雨と幻獣ファウシー。1
アルタを出て三日が経った。
今日は小雨が降り続け、雲がどこまでも広がっている。
以前なら濡れたまま歩くか、どこかの町に急いで行くか、洞窟で待つかだったが、今はヒスイの防護魔法で雨を防いでいる。
魔法の鍛錬にはちょうどいいと二人で話し合い、次の町へ急いでいる。
と言っても次の町までどれくらいかかるかわからない。
前にこの辺を訪れた時の記憶が薄い。
だが、もうそろそろ辿り着きたいところだった。
ヒスイの体力ももうそろそろ限界だろう。
先ほどから息切れが続いている。
「ヒスイ、もうそろそろ休もう。魔力はあっても体力がもたない。服は濡れても良いから防護魔法解いて」
「え、でも風邪ひきますよ?」
「洞窟か何かで火を起こして温まれば大丈夫だよ」
曖昧な記憶の中でもうすぐ洞窟があるのは覚えていた。
この辺りは雨が多くて前にもそこで休んだ記憶がある。
「わかりました」
そうしてヒスイは魔法を使うのをやめた。
途端に雨の冷たさがわかって小さく身震いをする。
衣類が肌にくっついて気持ち悪ささえ感じる。
これは急がないと風邪をひく。
そう直感が告げていて足早になった。
「あ、近くに魔力を感じます。人じゃないので、鉱石か何かだと思いますが」
「じゃあ洞窟が近いね。急ごう」
そうして踏み入れた洞窟は明かりも鉱石もないただの暗闇だった。
人がいた形跡もなく、ここは安全な洞窟に見えた。
ただヒスイが魔力を察知したように私も魔力を察知した。
二人が魔力を察知したのに、ここにはまるで魔法の形跡もなければ、鉱石もない。
「おかしいな。確かに感じたんだけど」
少し違和感はするが、長年の勘のようなものは働かないためここで休むことにした。
「ヒスイ、服を脱いで」
「へ!? いや、その…… ってライラさんまで服を脱いでるじゃないですか!?」
私が上着を脱ごうとしているとヒスイは上ずった声を出して、目を逸らした。
風邪をひかないために当たり前の行動をしているつもりだったが、ヒスイは恥ずかしそうにしている。
「風邪ひくよ。早く脱ぎな。旅の途中で風邪を引く一番の原因は雨だよ」
そう言いながら服を脱いでいる私をヒスイは見ないようにしていた。
だが、ヒスイは一向に脱ごうともしないし、さっきから口をぱくぱくさせている。
「何やってるの?」
挙動不審なヒスイだったが、意を決したように私の前に現れると、私の手首をしっかりと掴んだ。
その力はやはり男と女の違いがあるとわかる。
「ライラさん、僕も一応男ですよ」
ヒスイは自分のネクタイに手をかけ、少し緩めてみせる。
雨が滴り、体の線がくっきりとわかるヒスイの姿は男の人そのものだ。
ヒスイも男の人。
自分よりも何百年も後に生まれたという意識が強すぎて、男の人だと感じていなかった。
ましてや、とうの昔に男女の意識は捨てていた。
だが、ヒスイの一言で私たちが男女であることを思い出した。
「ライラさん、抵抗しないんですか? このままだと僕……」
「ここでの逢引きはおすすめしねーぞ」
途端に聞こえた私たち2人とは違う声に緊張が走る。
なんとなくの魔力は感じていたが、揺らぎがなかったため、気づくことができなかった。
「誰?」
驚きのせいか身を強張らせながらも声が出ないヒスイに変わって私は声のした洞窟の入り口へ目を向ける。
そこには幻獣ファウシーの姿があった。
アルタ編まで読んでいただきありがとうございます。
ここからヴィーアン編に入ります。
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