魔法使いヒスイ。2
「って、呑気に話している場合じゃないんだ。一刻も早くここから立ち去らないと。いつ追手が来るかわからないからね。話は後だ」
「それなら僕、この森には詳しいんです。鍛錬サボってこの森よく散歩しているので」
鍛錬をサボっていることは誇れるものではないが、あの鬼のような父親を前にしたら私も同じかもしれない。
雲行きも怪しい。
先ほどよりも雨雲が広がっている。
これは彼に頼るしかなさそうだ。
「わかった。道は頼んだよ。えっと名前……」
「ヒスイです。ヒスイ・スタンリング。まあもうスタンリングは使う気ないですけど」
「スタンリング? どこかで…… まあいいや」
ヒスイの後を歩きながら、彼のことを観察していた。
金髪の髪は輝かしく、サラサラとなびいている。
白い肌はまるで女性のような綺麗な肌だ。
服装も淡い色のネクタイを締めていたり、茶色のおそらく高級なズボンを履いていたり。
貴族らしいお坊ちゃんだ。
他から見た私たちはきっと……
「そうだ。夫婦になろう」
「……はい!?」
ヒスイは今日一番大きい声を出した。
顔を真っ赤にして、口や目を開いたり閉じたりしている。
「いや、真似事だけどね。そのほうが色々旅をするのに都合がいい」
「あ、そういう……」
いかにも肩を落としたヒスイは、また歩き出す。
「ヒスイ、年齢は?」
「二十歳です」
どことなく元気がなくなったようにも見えるが、理由はわからないのでそのままにしておくことにした。
「二十歳なら尚更いいね。結婚していても問題はないし。独り身の旅は色々疑われて大変なんだよね」
そう。
私の元いたエテールだけじゃない。
他の町や都市では二十歳になると結婚をしている若者がほとんどだ。
村では十五で結婚していないと遅いというところもある。
そうなると独り身はかえって目立つ。
何か犯罪が近くであると独り身が疑われるのもよくある話だ。
偏見や差別的なものの類だろう。
ヒスイと夫婦を演じていれば、その疑いはあまりかからないし、食糧が安く手に入る時もあるかもしれない。
「あの、聞いてもいいですか?」
「何?」
何か言いづらそうなことがあるのか、ヒスイはまたモジモジし始めた。
二十歳なのに、この動揺の仕方は子供らしさがあるというか。
頼りない男をイメージさせる。
「どうしてさっき僕の炎に焼かれなかったんですか?」
「うぐっ」
痛いところを突かれたのか、当然のことなのか、ヒスイはチラチラと私を見ている。
薄々、只者ではないことは察しているのだろう。
「周りの土や、壁は焦げ付いていました。人間ならあの炎は焼かれてしまいます」
「私、不老不死の体なんだよ」
「不老不死!?」
ヒスイは考えてもいなかったのか、予想が外れたのか目を見開いて私の次の言葉を待っている。
怯えている様子はないが、これはこれで居心地が悪い。
「そう、呪いをかけられたんだ。ヒースっていう男にね」




