後日談のような始まり。5
都合のいいことだけ首を突っ込んで、都合が悪くなると見て見ぬふりをする。
誰だって厄介ごとは避けたい。
私だってそうだ。
鉛のように重たい空気。
息が吸いにくい威圧感。
常人だったら涙ぐみたいこの怒号。
それを彼は毎日のように味わっているのだろう。
先ほど森で会ったのも納得だ。
「隣の奴は誰だ。まさかそいつと呑気に遊んでいたわけではあるまいな?」
飛び火にも程がある。
そう叫びたいくらいだった。
これは私も何か言わなくてはいけないな。
そうしないと早くここから立ち去れない。
そう思った矢先だった。
「この人は僕の命の恩人です。森で魔物に襲われていた僕を助けてくれました。それで……」
「魔物に襲われただと? 魔法で撃退していないのか。全く恥知らずめ。それともこいつが手を出したのか?」
話を聞く耳を持ち合わせていない。
一瞬で堅物だと理解した。
彼は勇気の一言だったに違いない。
それを土足で踏みにじる行為に少し腹の中が煮える思いをした。
久しぶりの不快だった。
「あのさ」
「ふざけないでください……」
不快に達したせいで言葉が悪くなるのを覚悟していた。
でもその言葉を遮ったのは誰でもない彼だった。
震えているのはきっと恐怖じゃない。
もう既に怒りの震えに変わっている。
その瞬間に彼から感じる魔力が変わった。
人並みとは思えないほど、強い魔力だった。
「あなたに何がわかる。あなたが僕のために何をしてくれた。父親だなんて、そんなの……」
「まずい、早く離れ……」
私の勘が正しければこの場は危険だ。
そう察知したのに、判断が遅かった。
いや正確には彼の魔力の膨大が早かった。
「ふざけるな!」
彼の言葉と同時に周りに炎が立ち上る。
彼を守るかのように炎は彼を包み、周りにいるものを溶かしてしまうような熱を持っていた。
「これは……」
今まで怒号を上げていた男も唖然としていた。
ここまでの魔力を感じていなかったのだろう。
普通の人間は魔力を隠すことはできない。
そう、普通の人間は。
ここまで魔力を隠せる人物を私は一人しか知らない。
彼は一体……
だが、考えるのは後だ。
このままでは炎が燃え上がる。
周りの物どころか町が燃えてもおかしくはない。
これ以上彼を刺激するのは危険だった。
町の住民たちも恐れて離れていく。
まるで過去の私を見ているようだった。
「おい、火を消せ! 早くだ!」
先ほどまで唖然としていた男もこの事態に気付いたのか町民に指示を出す。
だが誰も答えようとはしない。
厄介ごとは御免だから。
「何をしている! 町が焼かれてもいいのか!」
まずい展開に私は一度息を呑んだ。
この魔力は簡単に消せる物じゃない。
そして何より彼自身が驚いていた。
それは制御できていない証拠だった。




