日常になるはずだった日
本当にすみません。まじで案が思いつかない
まだ朝食の時間まで時間があったのでそらは自室まで歩いているのだが……
「まじで何考えてんのか意味わかんねえ」
状況を整理すると……
1、自分たちはこの世界に何故か異世界転移してしまった。
2、これは夢ではない
3、眼の前でエルフが殺されてしまって
4、職業強化術士になったと思ったらそれは雑魚職業、更に神のご加護とやらもない。
5、毎日図書館に通い続けて4日め?で謎の本を発見
6、それを見てみたらなんとこの世界の真実と書かれたものだった。
7、それについて巫女から聞き出されるかと思ったが何もなく、神をもっと信仰するようにとだけ言われて追い出された……
(おーう、なんか特殊すぎる)
ここからどうなるのだろうかとそらは考える。
遠征する的なことを行っていたため迷宮を攻略するのは確定だろう。というかそれ以外やることがない。現時点では邪神の存在は確認されていないらしい。なら呼ぶなよという話ではあるが、早めに準備をしたいのだと言う。
現地の何も知らない人々のメンタル的に、邪神降臨の兆しが見えるだけで何かに縋りたくなるものだろうから、それで呼び出したのだろう。
(結局巫女は何を考えているんだよ)
泳がされているのか、それとも単に気づいていないのか、それとも言いふらされても大丈夫なのか。いずれかに当てはまりそうではあるが……
泳がされている可能性が一番高いだろう。引き続き警戒を続けていかなければならないかもしれない。
今日は曇天だ。まるでオレの心をそのまま天気にしたようで_
(不穏な気配を感じる)
何も起こらないことを祈りつつ、二度寝をするため部屋に戻った。
♢♦♢♦♢♦♢♦
そらがこの世界で唯一救われたのは生活の快適性だろう。
昔の勇者たちのおかげなのか、ベットはふかふか、部屋の隅々まで掃除は行き渡っていて明かりも暗すぎず明るすぎずの絶妙な塩梅で備品からも仄かな洗剤の匂いがリラックスを促す。
更に訓練開始が10時と遅くそれもまた救われている。
「はー……地球にいた頃の俺だったら今頃はゲームをしている頃合いか……エイムがすっげぇ衰えていそうだ」
地球にいた頃の癖というのはなかなか抜けないものだ。
一番大きいものだと無意識レベルでゲームのことを考えてしまうことなどだろう。
そらはプロゲーマーという職業の都合上、暇なときはゲームのことをずっと考えているのだが、それが今でも無意識にやってしまうことがある。
(まぁ、現実逃避は終わりにして)
「強化……の精霊、創世神レベナ様、世界の理を……?読み解き、我にまばゆい強化のちからを?……『バッファー』」
強化魔法の詠唱である。
これは中級の詠唱で、神のかごもスキルも持っていないため詠唱を短縮できるはずがなく、いちいち結構恥ずかしい詠唱を大声で叫ばなければいけないのだ、現実逃避もしたくなるだろう。
(しらんが)
はぁ……とため息を付きつつぶつぶつとつぶやきつつ強化魔法を練習していると扉がノックされた。
ビクッと驚きで体が飛び跳ねてしまう。
「……は、は~い?」
結構恥ずい詠唱を聞かれていたかもしれないと思うと無性に恥ずかしくなるがそんな事を言って魔法を出し惜しみするわけには行かないため、そんなものだと自分を奮い立たせ、玄関へ向かう
誰だろうかと思いつつ扉を開けると_
「こ、こんにちは、藤田さん、今、お時間……大丈夫でしょうか……?」
そこにはあの露出の高い服を着た花凪がいた。
本当に必要最低限しか隠されていないためこちらとしては見てしまうかもしれないという罪悪感と見たいという欲望が渦巻いている。
(いやキモいこと考えるな藤田そら)
何も考えずにとりあえず家の中に入れてしまう。
つい癖で入れてしまったのだがひょっとしてまずいんじゃねとか思いつつ花凪の方を見てみるとにっこにこで正座して座布団に座っているため大丈夫そうだった(?)
ここで何も出さないのは漢としてのプライドが傷つくと思ったのでコーヒーを淹れ、出した。
「……ふぅ……おいしい」
一息をついたらしく花凪はとても幸せそうな顔をしているのだが突然、姿勢を正したかと思うとそらの方に向き直る。
「藤田さん、巫女の方からなにかされてないですか…?」
深刻そうな表情をした花凪からその単語が出てくるとは思わず、少し驚いた。
巫女のこと……
「今は特に何もされてないけど」
少し目をそらしつつ言う。
そうだ、今は何もされていない。が、いずれ何か干渉があるだろう。そう考えておいたほうがいい。
「今は……?どういうことですか」
「うーん……色々あって……」
濁すように言うと花凪は意を決したような表情で言う。
「反逆者の事……ですか?」
今度こそ驚いた。そして自分の警戒の薄さに絶望した。
眼の前の人間は花凪なのか。花凪は巫女の言いなりになったりしていないのだろうか。何か洗脳されていないのか__警戒が甘かった。空は歯噛みする。
だが幸いなことに何もボロは出していない。
なんで知っているのか、それは疑問だが少し話しすぎたかもしれない。
「……」
何も言うことができず沈黙していると
「そ、そうですよね……私、図書館でとある本を見つけたんです」
花凪がぽつりぽつりと語りだした。
それは全く自分と同じ経緯で、だからこそなぜ神の加護を持っている彼女が読めるのかが不思議でままならない。とても疑わしいものだった。
(どっちなんだ、花凪を信用していいのか)
「藤田さん。私を信用してくださいとは言いません。けれども、もう一回あの本を見れたら見てみてくださってもらえませんか?。藤田さんの本の一番うしろに数字が書いてあるはずなんです。それをつなぎ合わせれば真実にたどり着けるらしいので、見てみてください。あ、あと私のを伝えておきます。私のは31 25 52 22って書いてありました」
一応メモをしておいた。
「朝早くからありがとうございます。それでは」
結局花凪は20分ほど話したあとどっかに行ってしまった。
そらの印象はあまり良くなかっただろう。
だがそらはそうすることしかできなかった。
初日に人の命の軽さを見せられて、誰も信用することができないという事実が今、そらの精神を地味に削っている。
一番信用できるのは彩女と花凪だろうから、それを逆手に取られて何かをされるのが一番厄介だろう。
何事もないだろうと思っておきつつもあるかもしれないと身構えておいたほうがいい。それをこの世界からそらは学んだ。
この世界は異世界。奴隷も存在するし、帝国なども存在する、地球とはかけ離れた土地。だから、常識などは通用しない。
何か起こってからでは遅い。どんな小さな可能性でも、疑ってかからなければならない。
疑うようで申し訳ないと心のなかで花凪に謝りつつ、朝食の時間になったため食堂へと向かった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
朝食を食べた後はいつも通り訓練に取り組んだ。
詠唱、込める魔力量、イメージ、全て悪くないらしい、悪くないらしいのだが強化魔法の付与成功率と成功率がかなりネックだ。
全然成功しない為、全く実用的じゃない。
こればっかりはどうしようもないらしくただ敵を倒して、ステータスポイントを稼ぐしかないんだそう。
だがまだ訓練な為、ポイントを獲得できない為ただただ繰り返し練習して手際を良くするしかできない。
虚無感がそらをおそう。
繰り返し繰り返し、魔物も倒せないため昼食を食べ、訓練場の隅っこでただただ恥ずかしい詠唱を言わされ、俺は何をしているんだろう。とそらは思ってしまった。
本当に代わり映えのしない景色が続く。魔物でも倒せたら楽しいだろうが、全然倒せなさそうである。
中級の強化魔法【攻撃】の効果は攻撃力を×3するだけ。上級は×10。聞けば強そうに見えるが、実際は10攻撃力が100になるだけ。そんなものは全く意味がない。
100と言ったらボクサーのパンチ程度の攻撃力でしかない。そらが魔物に通用するわけがないし、そもそも体術などの心得は全くないため、近寄ることすらできない。
「うぅ……魔力不足だぁ」
お約束のようなものになっている魔力が不足してしまうと弱体化してしまうというのもこの世界には存在する。
血液の中に魔力は存在しているらしく、体中を巡っているらしい。普通は外から取り入れていて切れることはないが、使いすぎると魔力が呼吸で接種したものだけでは足りなくなり、なぜか倦怠感、頭痛吐き気などの症状が出るらしい。
(酸素のようなものなのだろうか。)
魔力不足はいわば貧血のようなもので、魔力回復薬を飲めばすぐに治る。
♢♦♢♦♢♦♢♦
魔力不足に3回ほど陥りつつもただ腕をかざし続けた。その結果腕が筋肉痛になって何も起こらなかった。だが今日、そらが調べたかった本題はこれではない。
実は今日の朝__
♢♦♢♦♢♦♢♦
「ん? なにか入ってるじゃん」
今日朝起きて洗面所に向かうと玄関のいつもは新聞が散らかっている部分に便箋が落ちていた。
内容はこんなものだった
『今日の6時にメインホールの方に来てくれ。誰かに言ったら……どうなるかはご想像にお任せする』
と几帳面そうなきれいな字で綴られていた。
(いや物騒。俺なんかしたっけ? 借金取りに狙われたりしてたっけ?)
こういうときにどうでもいい空想をできる自分自身にそらは敬意を示しつつ、改めて心当たりがないか考えてみる。
巫女からの手紙、そう考えるが、巫女の筆跡とは異なる上に、こんな脅すような手紙を書く必要がないだろう。
違うとなると本当に心当たりがなくなる。本当に誰がこんなものを渡してきたのかがわからない。強いて言うならば面倒くさいあの腰巾着共が頭をよぎるがこんな字がきれいなワケがない。
脅迫だがそれを誰かに相談したところで状況が良くなる未来は見えない。むしろ悪くなるだろう。それならば今日行って確かめるしかないだろう。
♢♦♢♦♢♦♢♦
ということがあり、図書館に行くにはメインホールを横切って階段に向かわなければいけないためついでに寄っていくことにした。
時刻は5:59分。メインホールは目と鼻の先で遅れることはないだろう。そう考え少し歩くのを遅め、メインホールについた。大きめの扉が空いていたため中に入る。
メインホールはコンサートホールのような雰囲気を感じさせる場所で観客席と演劇などができるステージ部分で分かれている。
どちら側に行けばいいなどは一切書いてなかったため一切どちらに行けばいいのかわからないが、わざわざ誰かが入ってきたら一番最初に見るステージに居るわけがないと考え、客席の方に向かった。
それからしばらく10分ほど誰かいないか探していたのだが、
(あれ? 誰もいないぞ……)
人影が全く見えないのだ。
もしかして自分がついたのは6:01だったのか?などと思ったりしてみるが、確かに6:00についたはずだ。
なぜ誰もいないのだろう。そう、頭の中でぐるぐるとその言葉だけが渦巻いていた。
気づけば無意識に歩いていた。探しものをするように無意識にウロウロとしていた。
そして突然__
普段嗅ぐことのない匂いがツンと鼻腔を突き刺すような感覚に襲われた。
(これは……血!?)
大量の血があるような匂いで、ついさっきまでそんな匂いはしなかったのに、ついさっきそこに通ったのに、そのときには何もなかったのに急になぜか血の匂いがし始めたのだ。
急いでそちらに向かうと誰かが自分の入った方から反対の方のドアからメインホールを出ていくところが見えた。
「ま、まて!」
何をどう考えても犯人だろう。この状況で人が倒れているのにメインホールから急いで逃げるように出ていくなど犯人としか思えない。
どこかで見覚えがあるような小柄で華奢な体はメインホールを出て、どんどんと遠ざかっていく。
「くそっ! …そうだ! 人!」
誰かが倒れている。頭は血溜まりに使っていて血がぜんぜん乾いていないのを見るに、ついさっきの犯行だろう。
「誰か! 人が倒れているんです!」
そらが大声を張り上げると、外にいた人が気づいたようで、人を呼んでくれている。
(なぜ音もなく殺すことができたんだ……?)
「いや、ここは異世界だから何でもありなんだろう…」
そんなことはどうでもいいと割り切ってそらは脈を測る。
「……くっ。手遅れ……か」
すでに脈は止まっており、体も冷たくなっている。
冷や汗が止まらない。なぜ殺されているのか。もしかしてそらはさっき殺されかけたのかもしれない。それを見てしまったため殺されたのかもしれない。そらはそう思った。
誰がこんなことの被害者になってしまったのだろう。そらは申し訳無さが一杯で、顔を見てみると……
「た、田中!?」
普段そらに何かと絡んでくる田中の顔がそこにあった。
いつも絡んでくるとはいえもしも巻き込んでしまったのだとしたらそれは申し訳ないし、そうじゃなかったとしても冥福は祈るべきだろう。そう、そらは考え、冥福を祈った。
「田中さん!?」
後ろから声が聞こえたと思ったら、そこにはつい先程訓練場で分かれた花凪がいた。
おそらく時間的に食堂にいたのだろう。
先程のそらのように一抹の希望を顔に浮かべながら腕に手をやって……顔に絶望の色を浮かべた。
「………何があったのか、聞かせてもらってもよろしいですか?藤田さん」
が、すぐに気丈そうな顔に戻り、俺に説明を求めた。
あとからクラスメイトが田中を除いて全員そろい、全員がそらの話を聞いた。
頑張ります