私を知る商人。3
この鉱石の名前は、魔水晶。
今や世界に流通している鏡の元素だ。
一見普通の鏡の原石に見えるが、実際、魔水晶は鏡に使われていない。
この鉱石は貴重で勇者の剣を作る時、国王の王冠を作る時、女王の魔法道具を作る時など滅多に使われることがない。
鏡はそれに似せて作られたレプリカ的なものだ。
「と、まあこんな感じで実際手に入ったらすごいってわけよ」
「どうしてこんな山の洞窟に?」
「ここはエテールからそこまで離れていない。水が綺麗で自然も多い。魔水晶は自然をエネルギーとして生まれるからね。ここは魔水晶には最適な場所だ」
昔は魔水晶も豊富に採れる時期があった。
もう三百年も前のことだが。
その頃は自然豊かでその時代の国王たちは自然を優先させていた。
他のことよりももっと重要だと言って。
結果、凶作も起こらず魔水晶も発生しやすくなっていた。
だが、そんな時代ももうとっくに終わった。
人間は進化を求め、自然を壊した。
結果、負の感情が魔物や魔族を引き起こす原因となっている。
今の人間に罪はない。
ただ、それぞれ人間にのしかかった小さな災いだ。
ヒスイやギルもそのうちの一人にすぎない。
「どうした? ライラ。アホ面が険しくなってんぞ」
「アホとは失礼だね。これでもギルよりは知識豊富なレディさ」
「ババアの間違いだろ」
「呪うぞ」
軽口を叩けるうちがちょうどいいとはこのことだ。
ギルは深入りしてこない分、関わりやすい。
だが、彼については不明なことばかりだ。
出身も、身分も、旅の目的もわからない。
「ギル、これをお前のところで売れないか?」
「……それは無理だな」
初めてだった。
ギルが明らかに顔を曇らせ、苦笑いを浮かべたのは。
その目にはこの先の暗闇が映し出されている。
「俺は用があってな。商人の職は一旦休んでいるんだ。それに手持ちもないしな。あと……」
ギルの虚しい顔を見ていたのが僅か数秒。
その次に待ち受けていたのは泣きべそだった。
「俺、食糧がないんだよー」
「僕たちもです」
ヒスイも私と同じ感情を持ち合わせたのか、鋭く言葉を挟んだ。
その様子にギルも肩を落とした。
これは次の町まで餓死を防ぐ旅になりそうだ。
「とにかく、食糧探しに外に出なきゃだな」
「この先に町があったよね。そこで……」
「いや、だめだ」
今日は珍しいことが多い。
ギルの口調が鋭く感じたのは私だけではなさそうだ。
ヒスイも不思議そうな顔をしている。
ギルは顔をうつ伏せたまま、口を開こうとしない。
何かを知っている。
でも言いたくない。
そう言う人間の顔だ。
「じゃあ行こう。ヒスイ。それとギルも」
「だからあの町は……」
「行かないとわからない。何が起こっているのか。それにギルも気になっているから力づくでは止めないんでしょ」
ギルほどの人間なら力は強い。
危険が待っていると知っていればヒスイを使ってでも強制的に止めるはずだ。
それをしないギルは何か知っていて、助けを求めている。
「わかったよ。同行する」
「決まりだ」




