訓練開始
遅刻常習犯
そらは布団から出たくない、そう思いつつ、重い腰を上げ、起き上がった。
外はとても肌寒く、日本だと2月くらいのように感じる。
どうやら自分たちは宿に泊まるわけではなく、この城にある客室のような場所を借りて生活するらしい。
1階に、会議室や食堂、大ホールや運動場諸々があって、2階は図書館と謁見の間、3階と4階は客室、5階は騎士団のスペース、6階が皇族たちの部屋になっている。
身支度を整えて、1階にある会議室に向かう。
どうやらざっくりとした事情しか知らないクラスメイトたちに詳しくこの世界のことについて教えるらしい。
教えてくれるのは騎士団長のドラフィティという人物。
浩太郎に負けず劣らずのがっしりとした体型、短く刈り上げてある茶色い髪に綺麗に揃えられた髭が特徴的な人物だ。勇気の象徴である赤いマントをつけていて、鎧なども見るからに高性能そうな鎧を着ている。
かなり豪放磊落で面白いため、会ってから10分ほどでクラスメイトたちと打ち解けていた。
「この世界には悪魔の島と呼ばれる、古代の反逆者たちが作った浮遊島が存在する。その島には迷宮がいくつもあり、とても強力な魔物たちが連携して襲ってくる、非常に危険な場所だが、良質な魔石を手に入れられる上、レベル上げや、実践経験を積むにはうってつけだ。七つ島があるんだが、七は不吉な数字だからな、悪魔の島と呼ばれているんだ。最終的にはお前らには悪魔の島の一つ、『ヴァジアニア島』を攻略してもらおうと思っている」
そらは図書館である程度この世界について知っていたため、暇を持て余していたが、大迷宮については知らなかったため、興味がわいた。
古代の反逆者とはなんなのか。
なぜそんなものを作ったのか。
考えれば考えるほど謎は出てくる。
異世界は謎が多い
△
座学は一時間ほどで終わった。
これからは「戦士職」と「攻撃魔法職」、「支援魔法職」に分かれて訓練を行うらしい。
強化術士であるそらは支援魔法職の訓練を受けることになる。花凪や彩女も一緒の訓練を受ける。
そこでは支援魔法の詠唱や種類などについて学んだのち、訓練場に向かった。
訓練を行おうとしたその時、団長から声をかけられた。
「おまえら! 神宝石をもらったか?」
団長の問いに全員がクエスチョンマークを頭に浮かべる。
「説明されてねぇみたいだな……神宝石っつーのは、神の加護を刻印できる宝石のことだ。一人ひとり宝石の種類が、違うから鑑定しないとわかんねぇから、今まで配ってなかったんだが、巫女から鑑定結果の資料が届いたから渡せるわ」
すると団長は茶色の麻袋を掲げる。
その中には様々な色を放つ宝石が詰め込まれていた。
「おう、ソラフジタ、お前は「ソーダライト」という宝石のようだ。お前は加護がないらしいが……まあ、支援魔法で前衛組を支えてやればいい! 得意不得意はあるだろうしな! 応援してるぜ!
ちなみに石言葉は「勇気・判断・計画」らしい。たしかにお前、几帳面そうだしな! まあ、鍛練を怠るなよ!」
励ましの言葉を明るくかけてくれる団長に感謝しつつ、神宝石を改めてみてみる。
丸い水晶のような形をしていて、淡い水色が筋のようにはしっている。が、とても爽やかな水色で、透けて見えるほど純度が高い。
可愛らしい宝石だなぁとそらは思いつつ、ポケットの中にしまった。
その後は団長のスパルタ訓練を行い、自分の状態を確認することができた。
そらは魔法適正がなく、攻撃魔法が絶望的なまでに使えないのだが、そのかわりというべきか、支援魔法に特化しているようだった。
魔法にはランクが存在する。小さい順に、初級、中級、上級、超級、帝級、天級、神級の7段階が存在する。
初級は練習すれば適正関係なく使えるもの、中級からは適正があれば一発で使えるが、適正がないと1年ほどの修行を積まなければならない上、威力も低く、詠唱も長いため、ほぼほぼ適正魔法でしか使わない。上級は適正魔法で一発で使える最上級のもので、適正がないと3年ほどの修行をしてやっと使えるかレベルである。超級より上になると適正があっても一発で使う事ができず、修行を積んで、やっと使えるようになるもので適正魔法以外は一切使えない。特に神級はここ200年で発動できたという例が存在しないため、都市伝説のようになり始めている。
そらは強化魔法の上級を使うことができて、訓練次第では超級や帝級を扱えるかもしれないと団長に言われた。
少し舞い上がってしまったがこれしか使えない上に、これでも最底辺、E級なのだからS級の奴らはどんなチート性能なのか少しそらは気になった。
とにかく、当分の目標としては超級、できるのであれば帝級の強化魔法を使えるようになりたい。
そして無能と呼ばれないように、目立たずひっそりと異世界生活を送れるように。
そらは心のなかで拳をぐっと握り、決意を固める。
(あとついでに隙を見てメイドさんをもっと見てみたいなぁ)
そんなことを考えた瞬間に鋭い視線がそらを襲った。悪寒が全身を駆け巡り、本能的に危機を察知したのか、そらは二度とメイドを見ることはしない。そう決意を固めたのだった。そう、そうしないと攻撃魔法を撃とうとしている花凪の気を静めることは不可能だろうから。
女心って大変だなぁと人ごとのように思うそらだった。
マジでごめんなさい。
あと3~5話くらいで追放になる予定です