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マイページを見てくれた人に読んでほしいコメディ集

鬼退治の祝勝パーティーに雉がいない!

作者: 桃田桃郎

――ジョロジョロジョロ・・・



 俺は用を足しながら、昼下がりの厠の外をぼーっと眺め、鬼退治の思い出に耽っていた。


 この1ヶ月、長かったな。こんなに安心して用を足せるなんて信じられないな。


 厠から戻ると、犬と猿が和やかに談笑していた。ほんの数日前まで鬼たちと死闘を繰り広げていたとは思えないほどまったりとした空気が流れる。


 そんな雰囲気の中、ふと気づく。



 雉がいない……



 周りを見渡すが、犬と猿しかいない。

 呼びかけるも、返事が帰ってこない。


 用足しで少し遠くに行ったのか。

 あいつ綺麗好きだからな。


 そのとき、背中にヒヤリとした汗が流れた。


 まさかっ!!


 俺は台所に一直線に走っていた。


 そして、台所に入ると、





「あーーーーーーーーーっ!!!!!!」





 今、まさに、婆さんが包丁で雉の首を切り落とそうとする瞬間だった。


「ケンケン!」


 しかし、耳が遠い婆さんは構わず、



――ガンッ



 包丁がまな板に当たる音が響く。



 が…………幸い、包丁の手元がずれ、雉には傷一つついていなかった。


 ばあさんの手元が狂ってよかった。

 俺も産まれるとき、これで助かった。


 俺は急いで、まな板からケンケンを取り上げ、胸に抱きしめる。



「大切な仲間になんてことするんだ!!!」



 俺は産まれて初めて婆さんに怒った。


「どねぇしたか?」


 爺さんが騒ぎを聞きつけ、台所に入ってきた。


「ば、ば、ば、ば、ばあさんが、俺の大切な仲間を……こ、殺そうと」


 婆さんが雉を指差す。


「雉が仲間じゃと?」


「わたしゃ、てっきり戦利品かと思ってのう。まさか、仲間とは思ってもみなんだ」


「婆さんの言う通りじゃ」


「違う! ケンケンは一緒に鬼退治した大切な戦友だ!」


「いや、おかしいじゃろ。雉が鬼退治できるわけねえじゃろが。

 そもそもなんで雉なんじゃ。鷲とか鷹とかじゃねえんか?

 その辺の烏とかの方が絶対にまともじゃろが」


 俺は反論しようも、言葉に詰まる。


「雉は飛ぶのが下手で、隠れるのも下手。しかも鳴いて居場所を知らせる阿呆ときたもんだ。

 この大和の国でねければ、絶対に淘汰されるたぐいの鳥じゃろ。

 こんなん非常食にしかならんじゃろが!」


 カチンと来た俺は強く反論する。


「ケンケンに失礼だろ! 雉はこの大和の国の国鳥だ!」


「桃太郎、おめー、この前笑顔で雉鍋食ってたじゃろが。

 なんで、能力向上と人語が話せるようになる婆さんのとっておきの黍団子を雉なんかに与えたんじゃ」


 うう、黍団子の貴重さと婆さんの手間を知る俺は、言い返せず押し黙る。


「どうせ『そこに雉がいたから』とかいう理由じゃろ?

 婆さんは悪かねぇ。雉が悪ぃ。いや、雉を採用したおめぇが悪ぃ。

 雉を仲間にした納得できる理由を言うてみぃ。

 百歩譲って、犬、猿までは理解出来りゃ」


 そう言って後から入って来た犬と猿を指差す。


「でも、雉ってなんなんじゃ!

 なんで、熊でも鹿でも猪でもなく、雉なんじゃ!

 戦力にならんじゃろが!!」


「ち、違う! ケンケンは鬼討伐の戦力とかそういう存在じゃない!」


 俺はケンケンをグッと抱きしめ、言い返す。


「ケンケンは最初微妙だった犬猿の仲を取り持ってくれた。

 ケンケンは少しうるさかったけど、俺をいつも明るく元気に励ましてくれた。

 暗い鬼ヶ島の中では俺の心のオアシスだった。

 そして、心の支えだったんだ!!!

 ああ、ショックで口をきけなくなってしまったのか。可哀想なケンケン……」


 俺はケンケンの頭を優しく撫でる。そして、爺さんに目を向け、


「ケンケンはなぁ、ケンケンはなあ、俺の、かけがえのない、一生の仲間なんだ!!!」


「「……」」


 俺は涙目で訴えた。その必死の訴えに、爺さん、そして、婆さんも視線を下げる。


「すまんかった……その雉が桃太郎にとって大切な仲間じゃとよう分かった……ほんますまんかった……」


 俺はケンケンを見つめ、


「俺達、一生のマブダチだろ? なあ、ケンケン」


 泣きながらケンケンをぎゅーっと抱きしめた。


 そのとき!





「たっだいまーーーっ」





 玄関から声が聞こえた。


 皆で玄関に向かうと、そこには一羽の雉がいた……


「桃ちゃん、突っ込んでよぉ。ここ、お前んちじゃないじゃろがと」


 雉が流暢に喋る。


「『キジ』撃ちにいったら、大もしたくなっちゃって遅くなっちゃったよ〜。さすがに桃ちゃんの家の庭で『オオキジ』撃つのはマズいと思って。

 ちょっと外行ったら、餓鬼どもに捕まえられそうになっちゃった。

 こういう時は『頭隠して尻隠さず』作戦。

 餓鬼一匹が引っかかって俺の尻を捕まえようとした時、糞撒き散らしてやったのよ、ギャハハハハ。餓鬼ども一目散に逃げてやんの、ギャハハハハ」



「「「「「…………」」」」」



「何、みんな押し黙っちゃってんの? 俺、なんか余計な事言った? もしかして食事中だった? ギャハハハ、余計なこと言っちまったかぁ。『雉も鳴かずば撃たれまい』ってか、ギャハハハハ。俺、なんか鳴いちゃったのかぁ?」



「…………」



「桃ちゃん、なんで俺の渾身のギャグを『けんもほろろ』にしてんの? 『けんもほろろ』と鳴くのは雉である俺の方だよ。冷たいよぉ、いつものように俺のボケを撃ってくれよぉ」



「……」



「な、俺達、マブダチだろ? 桃ちゃん」



 皆の視線がこの小うるさい雉から俺に向かう。そして、俺は言葉を発した。



「えっ、、誰このキジ?……」



**



 その後、桃太郎は、雉を二羽とも飼うことにしました。




 おしまい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 雉ちゃん……助かってよかったね……。 確かに言われてみれば、犬、猿、雉とくると、雉は日本の文化的には食べられちゃいそうですね(´・ω・`) リアル雉ちゃんの口調が想像以上にぶっとんでいてニヤ…
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