後日談のような始まり。6
「これ、何?」
彼は自分の手から出る炎を見て涙を浮かべていた。
きっと無自覚だったのだろう。
だからこそ厄介なのだ。
火を消す方法を誰一人知らない。
怒号を上げていた男は何もできないまままた怒号を上げている。
これでは示しがつかない。
「え、どうして、僕、炎なんか」
パニック状態だった。
誰も落ち着いていられない。
このままでは彼にまた火種が回る。
そうなれば彼はまた制御できないうちに人を傷つけることになるだろう。
業火に焼かれて町ごと滅ぼしてしまうかもしれない。
「どうすれば……」
涙も炎の中に消えていく。
次に彼が声を上げれば、この炎は取り返しがつかない。
この炎を止める方法は一つ。
彼を落ち着かせることだ。
でもこの炎ではパニックを与えることしかできないだろう。
この町の人間なら。
でも幸い私はこの町の人間じゃない。
彼とは出会ったばかりだ。
何も知らない。
だからこそ、彼にとってはメリットになるかもしれない。
私はゆっくりと炎の中に入っていった。
確かに身を焼かれるような温度だった。
普通の人間なら死んでいるだろう。
「お姉さん! 入ってきちゃ……」
「いいから。落ち着いて。心を沈めるんだ」
入ってきたはいいものの深い人間関係を築いてこなかった私は言葉の掛け方を知らない。
彼は炎で私が焼かれて死んでしまうと気持ちが落ち着けない。
私には言葉は向いていない。
なら、行動あるのみだ。
「お姉さ……」
私は彼を思いっきり抱きしめた。
炎よりも私に意識が集中するように。
それでも炎は完全に消えない。
まだ私が焼かれるという意識がある。
それなら。
「ごめんね。先に謝っておくよ」
「どうして……」
私はいつかのように唇を彼の唇に合わせた。
行動しかないとはいえ、こんな形しか取れない私は酷い。
でもこれが意識を逸らすのには絶大な効果があると知っていた。
不本意でもヒースにされた時のことを覚えているから。
「な、んで……」
「大丈夫。私は焼かれない。君の炎は私を焼かない」
その瞬間、炎が彼の中に収まっていった。
町に静けさが戻る。
でも今度の静寂は心地が悪すぎる。
「……焼かれていない」
始まった。
彼の炎よりも私に視線が集まる。
怒号を上げていた男も信じられないといった顔で私を見ていた。
畏怖の対象だ。
「怪物だ……」
何度聞いた言葉だかわからない。
でももう傷つきもしなかった。
「ここでの食糧は諦めだな……」
さっさとここから去ったほうがいい。
この後何が起こるか知ったものじゃない。
私は彼から離れると、急いで先ほど来た方向とは逆の森へ走り出した。
「お、追いかけろ!」
「やっぱりね」
あの男は脳筋だ。
次にあの視界に入ったら敵とみなされる。
早いうちに隠れなければ。
そうして、故郷エテールとは三十分もしないうちに別れた。




