢い引きかと思ったが、その顔、不老不死のライラか」
「なんでライラさんのこと知っているんですか?」
「ファウシーは長い寿命を持つ一族だ。ライラの話は噂で流れる。見た目の変わらない人間がいるとな」
ファウシーの様子を見るに私よりも長生きなのだろう。
余裕はあるのに、隙が全くと言っていいほどなかった。
不老不死ライラだと知ってからもその警戒を解く意識はなさそうだ。
「その噂のライラがこんなところで何をしている」
「雨宿りをしようと思ってね。借りてもいいかな?」
ヒスイは正気ですか? というような眼差しを向けるが、ファウシーはそのまま歩み寄ってくる。
ファウシーの身体能力を考えれば近くにいたくないというのが人間の考えだ。
ヒスイの判断は一般的だ。
それでも今の状況なら雨宿りをするのがこの先のためにも良い。
それにこのファウシーは敵意がない。
確かに警戒心は鋭い。
だが、攻撃しようという構えは一切しない。
おそらく長に近い、あるいは長以上の身分だろう。
六百年は生きている。
それはつまりファウシーの寿命に近い。
ファウシーは七百年生きることが珍しい。
私の生きてきた年月で培った知識が正しければこのファウシーは攻撃せずに私たちがどう出るか見定めている。
それならば挑発に乗らずに、相手の鋭さを流すことが重要だ。
「ライラ、お前は俺が何年生きているように見える」
「ざっと六百。その口ぶりだと長だね。ファウシーの長は縄張りを守るために自分の生きてきた年数と相手の知識を重ねる。それには今の質問がぴったりだ」
ファウシーはしばらく沈黙を促した。
私たちも答えを待ち、その沈黙を破ることなく目を見つめ続けた。
すると、ファウシーは一瞬で警戒の糸を緩め、大笑いした。
「これはこれは、どうやら本物だな。ライラというのも、お前の生きてきた年数とそれに値する知識も。許せ、一度は会ってみたかったものでな。それほどまでに生きた人間はどんな人間なのかと」
「会えて光栄だよ、名前は?」
「ラス。この洞窟からエテール、逆側だとライラン王国までが俺の縄張りだ。俺の仲間には手を出さないように言っておこう。最も、それ以上に出たら責任は負えないがな」
ライラン王国はこれから目指す街よりも遥か東に位置する。
この大陸の四分の一はこのラスの縄張りということだ。
かなりの大物だ。
「ラス。感謝するよ。ライランまでは険しい道のりだからね。心強いよ」
「そっちの坊ちゃんはいくつだ。名前は」
「ヒ、ヒスイと申します! 二十歳です」
「ハハッ。随分と若いのと旅をしているな。怯えるな、お前は食ったりせん。不味そうだからな。魔法使いの血はどうも苦手でな」
食べるのか、とヒスイは余計にかしこまったが、ファウシーは好んで肉食というわけではない。
おそらく冗談のつもりで言っているのだろう。
「それじゃあ雨が止むまでいさせてもらうね」
「ああ、好きに使うといい。俺もそのつもりできたからな」




