魔族に襲われた町、アルタ。1
「リア」
ギルの口から出たのはきっとその女性のことだろう。
リアと呼ばれたその女性はギルに真っ先に向かい、抱きしめた。
「よかった。無事で」
ギルは何も返さず、ただその抱擁を受け取った。
その二人にあるのは単純な愛ではなさそうだ。
「悪い、肝心な時にこの町にいてやれず」
「仕方ないわ」
対応しにくいこの状況を感じているのは私だけらしく、ヒスイは感動の再会だと思って涙ぐんでいる。
やはり鈍感で単純だったかと自分の勘を見直そうと思った。
「リア、この町の状況は?」
ギルはリアとの距離を取ると、目を逸らしながら言う。
明らかな気まずさに私も戸惑うが、ヒスイは未だ感動の渦から抜け出せていない。
「町の人の多くは出ていってしまった。私は今、孤独になってしまった子供たちを集めている孤児院を手伝っているの。でも、食べるものも少ないから、山に行って果実を取ってきたところ」
「そうか。この町は元に戻りそうか?」
ギルの問いにリアはゆっくり首を振った。
その顔は絶望を混ぜた切ない顔をしていた。
「無理ね。子供も元気を失って、町の人たちも復興よりも次の町を探してる。ここではもう仕事はできないって」
リアの言ったことはあながち間違いではない。
ここまで破壊された町は、復興するのに時間がかかりすぎる。
次にいつ攻撃を受けるかもわからない。
見れば家屋はほとんど壊されてしまった。
しのぎで建てた建物などがあるだけだ。
住む場所もないのでは寒さにも耐えられない。
誰もがいずれ諦めていくだろう。
「あの」
そこで口を開いたのは、感動の渦から抜け出したヒスイだった。
「僕、試したいことがあるんですけど……」
「なんだ?」
ギルもヒスイの言葉に興味を示したのか、ヒスイの元へと歩いていく。
ヒスイは自分の両手を握り、静かに念を込めた。
杖を出すためだ。
杖をしまう魔法は最初から知っていたらしく、いつもは持たずに歩いていた。
手で生み出せる魔法は小さい魔法や防御の魔法のみ。
強大な魔法や広範囲の魔法は杖がないと制御が難しく、今のヒスイには難しいことだった。
それでもヒスイは出てきた杖を持ち、私たちのいる方向とは逆の位置にかざした。
息を整える姿勢は魔法使いそのものだ。
だが、ヒスイの魔力はまだ浮き出ていない。
やはり制御が難しく、出したい時に出せない。
「ヒスイ、無理は……」
私が言いかけた時だった。
ヒスイの魔力が膨張した。
でも暴発というよりも意志に沿った割合の魔力だった。
ヒスイは杖をゆっくりと動かし、魔力を杖に集め、目の前にあった瓦礫をどかした。
家一軒分の広さを確保したところで、ヒスイはまた杖に魔力を注ぎ込み、先ほどよりも大きな魔力を出した。
そしてヒスイが杖を動かすこと五分。
倒れた木や落ちたレンガを使った仮住居が完成したのだった。




