私を知る商人。1
あれから日が傾くまで歩き続けようやく洞窟に辿り着く。
洞窟の入り口でヒスイが壁に手を当て魔力を感知する。
魔物や魔族が住処にしていると厄介だからだ。
私でもできるが、ヒスイにやらせることで特訓を兼ねている。
「どう? 何かいそう?」
「わずかですが魔力を感じます。ですが、魔物や魔族じゃないようですね。微弱すぎます。人間でしょうか」
この洞窟には結界がない。
誰でも入れるようになっていることから住処ではない可能性が高いが、人が出入りするような場所でもない。
「少し危険を承知で入ろう。もし危険な奴に出くわしたら、ヒスイは自分の身を守ることだけ考えて」
「わかりました」
ヒスイも素直で良い子だ。
私の強さを信じて自分の身は自分で守ろうとする。
ここに来るまで二匹の魔物に出会ったけれど、自分の身は自力で守っていた。
私の記憶が正しければこの洞窟を越えれば町があったはずだ。
その町で食糧を確保しなければヒスイが危ない。
私が持っていた果物は無くなってしまい、ヒスイが持ってきたものだけで生活をしている。
いつもこんなギリギリの生活をしていたら、旅も苦痛の旅になる。
ヒスイは背が小さいし、細い。
もっと食べて栄養をつけなければ戦闘中に大怪我をしかねない。
だが肝心の食糧がないのだ。
金になりそうな鉱石なら鞄にいくらでも入っているのだが……
「あ、この鉱石ここでしか取れないやつ」
「その鉱石何か特殊なんですか?」
「これはね……」
「おい、誰だ」
洞窟の先の方。
暗闇で見えないところから声がした。
ヒスイの光の魔法もまだ範囲が狭い。
自分達を照らすので精一杯といったところだ。
そんな中、会話をすることができる奴と出くわすのは運があるのかないのか。
ゆっくりと近づいてくる足音にヒスイは体を強ばらせる。
そのヒスイの肩を掴んで、ゆっくりと囁いた。
「大丈夫。落ち着いて。ゆっくり声のした方に光を向けるんだ」
ヒスイの手は震えている。
旅をしていて初めて私以外の声を聞いたのだ。
無理もない。
「意識を声の方へ。深呼吸しながらやってごらん。何かあったら守るから」
ヒスイは手をゆっくりと声の方へかざした。
うっすらと見えた影は背の高い成人男性のようだった。
光をこちらが持っていても歩いてきている。
度胸がある者なのは間違いない。
魔力からするに普通の一般人間。
私は一歩ずつ前へ進む。
その後ろをヒスイがついてくる。
ヒスイの光がその影に到達した時、私は目を見開いた。
それはあちらも同じ様子で……
「ライラじゃないか!」
「へ?」
ヒスイの間抜けな声と同時に、私はその人物の名前を口にした。
「ギルバート・ルシィ」




