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状況確認

まじですいません

 魔法陣のいまだに慣れぬかすかな浮遊感が収まったことに安堵(あんど)を覚えた後、巫女が帝城についたことを告げた。

 帝城は異世界転生テンプレに出てくる中世ヨーロッパのものそのものだった。

 レッドカーペットのようなものが敷かれており、それに沿うように騎士たちが敬礼している。

 その後ろには(きら)びやかな服を着た、たくさんの貴族の聴衆がいて、自分達を観察しているのか、全身を舐めるように凝視している。

 ピリピリとした雰囲気が場を支配する。

 白い大理石のようなものが謁見(えっけん)の間の厳かな雰囲気を引き立てている。

 全員が礼儀作法とかどうすればいいのかよく分からず困惑していると、30mほど先の玉座に座っている皇帝っぽい人物が口を開いた。

「よく、来てくれた! 異世界のコウコウセイ、そして『神の使徒』。我の名は皇帝「ヴァルナリア・トラムアニマ2世」だ。話は、我が娘である巫女、「セレスティア・トラムアニマ3世」から聞いている。大変優秀な職業や、ご加護を授かったそうだな。そなたらならこの世界の危機を救う切り札になると我は期待しているぞ」

 野太い、雄叫びのようにでかい声が響き渡る。玉座に座っている皇帝は赤いマント、金色の王冠に、茶色の髪、かなり声もはっきりとしていて、背筋も伸びており、顔立ちもたくましく、実年齢は五十後半らしいが、四十代前半くらいに見える。

「今から長話をすることになるからついてきてくれ」

 皇帝が、立ち上がった後、玉座の後ろの空間で仁王立ちするので、クラスメイト達は怪訝そうな表情を浮かべるが、次の瞬間、壁が自動で動き、その奥には階段のようなものが見える。

 隠し通路的なところを通って、会議室のような場所についた。

 そこは、先ほどの玉座からは想像できないほど質素に作られていた。

「娘から事前に説明があったと思うが、そなたたちに倒してほしいものは邪神という、魔人たちの王だ。邪神はどうやら最近、帝国内で多発している事件に関与しているようなのだ」

「事件……ですか?」

 巫女からそんな話は一切聞いていなかったため、好奇心故か花凪が尋ねる。

「うむ。最近、若い女性が行方不明になったり、若い青年の無残な死体が見つかったりしておるのだ。それと、事件とは関係ないのだが、魔物もなぜか強くなっているとの報告があってな。魔物による被害や、盗賊の被害かもと考えたが、その魔物や盗賊の死体も発見されていてな。全くもってなぜこんなことが起きているのかがわからないのだ。だが、つい先日、とある情報をつかんでな」

「それが、邪神がかかわっているかもしれない……と」

 祐樹の推測に満足そうにうなずくと、続ける。

「どうやら目撃者はそのうっすらと見えた影が、「吸血鬼」のようだったというのだ。ああ、吸血鬼というのは、血を吸って眷属を作る怪物で、吸血鬼はもう絶滅したはずなんだが、邪神の力で生み出されたのだろうと考えていてな。だから、国民の安全のために、そなたたちに邪神を討ち倒してもらいたいと思ってな」

 皇帝が、そらたちのほうを試すように、見つめている。答えは、無論YESで、うなずくと、ほっとしたような表情を浮かべる。

「では、邪神を打倒してもらえることになったため、そなたたちに情報を与えよう」

 皇帝は、側近に合図を送ると、地図を持ってきた。それを机の上に広げ、指で指し示しつつ語っていく。

「この世界は5つの大陸で構成されている。『リューン大陸』『ヴァリン大陸』『ザグァン大陸』『ジェティファ大陸』『ウェルティム大陸』で、今いるベルセイユ帝国は北東にある『リューン大陸』の中心部分に位置している。冬季は凍てつくような寒さが大陸全土を覆い尽くし、夏季は灼熱の如く熱さが容赦なく襲いかかる」

 といいつつも、そらたちは今のところ、寒いとも熱いとも感じてはいない、しいて言うなら涼しいだろうか。最近の異常な暑さに慣れてしまった日本人、そらは異世界の気候は涼しく感じるらしい。

「魔物というのは野生の動物が『魔力石』を取り込むことで、魔力暴走状態に陥るが、それを制御できるようになった個体が起源と言われている。更にその個体が人形にまで進化した個体を「魔人」といい、この二種の生物をまとめて「魔族」と呼ぶ」

「ということは、邪神は魔族なのか?」

「いや、そういうわけではない。邪神は種族関係ないのだ。この世界の3つの種族、「人間族」「魔族」「亜人族」どの種族からも邪神は発生している。共通するのは「魔族を従えていて」「邪神の加護というものを持っている」ことだろうだけだ」

 なぜ邪神になったものは全員魔族側の味方をするのかは全くもってわからないらしい。魔族や亜人族はまだしも、人間族も魔族の王になるのだという。

「我からは以上だが、なにか聞きたいことなどはあるか? 答えられる範囲なら答える」

 祐樹が挙手をし、発言をする。

「人間族、魔族はわかりますが、亜人族とは何ですか?」

「亜人族というのは、人間族の対となる存在で、人間が誕生したと同時に、亜人が誕生した。彼らは身体能力が高く、技能という特有の技を扱うのに長けているが、神の加護を受けられないという特徴がある。ちなみに、人間は神の加護を扱うのに長け、魔族は魔法を扱うのに長ける」

 あれ? 実は俺、魔族でした? 的な奴ですかなどと考えるそら。

「あの……変えるためのゲートがあかないって聞いたんですけど、帰る手段ってないんですか……?」

「ある。1つが全能神の力を借りる方法。もう1つがこの世界にある、7つの浮島……悪魔の島々をクリアし、あるといわれている、禁忌の魔法、「干渉魔法」でかえる方法だ。全能神はおそらく邪神を倒したら帰してくれるだろうが、確定ではない。干渉魔法は確実にできるが、難易度は高い」

 道がいばらの道そうだと知り、落胆するクラスメイト。そらはファンタジックな世界を堪能したかったから、時間がかかりそうという朗報に目を輝かせた。

「?…巫女さんは確実に元の世界に帰すって言ってたんですけど…」

「そう言うことで、お前らえうに邪神を討伐してもらう理由を作ったり、創世神への信仰心を高めるためにそう言ったんだろうな」

「トラムアニマさんは神をあまり進行してないんですか?」

「かなり不敬な質問だが…、まあ実を言うとそうだ。この国は一見信仰心が高い国に見えるだろうが、こっち側に神を信仰している熱心な教徒はいない。政策も神のお告げということにしているが、実際はお告げの内容と異なる政治をしているしな」

「そうなんですね……」

 どうやら巫女は創世神レヴェナを酔狂しているようだが、皇帝はあまり信仰心があると言うわけではなさそうだ。

(なんでなのだろうか)

 この国では以前は義務教育にて創世神について学ぶと言うのがあったという。

 それがあっても、創世神レヴェナを信じないと言うということは、余程の経験を皇帝になる前、壮絶な経験をしたのだろう。と仮定した。

 その後も様々な質問をしたら、この世界の基礎知識というものを習った。大半のものは寝ていたが、そらはしっかりと聞いていた。

 おわると、巫女に帝城を案内された。

 1階は会議室、食堂があり、2階には謁見の間と図書館、3,4階は客室、5階は騎士団のフロアで、6階は皇族のフロアらしい。そして、そらたちは3,4階の客室に泊まるようだ。

 フロア紹介が終わると、巫女はそらたちを食堂へと連れて行った。

 巫女からなんでも頼んで良いと言われ、全員がメニュー表を眼力でやぶらん勢いで見る。

 そらはあまり食欲が無いため、うどんをたのんだ。

 クラスメイト達はステーキなどを頼んでいたが、それがおいしいのかどうかわからない。

 本当においしくないうどん出てきたら吐いてしまうかもしれないとわりかし冗談抜きに心配するそら。

 そんなそらの期待を裏切るように、そらが侍女たちが持ってきた料理を見てみると、普通にめちゃくちゃおいしそうだったのである。

 うどんにはきつねがついていて、さらに汁は黄金色に透き通っていて、麺は見るからにたコシがありそうでネギなども多すぎず少なすぎずの絶妙な塩梅の量。

 みるからにおいしそうである。大事なことだから二度言った。とそらの心の声が叫んでいる。

 全員分料理が行きわたったところで、手を合わせ、いざ実食。

 まずは、きつねを一口。

 きつね本来の甘みが、優しいだしといっしょに口に入れた瞬間に感じられ、幸せが広がる。

 これよこれ。とジャパニーズは語る。”しっかりと顆粒だしではなく素材を使ってだしを取って、麺は歯でぎりぎり噛み切れるレベルの硬さ。だけど硬すぎるわけではなく、あくまでコシがある程度。

 そしてなにより、きつねのあぶらあげの甘さ。これがダシがしみ込んでて最高なんすわと言っていますね。”byそらの心の声

 そらはあまりおなかすいていないという事実を忘れて、むしろおなかがすき始めて、無我夢中でうどんを食べる。

 食べ終えた後の、満足感はひとしおで、うどんにはうるさいつもりだったが、これは一本取られた。と拍手を送るそら。

 美味い飯を食えることが確定し、ほくほく顔のそら。

 食が美味しいかどうかは生死に関わる。

 異世界ガチャあたりだな。とこの後大外れを引くことを知らないそらは呑気にそう思うのだった。

 ♦♢♦♢♦♢♦♢

 大満足で、3階の自室になる314号室へと向かうその途中。

「……ッ!?」

 何かが急接近する「音」が聞こえ、慌ててかわす。

 すると、となりを何かが尋常じゃない気配を出しつつ、通り過ぎて行った。

 内心そらは冷や汗をかきつつ、何やつ!?と思い振り向くとそこにいたのは、蝙蝠だった。

 だが、そらは本能で、こいつは普通の蝙蝠と違うと判断した。速さがバグっているが、それだけではない。

 異常に発達した犬歯、なにより、実際に蝙蝠を見たことがないが、カラスよりも大きい。異常だ。

 そこで、蝙蝠といえばの地球の怪談を思い出す。

「吸血鬼……!!」

 そうだ、皇帝は「吸血鬼は蝙蝠を使役する」といっていた。それと、そいつに血を吸われたら吸血鬼になる…と。

 そらは、あわてて、蝙蝠のほうに向きなおすが、そこには蝙蝠はいなく、次の瞬間、そらはほぼ脊髄反射で、廊下に転がっていた。

(後ろに回り込まれていた……!? やばい、こうなると、逃げきれないッ!!)

 そらは、見えないほどのスピードで裏に回られていたことをおもいだし、顔をしかめる。

 緊急の時に、とついさっき渡された無線機のようなものに怒鳴るようにして、助けを求める。

 もし勇者が吸血鬼になってしまったらそれこそ笑うことはできない。幸いなぜかコウモリの狙いは自分のようだから、被害が拡大する前にここに居座らせて、時間を稼ぎ、騎士団に対応してもらうことにした。少しでも被害を少なくしようとおとりになることを決意。

 蝙蝠に向き合うと同時に、こうもりの姿が掻き消える。

 後ろにいるから、横方向へ移動しよう。そう思ったが、次の瞬間、蝙蝠はそらの視界に映った。

 後ろにいたはずの蝙蝠は横方向を向いたそらの視界に映り込んだ。完全に読まれていたのだ。

 蝙蝠は顔から30センチも離れていないほど近くにいた。

 幸い蝙蝠が横方向に動き出す前に視界に現れてくれたお陰で首にかまれる寸前でそらはよける。

 そらは目の前のコウモリの知能の高さに戦慄するしかなかった。

 普通魔物は頭を使うことなどできないとさっきの講義で習った。

 基本は動物から進化したものだから、群れで囲う程度の知能はあるものの、それ以上、例えば今のような先読みなどはできないはずなのだ。

 なのに目の前のコウモリは平然とやってのけている。しかも近くに吸血鬼が見えることもない為、吸血鬼が指示を出していると言うこともない。だいたい使役系の魔物は自分ではあまり行動できず、多くは使役している人間によって強さが変わることが多いが、この魔物はそのだいたいに当てはまらないらしい。

 そらは避けながら冷や汗を流す。

 今避けれているのはゲームで読み合いをたくさんこなしたからだろう。

 恐るべきはその読み合いが下手な人間を越えていると言う点だ。

 そしてそらの体力も限界に近づいていっていた。体感10分ほどずっと蝙蝠の攻撃を避け続けていたからだろう。もう立っているのもやっとだった。

 もう倒れる、そう思った時、コウモリが変なタイミングで停止した。ぴたりと世界が止まったかのような感覚。

 蝙蝠は何秒か止まったのち、機械的な動きで月に向かって羽ばたいていった。

 助かった。そう思うことはなかった。死んだはずだったが、気まぐれで逃されたとそらは思った。

 自分の体がまだ動いていることに、とても安堵した。

 そして、そう思うと同時に、体から力が抜けていった。さっきまでのように立とうと思っても立つことができない。

 そのまま、そらの瞼はカーテンのようにスルスルと閉じられていった。

 その直後、そらの無線を聞き駆けつけた騎士団の団員がそらを運び回復させたそうだ。

 その後聞いた話によるとそらが襲われた直後大量の蝙蝠が月に向かって飛んで行っていたとのこと。

 不幸中の幸いで、そら以外に怪我を負ったものはおらず、重大な被害を受けたわけではなさそうだった。

 クラスメイトはぜんいんほっと息をつき、さらに、「魔物もそらがいなせる程度だったら大丈夫だろう」と、油断を抱いてしまった。 

 が、残念だが__

 今宵は新月の1日後。

 そらたちを苦しめる元凶は、まだ本気の1割も出していなかったのだ。

 さらに、()()()()()()()避けることができたのだ。あのコウモリは。

 それを知らずに油断しているクラスメイト達は、後に敗北を味わうことになる__

 

3話改編しました

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