真実
前話と打って変わってかなり重めなのでご了承を
他のエピソードを書き直したので、そちらをお読みになってからこちらを読んでいただくとこの話を理解いただけると思います。
火照っていた体を冷ます為、夜風にあたった後、そらは図書館へと向かっていた。
今日で転移してから4日目となる。
そらは毎日できる限り鍛錬と読書に時間を割いていたため、三十分の一程度は読破した。が、本当にありとあらゆる時間を削り読んだ結果がこれなので先が思いやられる。
今日は魔法学について知ろうと思っている。
魔法学というのは文字通り魔法の勉学で、この世界では理科の代わりに習うらしい。魔法の発展の歴史について学ぶ時もあれば実技について学ぶ時もあれば、理論について学ぶ時もある。
今日は「強化魔法の歴史」という本をそらは読むことにした。
読んでみると、強化魔法というのは比較的歴史が浅く、新しい魔法で、なんでも反逆者が作り出した魔法らしい。
だから、強化術士は煙たがられるし、嫌われている。
しかも成功率が15%ということもあり、誰もが認める「ハズレ魔法」となっている…らしい。
廊下で家臣達とすれ違うと舌打ちされたりすることがある。いくらなんでも強化魔法嫌われすぎだろと思っていたが反逆者が創造に関わっているとなると嫌われるのも妥当だろう。
(ん? っていうか反逆者って何したんだ? よく考えてみれば何をしたのか知らないなぁ)
反逆者だから何か国に反逆するようなことをしたのだろうが、知的好奇心から具体的にどういったことをしたのかというのを知りたかった。
そのため反逆者について調べることにした。
机の上に先程ピックアップした本を置いたのち、再び立ち上がり、本棚の方に向かった。
(確かこのあたりのはず)
あたりは暗闇で、手に持つ朧げな炎を頼らないとよく見えないが、歴史書はここら辺だったと記憶を思い出しながら進んでいく。
本棚の近くになると、炎を近づけてそれっぽいタイトルのものを探す。ちなみにこれは魔道具なので本に燃え移る心配はない。
そして、不便な中懸命に探していると
ガタン!
と何かが落ちた音がした。
(えっ、な、なんか結構重そうなものが落ちた音がしたんだけど)
この城は防犯の都合上周りが断崖絶壁で囲まれている。つまりもし誰かが落下などしていたら__
(でも図書館内で聞こえたような気もするんだよな)
図書室内は誰もいないはずだが、とりあえず怪我をしていたりしたら大変だから見回ってみることにした。
ぐるぐると同じような場所を繰り返して回っていたら、床に本が落ちていた。
(あれは……本……? さっきの音はこれか? まあかなり見た目重そうだし、これならあの音してもおかしくないか。)
そう考えると、そらは落ちていた本を拾った。
(これは……「反逆と世界の真実」……?)
何やら意味深なタイトルをしている。真実ということは、隠している事があるということだ。(小泉構文)
ふざけている場合ではない
(ここは城の図書館なわけだから魔族の戦略によって置かれている本ということもなさそうだし……読んでみるか)
過去に一度あったらしいのだが、魔族が書いた本を読むと洗脳されたという事例があったらしい。
が、そんな魔族に洗脳されるような本をおいているとは思えなかったため、読んでみることにした。
(それにしても、今までなんでこの本素通りしてたんだろ。あそこらへん、よく行ってたからこんな本があったら読んでると思うんだけどなぁ)
ぱらぱらと軽くページを捲ってみる。
すると、驚愕の内容が書かれていた。
【この本は打倒神軍_人間界で言うところの「反逆者」によって書かれた本だ。いまから、僕たちが反逆者と呼ばれた出来事と、この世界の真実を説明していく】
(反逆者……ちょうど知りたかったところだ、何が書いてあるんだ)
さらにページを捲ってみる。
【まず、僕たちは反逆者であって、反逆者ではない。どういう意味かと言うと「人間に反逆した」のではなくて、「神に反逆した」のだ。だから、詳しく言えば「反逆者」ではない。が、なぜ反逆者と言われているのかというと、僕たちが神がおかしいと主張しても、信仰が深すぎて、異端者だとしか思われないのだ。だから、反逆者というレッテルが張られてしまった。この世界の神はとても狡猾で、下劣で、クズだ。神の加護という名目で術式を施し、人々を洗脳し、駒とし、ただ、面白い劇を鑑賞しようとしているのに過ぎない。人間はそのクソ神の言うことを信用して、何もしていない、基本的にはテリトリーに入ってこなければ無害な魔物たちを虐殺し、亜人たちを差別し、玩具とし、この世界の支配者気取りをしている。これこそが、神の見たかった「遊戯」なのだ。こんなクソ神の掌の上で踊るなんて、意味がない。だから、君__神の加護を持っていなくて、反逆者に興味があるのであろう、君にすべての命運を任せた。神は神の加護を受けていない才能があるものには加護を刷り込もうとするだろう。だが、才能がないものには加護を与えようとはしない。つまり、加護を受けていないかつ、才能がないと「思わせられた」君しか託せない。頼む、どうか、僕たちの作った「七つの島」を攻略して、神を倒してくれ。倒してくれるのならば、次のページから、攻略の仕方を書くつもりだから、ぜひ見て、攻略してくれ】
と書かれていた。
試しに次のページを見てみるが、本当に攻略をする際のトラップなども詳しく書かれている。図書館においてあった「悪魔の島攻略大全」よりも情報が詳しくて、見るからにあの本より古いはずなのについ最近判明したトラップの解除方法なども乗っている。
(神の遊戯……?)
陰謀論のように見え、魔族のトラップのように思えるが、そうなのだとしたらなぜこんな細かく反逆者のことを知っているのかという話になる為、十中八九反逆者が本当に書いたのだろう。
思えば不思議な点はいくつかあった。
なぜ討伐隊なんかを組んでいるのか。あのとき巫女は「討伐隊を組んでいる」といっていた。同時に人員が足りないとも言っていた。
たかがゴブリンごときを討伐するために討伐隊を組んでいて、
冒険者などを編成すればいいのになぜ編成しないのか。
この世界の冒険者は野蛮なものでは決してない。ギルドに入るには試験を受けるし、魔物の取り扱いなどについてしっかりと学ぶ。魔物は悪だと考えている国とは違い、「命を頂戴している」という考えを大事にギルドは活動している。
討伐隊というぐらいなのだから、冒険者、騎士なんか問わず、力を借りればいいものなのに、なぜか騎士団だけで行きたがる。
それはおそらくだが、「市民に知られたくない」からだろう
派遣場所を聞いてみたところ、そこは「魔族領」だった。
なぜ魔族領の魔物を討伐しに行っているのか。
それは明らかにおかしい。国民もそんなことに税が使われているとわかるとおかしいとなるだろう。
さらに最近魔力石が枯渇しているなどの話を聞くこともない。
なぜ討伐しているのかはわからないがなぜか行われている無意味な魔族討伐、そして市民には隠されていて、しかもこの本によると、「神の遊戯」とやらが行われている。
最初からなにかおかしいと思っていたが、これは警戒しないといけないかもしれない。
祐希達ほどマークされていないだろうから、すぐに動きがあるわけではないだろうが、神にとって「神の遊戯の存在を知っている人間」以上面白いおもちゃはないだろう。
洗脳されたりしないように警戒しなければいけない、そう思うそらだった。
(まあ、そういうやつってだいたい洗脳されるんだけどね。僕が何をしたって無駄だろうし、警戒するぐらいにとどめておこう)
これがフラグにならないことを祈るしかない。
本を元にあった場所に戻そうと重い腰を上げ、ずっしりと重い本を持ち、ミシミシと音を立てる廊下を歩き、先程落ちていた近く辺りについた。
見上げるとちょうど手に持っているこの本の横幅程度の隙間が空いている。
本を持ちあげ、その隙間にはめ込んだその時。
甲高い警報音が図書館を包みこんだ。
「!?」
(そうだよなァ! こんな本を何も警戒せずにおいておくわけがないもんなぁ! ふざけんじゃねえぞ! やばい!)
警報音は10秒ほどで鳴り止やんだが、急いで近くに身を潜めるが、誰かがやってくる様子はない。
(……?妙だな、どういうことだ……?)
10分ほど経過してもなにかがおこるわけでもなかったため、気味の悪さを感じつつも図書館から出ていった。
♢♦♢♦♢♦
「セレスティア様。例の本で進展がありました」
ベランダのような場所から空を眺める、巫女。その背後に、忍びのような格好をした女性が現れる。
「……何が起こったんですか~?」
「ソラフジタ様があの本を読んだようです……わが国の秘密に気づくのも時間の問題でしょう」
先程まで慈しむような慈愛に満ちた表情だった巫女だが、その報告には顔をこわばらせる。
「そうですか……では、明日特別な『質問』をするとしますか」
「わかりました……部屋の手配はしておきます」
「助かるわ。ありがとう」
そう、巫女が呟くと、女性は残像を残し消え去る。巫女は遠くを見つめるとふと、声を漏らした。
「いっそのこと、ころしてしまおうかしら」