雨降る夜に魔法の魂。1
急いで書庫を出ると、ちょうどやってきたノースが怪訝そうにこちらを見た。
「ゆっくり歩いてください。ここは……」
「レインと魔王が現れた可能性がある」
その言葉を放った瞬間にその場が騒然とした。
衛兵もノースも言葉を失いながらも動揺している。
ノースは持っていた本を落としても拾えないほどの動揺ぶりで衛兵に指示も出せない。
やはり推測でものを語っていたのだ。
もし本当にその可能性を考えていたのなら対策があったはずだ。
理不尽に思いながらも今この状況を変えなければいけないことは変わらない。
「ノースは強めの衛兵を引き連れて南東の外郭の外れに! 私たちは先に行って魔王の痕跡を追う!」
「ま、待ってください。なぜ魔王がきたとわかるのですか?」
「魔力だよ。強大な魔力が今、放たれた。魔力に強い魔法使い、あるいはこの城にいるお偉いさんたちは今の違和感に気づいたんじゃない? 疑うなら聞けばいい。ただ急いで」
おそらくだが、ノースは魔力をあまり持っていない。
どちらかといえば武力家だろう。
だから今の違和感にも気づかなかった。
私やヒスイほどの気づきは少ない。
でも魔法使いなら確実に今の魔力量は気づく。
そう言っている側から城が慌ただしくなった。
宮廷魔法使いが騒いでいるのだろう。
階段を駆け降りてくる人物も見える。
「まさか、本当に……」
降りてきたのはおそらく魔法使い。
身なりからして偉い立場だろう。
その姿を見たノースは事実だと気づいたのかさらに呆気に取られた。
「ノース! 急いで!」
正気を失いそうになっているノースを元に戻しながら私たちは城を出る支度をする。
ヒスイはいつでも杖を出せるよう魔力を手にこめている。
「わ、わかりました! 衛兵は準備を整え門前に集合! 私は宮廷魔法使いを連れてきます!」
「了解。頼んだよ」
そう言い残して私とヒスイは城を駆けて行った。
門番にも止められないところを見るとノースはもう手配したのだろう。
実力はある人間だが、この国に染まりすぎているといったところだろうか。
「ヒスイ、飛べる?」
「はい! 任せてください」
ヒスイはいつも通り私を抱え、空に飛んだ。
その速さは今までよりもずっと速い。
それほどまでにヒースに因縁を感じ始めているのかもしれない。
「方角は変わってなさそう?」
「あの瞬間の魔力はもう残っていません。おそらくはヒースは魔力を消してどこかに隠れているはずです。レイン・ジャックはどうか知りませんが、魔力の動きが微弱になって追跡しづらいです」
「わかった。とりあえずさっきの位置に向かって。追跡はそれからだ」
私は魔法使いではないからもう魔力を感じない。
ヒスイはわずかながらに感じているようだが、ヒースの力となれば魔力を消すことも可能だ。
レインもヒースもいない可能性が十分にある。
「スピードを速めます。掴まっていてください」
そうしてヒスイは風を切る速度を速めた。
少し怖い思いをしながらその位置に着いたのだった。




