魔法使いヒスイ。1
「ごめん、聞き間違えたかも」
「聞き間違えてないと思いますよ。一目惚れしたって言いました」
完全に脳が停止するところだった。
でもそれもそうか。
私の悲劇の一番最初の原因はこの容姿だ。
この容姿に惹かれる男がいないわけじゃない。
ただ関わりを持とうとしなかったから四百六十五年何もなかったんだ。
「ごめん、一人旅だから」
「待ってください! 恋をしたから旅に出るんじゃないんです」
もう一度私の手を握る彼の手は少し震えていた。
嫌でもわかる。
この震えは本物の震えだ。
何人にも手を握られてきた。
恐怖の中救い出して、その恐怖から抜け出せずに手を握ってくる人物。
戦う前に怖くて震えながらも協力のために握ってくる人物。
彼の手の震えは勇気を出した時の震えだ。
冷たい手なのにどこか温かさを感じ、小刻みながらも隠そうとする。
「僕はあなたに命を二度救われました。ついていっても恩返しらしいことはできないかもしれない。でも、孤独そうなあなたを放っておけない」
孤独という文字を聞いた時、少しだけ目が開いた。
私に孤独という言葉を、こんな形でかけてくる人はいなかった。
私は現に孤独を感じていなかった。
孤独に生きていなければいけないと思ったから。
「僕もあの町で、一人じゃないのに、一人のような気がしていました。これからはもっと孤独に生きる道が待っているとわかっています。だから、僕が魔法を使いこなせるように旅に連れ出して欲しいんです。僕はあなたも知っている通り弱い。だから魔物と戦うことも、鍛錬もしたくない。それでもこの力、あなたのために使いたい」
確かに彼はまだ魔物と戦えるような力を身につけていない。
これから町に帰れば、鍛錬と孤独の道を歩むだろう。
その一因は私にもある。
それにもう見たくない。
親友アリーナのように私を守ろうとして傷つく人の姿を。
「僕はあなたのためにこの力を使うことを誓います。どうか主になってくれませんか?」
彼の手はしっかりと私を握っていて離さない。
これは頷くまで離さないだろう。
このしつこさはどこかアリーナに似ている。
ふと、アリーナとの会話を思い出した。
「私はしつこさだけは取り柄なの。だからあなたにいつまでもついていくわ!」と。
そう言っていた。
まるでこの少年はアリーナが差し向けたようだ。
「私はしつこい奴に弱いみたいだね。少しは変わったはずだったんだけどね」
私は握る手を握り返して、微かに頬をゆるめた。
「わかったよ。原因は私にもある。一緒に旅をしよう」
すると彼の表情はみるみる変わっていき、満面の笑みを見せた。
「はい! よろしくお願いします!」




