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あんなペンネームを付けてしまったのに、  作者: 凛々サイ
2章『そこから始まる二人の夢に、』
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2章 1.僕は自室で、現実逃避する。

「何だったんだ……さっきの……」

 

 いつの間にか自分の部屋で茫然ぼうぜんと立ち尽くしていた。

 生きた心地がしない。ああ神よ、この世界は天国と地獄、どちらですか……。

 

 目の前の祭壇からあの『ミカエルスマイル』がこの僕に微笑みかけている。先程まで一緒にいた人物と同じだというのか……? ()()が『守ってあげたい少女ナンバー1』の本性なのか!?  信じられない、いや、信じたくない……!!


 なぜこんなことになったんだ。

 僕はどこかで何かを間違えてしまったのだろうか。

 早くあの場を切り上げたくて、意味も分からず返事をしてしまったじゃないか。

 

 床にへなへなと座り込んでしまった僕は、一言呟いた。


「信じないぞ……」


 あれはきっと何か事情があるに違いない。きっとそうだ、あの人だ、あの黒淵メガネにきっと何かの弱みを握られていて仕方なく僕にああやって……。

 そうだ、そうに違いない。全て辻褄が合う。うん、そんな気がする。いや、もしかすると『最上さいじょうまこ』双子説……!? きっと何か事情があって……。 

 

 ……ちょっと待て、これはまたしても現実逃避というものじゃないのか? じゃあ、あの祭壇で笑っている『ミカエルスマイル』は現実世界ではなく異世界のものとでもいうのか? ああ、考えれば考えるほど分からない……。僕は一体()に心臓を打ち鳴らし、お金を使い、憧れを抱いていたというんだ……? 僕は彼女に対して勝手に幻想を作り上げていたとでもいうのか? いや、僕は彼女の全てを愛してたんだ……!

 だが、だが……、ああ分からない、分からない……! 考えれば考えるほど分からない……!!


 頭をかき乱した僕はふいに立ち上がり、デスクトップのパソコンを起動させ、液タブのスイッチも入れた。


「こんな時こそ、絵は救ってくれる……!!」


 デスクトップの大画面に現れたのは2次元化した『最上さいじょうまこ』。にっこりと可愛く微笑みながらマイクを持っている姿だ。きらびやかだけど、清楚さも漂うように意識してかなり時間をかけて描いた絵だ。そう、僕が描いた。


 そんなイラストに心をきつくしめつけられながらも、イラストソフトを起動させ、僕は液タブのペンをぎゅっと握った。何かをしている時だけ、思い出したくないことから解放される。だから僕は何かあったら描く。描いているときは全てを忘れられるからだ。


 まずは下書きからだ。ペンを慎重に走らす。


 僕はいつも歩きながらアイディアを探す。気分よく何かをしている時こそアイディアが生まれやすいからだ。そのお気に入りの場所の一つがあの橋だった。

 

 ……まさかあんな……、いや、考えるな、考えるな、隆斗りゅうと!!


「男性を描くのはちょっと苦手だけど……」


 僕は長身、黒髪、イケメン、クールという三拍子も四拍子も揃いまくっている男性を描いていく。

 ……今日3次元でこんな男性を見たような記憶もあるが、……思い出したくは、ない。


 そんな主人公が出てくる小説を読みながら想像を膨らませ、レイヤーを多く作っていく。やはりこの時間は本当に幸せだ。本当に何もかも忘れられるんだ。


 ――


「出来た……!!」


 大きく背伸びをした後に時計を見たら、いつの間にかもう深夜になっていた。無我夢中とはこのことだろな。


「お兄ちゃん~、まだご飯食べないの~?」


 水玉模様のパジャマを着た妹の由衣が部屋のドアを開け、ひょっこりと顔をのぞかせた。


「あ、ごめん、つい夢中になって……」

「わ~!! 何それーー! きれーー!」


 勢いよく駆け寄ってきた妹に、ちょっとだけどや顔をしてやった。


「兄ちゃんの力作だ!!」

「お兄ちゃん、どんどん上手になっててすごい~! この人男性だよね? すごく綺麗な人~。何の絵なの~?」

 

 目をきらきらと輝かせながらパソコン画面を見つめるかなり興味津々な妹に、ちょっと得意気になりながら僕は言った。


「『銀氏物語』へ送るファンアートだ!!」

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