復興を遂げるべき町。4
私も外に出てギルの横に並んだ。
ギルはそれでも黙っていた。
私たちの間に凍るような風が吹き抜ける。
寒さはあっても空気は澄んでいない。
この町の環境の悪さが私たちの体を蝕む。
「ここの星空綺麗なんだよ」
突然ギルが放った一言は、一見どうでもいい言葉に聞こえた。
でもそれが何よりも重要な言葉だった。
私には表現できることのない、感情と思い出の表現技法だった。
「この星空は守りたいって思うんだ。お前には空気の澄んでいない並大抵の星空かもしれない。でも故郷の星空っていうのは何よりの居場所だと俺は思ってる」
その言葉は確かに私にはわからない。
星空なんていくらでも見てきて、これより綺麗な星空を私は知っている。
空気は澄み、視界は晴れ、音も声も聞こえない。
そんな綺麗な星空よりも綺麗というのだ。
でもギルの言葉はただの感情論とは違う。
「居場所を守る。それは当然の義務かもしれない。でも迷いは簡単には消えないんだ。俺がこの先ここにいていいか、ここにいることによってリアを、大事な人を、大事な故郷を傷つけないか。臆病な俺には怖いんだ」
ギルは勇敢だ。
魔物とも戦えるし、度胸だって据わってる。
でも人はどうしても大切なものを守る時、臆病になる。
何かを失うかもしれないと、何かを傷つけるかもしれないと。
何も持っていない私とは違う、ちゃんとした人間なのだ。
それが羨ましくもあり、もどかしくもあった。
「ライラ、長年生きてきたお前に聞く。大切なものを守る覚悟と大切なものを傷つける覚悟、どっちの方が重いと思う?」
それは裏と表のような問いでありながら一つの大きな壁にも聞こえた。
表裏一体というものだろう。
私はきっと感覚が狂っている。
普通を生きた人間とは異なる思考を持つ。
だからこそ彼は答えを求める。
「どちらも重いものではない。人は守りながらも守りきれず、傷つけまいとしても傷つける。覚悟があったところで、変わりはしないんだ。だから重さはただの足枷だ。実際は重さなんて存在しない」
ひねくれた考えかもしれない。
答えになっていないこともわかっている。
それでもギルは満足そうに笑い、私の頭を鷲掴みにしながら撫で回した。
「お前らしいぜ」
答えは必要ないのだ。
それはただの飾りにすぎない。
本当に必要なのはギルが一歩を踏み出すための土台になるものだ。
「俺に外交をやれってことだろ。魔水晶はこの町が扱える品物じゃねー。売り捌くこともできないとすると一番いいのは取引と契約だ。ただリスクを考えて行動しないといけない。そのリスクを知った人間でないと外交はできない。俺しかいないってわけか」
「わかっているなら最初からそうしろ」
「人間、言葉がないと行動できないんだよ」
きっと私が言わなくても最後にはこの決断に辿り着いた。
それでも人間には交流というものがある。
言葉があって分かり合ったり、助け合ったりが必要な時がある。
私は知りながらもそれらを実行してこなかった。
今なら私の過去の過ちは無くせたかもしれない。
でも今はそのままでいいのだ。
私には今がある。
そして今の仲間がいる。
あとは彼に託すのみだ。
私の仲間、お人好しのヒスイに。




