第3話(2)
今にして思うと。
自分の息子として認識するには既に大きくなり過ぎてた俺の母親に若くしてならなければならなかった弘美さんも、葛藤はあったのかもしれない。
幸いにしてあっけらかんとした彼女の性格と、俺自身の他人に余り頓着しない性格がうまいこといって、『母と息子』にしては無理があるにしても『家族』としてはわりとすんなり溶け込んでいくことが出来たから。
けれど、彼女自身はいろいろと思うことがあったのかもしれない。「何とか、母親にならなきゃ」と言うような葛藤が。
「だったら、わたしと英介さんの間に生まれた子供も、幸恵さんの子供でもあって欲しいの。だって、英介さんの妻で、彗介くんの母親なら……わたしにとっても家族だもの。わたしも幸恵さんも彗介くんのお母さんなら、幸太だって、幸恵さんの息子でもあり、わたしの息子でもあるのよ」
「……」
「うまく、言えないんだけど……。彗介くんにとっても、英介さんと幸恵さんと彗介くんが前の家族で、英介さんとわたしと幸太が今の家族だとは思って欲しくないの。同じ英介さんを父親とするなら、そして幸恵さんと英介さんが憎みあって離れたわけではないのなら、同じ家族でありたいのよ」
「……」
「だから、名前をもらうことにしたの。英介さんにとっても、新しい家族なんじゃなくて、幸恵さんがいたからこそ彗介くんという子供に恵まれて、その彗介くんを含んで、もちろんその彗介くんを生んだ幸恵さんも含んで、ひとつの家族なんだって。彗介くんにとっても、同じ幸恵さんとわたしを母親とする幸太を……ひとつの家族なんだって」
黙ってグラスに口をつける俺に、弘美さんの視線が向いた。
「ここは、彗介くんの家なのよ。今も、昔も、変わらず。……わかってるわよね」
「わかってるよ」
悪かったな。家を出てからそれきり音信普通だったせいで、妙な心配を抱かせてしまったのかもしれない。
ちらっと目線を上げると、弘美さんは凄く真剣に俺を見詰めていた。
「家に帰って来なかったのは、そんな理由じゃないから安心して」
「本当ね?」
「本当だよ。生きるだけで手一杯だっただけ」
「……やめてよね。音信不通のままで餓死とか」
「今時の日本で、普通に生きてて餓死するのはいかにも大変そうなんだけど」
「ちゃんと食べてるの?」
「食べてるよ。バイト先でメシ出るから」
俺の返答に何かを答えようとした弘美さんが口を開きかけた時、玄関の方が不意に騒がしくなった。バタンっとドアが盛大に開いて、家に転がり込んでくる足音。ビタン、と途中でコケる音が挟まっ……。
……。
「彗介くんッ!!!」
息を切らせてキッチンの入り口に佇んでいるのは、今頃まだ仕事をしているはずの我が父君だ。親父は小さいながらIT企業の経営をしている。
「……親父」
「おかえりなさい、英介さん」
俺が出て行った4年前からさして変わらない風貌。ひょろっと背が高く、インテリ風のメガネをかけた細面の顔。メガネの奥で、俺と同じ形の小さな瞳が潤んでいる。
「彗介くんッ!!どうして帰ってくるならくると、一言そうお父さんに連絡をくれないんですかッ」
「ただいま」
「ただいまじゃないんです!!連絡もずっとなくて、僕がどれだけ心配したか……」
どうやら子供がひとり増えても、相変わらず子煩悩は変わらないらしい。
23の息子が帰ってきたからって、血相変えて会社早退してくる社長はどうかと思うんだが。
「親父、会社は?」
「そんなもん早退して来たに決まってるでしょう。弘美さん、今日の夕飯はどうしましょうか。せっかく彗介くんが帰ってきてくれたんです。豪華に外食でも……あぁ、でもきっとずっと手料理なんて食べてないですね。ひさびさに弘美さんの手料理をご馳走してもらった方が……」
とっちらかってる……。
思わず眉間に寄せたしわを指で押さえながら、そう言えばよく遠野に昔面白がられていたことを思い出した。顔つきはどう考えても父親の血を引いているのに、中身はどうしたって正反対だってよく言われたっけ。
確かに親父がとっちらかってるとこはよく見るけど、俺自身がとっちらかったことは余りない。
「英介さん、落ち着いて。彗介くん、別に今日帰っちゃうわけじゃないんだから。夕飯は作るわ、大丈夫よそんなに心配しなくたって」
弘美さんが呆れ顔でたしなめると、親父はその言葉に触発されたようにがしっと俺の肩をつかんだ。
「そうだ、彗介くん、いつまでいるんですか?1週間?1ヶ月?何ならこのままいたっていいんですよ、ここは彗介くんの家なんですから」
1ヶ月もいるわけにはいかんだろう。
「明後日には東京に帰るよ」
「そんなあ」
「俺だってバイトとかあるんだから。首になったらどうするんだよ」
「首になっちゃいましょう」
おい。
「じゃあ来月もまた帰ってきますか?」
「……幸太がいるだろ、幸太が」
「幸太くんは幸太くんです。彗介くんは彗介くんでしょう」
埒があかない。
俺が目配せで弘美さんに助けを求めると、今にも吹き出しかねない顔で俺と親父を眺めていた弘美さんが助け舟を出してくれた。
「とりあえず英介さん、着替えてきたら?着替えて、幸太をお風呂にいれてあげてちょうだい。その間にわたしが夕食の支度をするから。今日はひさびさにみんなで揃って夕食なんだから、さっぱりしてきなさいね」
「あ、じゃあ彗介くんも一緒に……」
「入るわけないでしょ!?いくつだと思ってんのッ!!子供みたいなこと言ってないで、早くいきなさいッ」
怒鳴られて親父はすごすごと退散した。
……俺は本当にあの人の血を引いているんだろうか。
◆ ◇ ◆
弘美さん言うところの「ひさびさにみんなで揃って夕食」後、しばらく「家族団欒」というやつをさせられて、それからシャワーを浴びて俺は自室に戻った。なんとなくすることもなくて、置きっ放しだったCDを漁ってみる。懐かしいCDがいくつも出てきて、今回東京に何枚か持って行こうと思いながら、コンポにセットして再生する。
ふと、コンポの隣に立てかけてあった卒業アルバムが目に入った。中学と高校。引っ張り出して開いて見ると、当時教室で机を並べていた面々が顔を見せた。
俺はあまり社交的な方ではなかったので、覚えているやつももちろんいるけど、まったく記憶にない顔とかもあったりする。
指先で名前を辿ると、幼い顔立ちの俺がいた。当時はそれでもオトナびていると言われたが、こうして見るとやはりあどけない。下の列には、同じくまだあどけない遠野が笑顔で写っていた。
遠野はこの頃も、女の子に異常なほど人気があった。遠野目当てで女の子に話しかけられた覚えが、何度となくある。そう言えば遠野って、今でこそ俺より5センチかそこら身長が高いが、中学に入ったばかりの頃は相当小さかったんだよな。150センチあったかどうかで、中2くらいまでは小学生と変わらなかった。いつの間にあんなにでかくなったんだろう。高校の時は既に、俺の身長を追い越していたような気がする。
小さく苦笑して、そして、その遠野ももう結婚するような年になっちゃったんだなぁ……と思った。この写真に写っているやつらも、何人かは結婚してたりするのかもしれない。幸太みたいな子供が、いるのかもしれない。そう考えると、なんとなく変な感じがした。
アルバムを開きっぱなしで、そのまま床に転がる。CDから流れる懐かしい曲も相まって、記憶は中学や高校まで遡って駆け巡った。
遠野と一緒に初めて楽器屋へ行ったこと、ギターを買うためにお年玉や小遣いを地道に貯めたこと、2人でギターのコードを練習したこと、初めて俺が作った曲に遠野が詞をつけたこと、中学の文化祭でライブをやったこと、高校に上がって、音楽を本気でやっていこうと思って……。
数え上げればきりがない。何年一緒に音楽やってると思ってるんだ。もう、10年になるんだ。
そんなことを考えていると、言葉にならない戸惑いがまた胸を占めた。
俺は、何に戸惑っているんだろう。
遠野がいなくなるかもしれないという不安なのか?否が応にも現実と向き合わなければならないことを遠野を見ていて感じたのか?あの頃のように、ただひたすら夢に向かって走れない自分を持て余しているのか?うまくいかない現実に苛立っているのか?
俺はどこを目指そうと思っているんだ?今この瞬間を、こうして無駄に過ごしていていいのか?……これは、焦り……なのか?
しばらく、ぼんやりと天井を見つめていた。やがて音楽が途切れる。静寂が戻ってみると、どうやら1階も静かになっていることに気がついた。寝たんだろうか。時間を見てみると、10時を回ったところだった。
アルバムを閉じて元通りにしまうと、部屋を出る。廊下の突き当たりの部屋には親父と弘美さんの寝室があり、扉が閉まっていた。中から弘美さんの小さな声が聞こえる。昔話でも読んでいるんだろうか。時々、眠そうなうにゃうにゃした幸太の声が挟まる。
(変だよな……)
何だか、妙な気分だ。
苦笑して、静かに階段を下りた。1階のリビングからは明かりが漏れている。そちらに足を向けてみると、ひとり、ボリュームを落としたテレビに目を向けていた親父が顔を上げた。片手にブランデーのグラスがある。親父は余り量を飲める方ではないから、舐める程度だ。俺が酒に強いのは明らかに母親方の血だろうと思う。
「彗介くん」
ドアを開けた俺に気づいて、親父がこちらに視線を向けた。
「眠れないんですか?」
「まだ寝るには早いだろ」
「じゃあ、彗介くんも一杯やりましょう。もう飲める年でしょう」
言って立ち上がった親父は、背後の棚からブランデーグラスをもうひとつ取り出した。ここの棚には、親父愛蔵のグラスやブランデーが並んでいる。
アイスバケットから氷をグラスに放り込むと、半分ほどまで琥珀色の液体を注ぎ込んで俺の方に差し出した。親父に向かい合う形でソファに腰を下ろす。
「まったく、18歳で出て行ったきり、顔も見せずに気づいたら成人してるんですからね……」
小さくため息をつく。答えようがなくて、俺は黙ってポケットを漁った。煙草をくわえる俺に、親父がライターを投げて寄越す。
「しかも煙草まで吸うようになって」
「弘美さんにも言われたよ」
「あんまり不摂生したら駄目ですよ。僕より先に死んだりしたら困ります」
殺すな。
「成人式も帰ってこなかったでしょう。行かなかったんですか」
「行かなかった」
成人式の頃は……何してたっけな……。
(ああ、そうか……)
遠野と離れて、一番もがいていた頃だ。成人式どころじゃなかった。そんな話はしたことがないが、そう言えば遠野は成人式とか出たんだろうか。どっちでも良いが。
「まったく……」
そう言って、親父は再びテレビに視線を向ける。ブランデーを一口飲むと、喉が少し焼けるような感じがした。安いビールだのサワーだのばかり飲んでいるものだから、こういうまともな酒には余り縁がない。
「……親父はどうして、弘美さんと再婚したの?」
ソファに深く沈んで、口からふわふわと上る煙に目を向ける。何となく聞いた俺の言葉に、親父ががたっと体を揺らした。
「け、彗介くん、まさか僕と弘美さんの再婚には反対だったとか言うんじゃ……」
「まさか」
「だから出て行ったっきり帰ってこなかったんじゃ……」
「違うって」
焦り過ぎだ。
「別にそんな深刻な話じゃないよ。何となく」
体を起こして、灰皿に灰を落とす。こちらに軽く灰皿を押しやってから、親父もつられたように煙草を咥えた。
「何かあったんですか?結婚したい女性でも出来たとか……。あ、だから帰ってきたんですか!?」
「違うよもう……」
そんな期待に満ち満ちた顔をされても俺は困る。そんな予定は悪いが、10年単位で当分ない。
呆れ返った俺の返答に、親父は「ちッ」と舌打ちしながら指を鳴らした。
「なーんだ」
「結婚して欲しいのかよ」
「いいですねえ。そうしたら家を改築して、ここでみんなで一緒に暮らしましょう。楽しいですねえ……」
「嫌だ」
「何てことをッ。お父さんが嫌いなんですか!?」
「同居なんて嫌がるに決まってるだろ……って誰の話だよ」
相手もいないのに。
「結婚って、何ですんのかな……」
またソファに沈み込んで、その肘掛に頬杖をつきながら親父に問うでもなくぽつっと呟くと、親父は不得要領な顔つきでグラスに手を伸ばした。俺と同じ、細く長い指。男にしては、少し繊細すぎるとも言えるその指の形を、俺はそのまま受け継いだ。
「僕が弘美さんと結婚した理由は2つです。ひとつは、彗介くんの為ですね。……僕は自分で事業をしているでしょう。母親がいないことで彗介くんに寂しい思いは決してさせないと思っていても、どうしても母親には足りないんです。仕事には行かなきゃならないし、放り出して帰るわけにも行かない。必然的に、彗介くんはひとりで過ごす時間が、同い年の子供より圧倒的に多くなってしまう。母親がいないことで、彗介くんに負担がいってしまうのが、僕は僕自身を許せなかったんです。……彗介くんに、『母親』を返してあげたかった。それがひとつ目の理由ですね」
「……」
「彗介くんを大切にしてくれて、暖かく包んでくれる母親になってくれる人なら誰でも良かった」
「……」
思わず、ついていた頬杖から顔を上げる。それは、あんまりじゃないだろうか。
黙ったまま目を見開く俺に、親父が苦笑を浮かべた。
「落ち着いて下さい。続きがあるんですから。……彗介くんの母親になってくれるのは、彗介くんを大切にしてくれるなら誰でも良かった、と言ったんですよ。もうひとつの理由は、僕が耐えられなかったんです。幸恵さんの不在に」
「……」
「母親の存在の大きさを痛感もしました。けれど、それと同時に僕自身を癒して支えてくれる妻の存在の大きさも、痛感したんです。そしてそれは、僕自身のことを大切に思ってくれるのはもちろん、僕自身が大切に思える人でなければ、意味がないんですよ」
「……」
「幸恵さんの代わりを求めたわけではないですが、僕にとってはそれが弘美さんだったんです。僕は、僕自身の残りの人生を弘美さんと彗介くんと過ごすことを望みました。……だから、彼女と結婚したんです」
「弘美さんじゃなきゃ嫌だった?」
「正面から息子に聞かれると照れますね。そうですよ」
「……」
癒して支えてくれる人、か。
俺もそのうち、そんなことを考えるようになるんだろうか。今はまだやっぱり、到底考えられない。
支えてもらうには、支えてやらなきゃならない。俺にはそんな甲斐性はありそうにない。
……自分自身を支えるだけで、精一杯だ。
「重たいよな……」
「……」
また、元の姿勢に戻って頬杖をつく。独り言のような俺の言葉に、親父が小さく笑った。
「重たいですよ。人生ですからね」
「悪いけど、やっぱ俺には到底無理だな。孫は諦めてくれ」
「何てことおッ。お父さんは彗介くんの子供の顔を見るのを楽しみに……」
「幸太に任せた」
「4歳の子供に何を押し付けてるんですか」
それもそうだ。
つられて思わず俺も笑った。笑顔のままで、親父が煙草の灰を灰皿に落とす。
「そんなことを考えるようになっちゃったんですねえ……」
「考えるだけだよ。考えて、おしまい」
「以前は考えもしなかったでしょう」
「……」
それは……そうだけれど。
きっかけがなければ、今だって考えもしなかったんじゃないだろうか。
「……遠野が、結婚するんだ」
煙を吐き出して、身を乗り出す。灰皿に煙草を押し付けて火を消すと、せっかく入れてくれたブランデーに口をつけた。
「遠野?ああ、亮くんですか。亮くんと、今も一緒にいるんですか」
「一緒にバンドやってる」
「そうですか。亮くん、東京に行ってももてるでしょう」
「まあね。俺なんかよりずっとね」
そう言えば親父は『亮くん』大好きなんだった。
「そんなことないでしょう、彗介くんももてるはずです!!お父さんの息子ですから」
「ああ、俺は今もてない理由が良くわかった」
あっさりした俺の返事に、親父は悲しげに顔を横に振った。それからふと遠い目をする。
「亮くんが結婚するんですか……。相手の女性は?」
「いい人だよ。元気で強気で優しくて。美人だし」
「亮くんに似合う人は、良い人なんでしょうねぇ」
しみじみ納得をする。何やら話の主旨が逸れているような気もしないでもないんだが。……と思っていると、親父はやおらこっちを向いて、それで、と静かに尋ねた。
「それで、いろいろ考えてしまった、と」
「……うーん……まあ……」
片手で、軽くグラスを揺らす。俺の手の動きに合わせて、グラスの中、琥珀色の液体がゆらゆらと揺れる。それをぼんやり見つめながら、言葉を濁した。
「現実味、ないなあと思ってさ」
「彗介くんはまだまだ子供ですねぇ……」
「うるさいな」
あんたの息子なんだからしょうがないだろう。
「……重石になるような気がする。制約がかかるような気がする」
迷って、言葉を選ぶ。選びきれずに曖昧な表現になったが、親父は黙って俺の言葉を聞いていた。
「現実に、足を取られるんだ」
「……」
「いつの間にか、一生懸命追いかけていたものが、見えなくなるんだ。いつも、走り出そうとすると思いもかけない現実に躓く。いつも……何かを天秤にかけなきゃならない気がする……」
走っている間に霞んでいく夢。生きることの中で、わからなくなっていく。
まともに生きようとすると、諦めなきゃならなくなる。追いかけようと思うと、日常が外れていくような気がする。
社会に溶け込んでいけていない気がする。
仕事をすれば、夢を追う時間を削られて、夢を追う為にも生活はしなきゃならない。生活する為には働かなきゃならなくて、何とか折り合いをつけられる妥協点を見つけたはずなのに、また何かに足を取られる。……そんなことを、繰り返して結局前に一歩も進めないような、そんな、焦燥感。
「……ガキなんだな、俺」
本当に。
だけど、ただ曖昧に生きていくのはどうしても嫌なんだ。
歯車としてただ働く仕事、安穏として家庭を築くこと……俺は、どうしてもそこに俺の生きがいがあると思えない。
なのに、夢だけ追いかけていればいい年では既になくなっていること。現実と向き合いながら、それでも叶えたい夢なら叶えるだけの力をつけなければいけないこと。そしてきっと俺は今、それだけの自信が……ない。
「現実の前では、夢は脆いですか?」
やがて親父がぽつっと問う。問われた言葉の内容を、考える。
……そう。遠野の結婚の話が、Blowin'の活動休止が、自分の気持ちだけで解決できる種類の、頑張ればなんとかなる種類の問題ではない何かの象徴みたいで……現実の前では脆い夢を見せられたみたいで……。
それが、きっと、俺の気持ちに波紋を投げかけているものの正体なんだろう。
曖昧に頷く俺に、親父が笑った。
「それは少し、センチメンタル過ぎますよ。そう悪いことばかりじゃないはずです。亮くんは彗介くんをとても大切に思ってくれていると僕は信じているし、同時に僕は彗介くんも信じています」
「……」