プロローグ
とある作品の書き直しです、1作目はかなりグダグダしてしまったので今回は緩急のメリハリをつけて頑張って書いていきたいと思うのでお願いします。
天使の梯子のようにきらめく紫色の光が彼_藤田そらを包み込んだ。いや、覆い尽くすようにといったほうがいいのかもしれない。
はたから見ると天使の梯子そのものなのだが、よく見ると地面の幾何学模様、俗に言う魔法陣のようなものから放出されていることがわかる。
紫色の光は儚げで、朧げで、掴むと消えてしまいそうなほど存在があやふやなように見えたのに、今は堅牢と化してる。
そらはまるで壁を叩くように拳を光に打ち付ける。ごんごん!と音を立てるがその場にいるそらのクラスメイト何事もないかのようにしている。
そらは必死に抜け出そうとするも、道具もなにもない今、強化ガラス並みの耐久力を持っていそうなこの魔法陣を破壊することは難しいだろう。
さらに周りには背が190センチは余裕で越しているであろう鎧を着た騎士たちが何人もいて、奇跡が起きたとして、この魔法陣から抜け出すことがかなったとしても、抵抗すらできずに取り押さえられるだろう。
頭をフル回転させて考えている今もなお魔法陣の光は刻一刻と強まっている。
そらは絶望した。あの巫女は「その魔法陣はヴァジエニア迷宮の地下深くに繋がっている」といっていた。
今までの行動からみるに冗談を言っているようには見えない。となるとこのまま脱出できないと最凶最悪の迷宮と名高いあの「ヴァジエニア迷宮」の最下層に放り出されるということになる。
ヴァジエニア迷宮。死と絶望が蔓延る別名「極獄の迷宮」。
数多の冒険者を帰らぬものとしてきた迷宮。死刑のかわりに犯罪者を転移させる国もあるぐらいなのだからどのぐらい危険なのかは理解できるだろう。
異世界転移して犯罪者扱いされるとんでもない異世界ライフが幕を開けるなんて誰が思っただろうか。
そらは思いを馳せた。異世界転移が起こったその日のことを。
△
毒にも薬にもならない存在。休んでいても一切気づかれず、いい意味でも悪い意味でも目立たない。
それが周りからのそらへの評価だろう。
何をしても平々凡々、容姿もあまりパッとせず、ごく普通のパーツが並んでいて、性格も根暗そのもので、別にこれといった特徴や長所など存在しない。
実は凄腕プロゲーマーなのだが、学校では全くもってそう言ったことを話していないため、普通にインキャ判定である。
プロゲーマーの仕事をこなしつつそらは青い春というには程遠い地味だが、平穏な高校生活を送っていた。
はずだったのだ。
そう、彼女の存在がなければ。
「おはようございます、藤田さん。眠そうですね、大丈夫ですか?」
「お、おはよう……大丈夫、いつも徹夜してるからさ……」
淡い華やかな微笑とともに挨拶をしてきた彼女は天和花凪。
品行方正で天使のような整った顔つきに文武両道の才女でもある。
学校一の美人などよく言うがまさにその通りで、冗談でもなんでもなく告白はもう300回は受けていると噂されている。ちなみにどれも粉砕されている。
そんな花凪だが、どうやらそらのことをとても気に入ったようで、毎日何かとそらに話しかけ、気にかけている。
別にそらはコミュ障ではないため最低限の受け答えはするし、話しかけられるのも嫌だというわけではないのだが、周りからの視線がとても鋭いのである。胃がきりきりと痛み、頭痛がそらを襲う。
最初の方はにやにやと悪趣味な笑みを浮かべるものも一定数いたためまだ耐えられたものの、現在では挨拶をしただけでも怨嗟や怨恨で呪われそうなほど睨みつけられる。
このクラスメイトたちには魔眼の類を授けるのはやめていただきたいと心の底からそらは思った。
ゲームの練習で徹夜続きで眠気に抗うことが億劫になり始めているそらは眠らせてくれと願うのだが、どうやら眠ることもできないようである。
全身を倦怠感が襲い、机に突っ伏していると、救いの手(?)が差し伸べられる。
「花凪、そら、徹夜で眠そうだぞ?ほっといたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな、学校に来ることは評価できるが、毎日授業中も寝てばかり、ろくに他人とかかわろうともしない。こんなやつ、なんのために高校来てんだよって話だし、努力しねぇやつは俺は嫌いなんだ」
「……おはよう、あさからごめんね、うるさいよね」
「ああ、いや、大丈夫だよ」
そらに爽やかに不真面目宣言をしたのが橋本祐希。
理想の好青年を具現化したかのような彼だが、正義感がとても強く、周りにも気遣いができ、誠実で、女子ウケがいい。
が、いらないところまで世話を焼こうとするおせっかいで、悪いわけではないのだが、そらからするととても苦手な人間の1人である。
努力しねぇやつは嫌い、と少年漫画の友人キャラかライバルキャラがいいそうなことを言い放ったのは龍ケ崎浩太郎。
日焼けして仕上がったとても黒く、ガッチリとした体格と筋肉がトレードマークである脳筋である。
細かいことや考えることが苦手と本人は公言しており、知恵の輪などを与えると力で押し込み、タイムわずか3秒を叩き出すなど生粋の脳筋である。
そらを気遣うような言葉をかけたのは、篠崎彩女。
男の幼馴染二人と比べるとかなり背が小さく、メガネとショートカットがとても似合い、いかにも大人しそうなめがね女子だ。
全員の心情、人間関係を一番把握していて、いつも幼馴染二人の行動による被害を受けないように監視する役目なのだが、毎回彼女の忠告を振り切ってわざわざ忠告してくる橋本と龍ケ崎にとても苦戦しているようだ。
現に彼女の目には疲労が濃く見える。
彼女が申し訳無さそうな目でそらを見るが、本当にいつものことでいい加減なれたため、そらは頬をかきながら、苦笑する。
「放っておいたら藤田さんががかわいそうではないですか? もしかしたら勉強が理解できないで苦しんでいるのかもしれませんし、教えるのも大事だと思うのですが…」
「教わる気がねえやつに何教えても無駄だよ」
「同感だ、寝てばかりのそらは花凪に教えてもらう前に、基礎を学ぶべきだ。」
「……祐希、浩太郎、それはお節介というのよ。藤田は勉学以外に集中するべきものがあって、しかも勉強も普通を維持してて、授業中寝てないと、睡眠が確保できないの。だから__」
「だからと言って、全部授業に参加しないのはどうかとは思うけれどね、それにそらに困ってほしくないんだ。」
「……ほんとに…」
そらはべつに成績が悪いわけでもなんでもない。
むしろ中の上か上の下レベルであって、しっかりとテスト期間にはゲームの割合を少なくして勉強をしている。
高校は叔父と叔母にと言われたから行っているだけで、大学に行こうとかそういうつもりは一切ないためこのぐらいを維持しておけば、プロゲーマーとして生活しつつ、目立たずひっそりと高校生活を終えるはずだったのだ。
祐樹は「俺がそらを正しい道に導いて見せる」などと思っているに違いない。
そらからすると別に結構ですという話でしかない。世間一般論からすると、そらは根暗で、「正しい生徒」というにはほど遠い存在ではあるが、別に他人に迷惑をかけるいわゆるDQNでもないし、不良のようなものでもないのだから放っておいてもいいと思っている。これで本業?といえるプロゲーマーの仕事を疎かにしたらそれこそ本末転倒だ。両立が一番いいのだろうが、あいにくそらは凡人の為、必死に努力しないと、プロのレベルについていけないため、両立は諦めている。これが授業中爆音で音楽流し始めるとかいう人間だったら、そりゃあおせっかいを焼いてもいいとは思ってはいるものの、そらはさすがにそんな人間ではない。
とはいえ、祐樹にそんなことを力説しても馬の耳に念仏、意味がないことはわかりきっている。
話を黙って聞いていた花凪は
「徹夜はあまり体に良くないので、しっかりと睡眠を取ってくださいね、勉強も私が教えますから!」
と言っている。だからほっといてほしいのだ。そらは。なのにあまり理解していないのかそんなことを言ってくる。
そらは心のなかで「きづけーー!きづいてくれーーー!!」と叫んで、花凪の方を見つめるのだが、やはり気づかず、天使のような微笑をかわりに頂戴する。
この間にも周りからはああん?みたいなおらおらな視線を感じているわけで。非常に居心地が悪く、自分を陰のものと理解しているそらからするときついものである。
その視線がどうにかならないのかと遠い目をしながら考えたその時
なんにも前触れも前兆もなく、巨大な、そう__「魔法陣」のようなものが出現した。
何が書いてあるのかよく分からず、線対称で点対称、光を放ちながら回転して、周りにある帯のようなものも一緒にくるくると回る。
全員の視線を釘付けにした魔法陣はそのまま光を強めていき_
ぶぉんという音を最後に消滅した。
が、消滅したのは魔法陣だけではなかった。
生徒36人がきれいに消滅していた。
散乱した教科書、ノート、ひっくり返った椅子などはそのままに、人間だけが教室から消失していた。
これがテレビで「白昼堂々の神隠し」として報じられ、様々な議論がかわされることになるのだが、そらたちは知る由もない。
高評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
週に1日投稿できるように頑張りたいです(願望)