アルタの英雄2
孤児院の外に出ればそこにはたくさんの人々。
笑顔でみんな出迎えている。
ここは元々そういう町なのだろう。
笑顔があって、人々が平和を求める。
本当の本質はいい町で、いい人たちなのだ。
エテールとは根本的に違うのだと思い知らされる。
「すごいですね。こんなに見送りがあるなんて」
ヒスイは感嘆の声をあげている。
こんな光景を見たことはないのだろう。
もちろん私もここまで歓喜に満ちた見送りをされたことはない。
「ヒスイが頑張ったから今の光景が見られるんだよ」
「そんなことないですよ。ライラさんたちの協力のおかげです」
謙虚な姿はどこまでも変わらない。
いつまでもその純粋無垢な姿でいてほしい。
たとえこの先が険しい道で、憎しみや悲しみに溢れていたとしても。
この世界には数えきれないほどの負の感情がある。
その負の感情に触れた時、この白い花のような彼は枯れてしまわないだろうか。
負の感情に染まってしまわないだろうか。
「あ、ギルさんだ!」
ヒスイの明るい声が考え始めた私の耳に響く。
どうやら私の闇のような心に光を差すのはヒスイの声らしい。
その言葉通りヒスイと私の前にギルとリアがいる。
ギルはやっと自分の心に素直になれたようだ。
リアの笑顔を見ればその言葉や報告がなくともわかる。
「よう。旅立ちの日ぐらい、笑えよな、ライラ」
「笑顔になるタイミングを忘れたんだ」
「嘘をつけ。不器用なだけだろ」
私の言葉に鋭く突っ込みを入れてくるギルはいつも通りに見える。
そう。いつも通りでいいのだ。
別れに涙はいらない。
ヒスイが言ったように。
「ヒスイもありがとうな。おかげでこの町の復興は良いスタートが切れそうだ」
ギルに撫でられてヒスイは穏やかな笑みを浮かべる。
少年らしく抵抗しながらもその顔は嬉しそうだ。
本当にこの町が最初で良かったのかもしれない。
「ライラさん。ヒスイさん。ありがとうございました。私からもお礼申し上げます」
リアが深々と頭を下げるとヒスイは慌てて止めに入る。
その様子をギルは微笑みながら見ている。
町の人々も笑いながら見守る。
こんな旅立ちはしたことがない。
むしろ目立たずに旅をしてきた。
このような状況は避けて通ってきた。
でも……
「これはこれでアリだね」
心から出た言葉。
小さな呟きだったけれどヒスイには届いたようで、ヒスイは「はい!」と元気よく言った。
この町が本当に復興を成し遂げるか。
それは当分先にならないとわからないかもしれないし、一生知らずに生きていくかもしれない。
それこそヒスイはこの町に再び降り立つことはないかもしれない。
わからない。でもそれが良い時もある。
このまま希望を持って旅ができるのなら、私たちが笑って旅をできるのなら。
「ヒスイ、そろそろ行こうか」
「わかりました!」
「気をつけろよ。それとヒスイ」
ギルはヒスイの肩を掴むと、耳打ちというよりも私に聞こえるように中途半端な声でヒスイに告げた。
「ライラを落とすのは至難の業だからな。何かあったらなんでも相談しろよ。すぐに駆けつけてやる」
「え、いや、その!」
「ギルはリアがいるでしょ」
ヒスイをからかいたいだけの意図は見えているためヒスイの肩に乗ったギルの手を叩くとギルは愉快そうに笑う。
そのギルの笑いを最後に私たちは旅を再開するのだった。




