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あんなペンネームを付けてしまったのに、  作者: 凛々サイ
最終章『破滅したけどまた二人で。』
35/40

最終章 5.僕は全速力で、もう後悔はしない。

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 どうにか18時までに新宿駅の東口にたどり着きそうな僕は、息を切らしたまま辺りを見渡し、慌てて妹の姿を探す。帰宅ラッシュの時間だからかなり人が多く、ここまで辿り着くのに思った以上に時間がかかってしまった。


 あの二人には申し訳ないけど、この待ち合わせ場所に連れてくるわけにはいかない。あの二人が顔を出して、もしまたあんな事が起こったら、またとんでもないスキャンダルをでっち上げられるかもしれない。そうなるともうアイドルとしての『最上さいじょうまこ』はそれこそ再起不能な可能性だってある。それに傷ついてるのに、元気なふりしたりして笑う彼女はもう見たくないんだ……!


 結局彼女に()()()()を言えるタイミングが掴めなかった。だけど、この証拠をしっかり掴んで僕は言う、必ず言うんだ……! 僕が『腐女子のJK』だって……!


「いた……!!」


 100メートル先程の人込みの中にいる見覚えある制服姿の女の子を発見した。由衣だ。だけど誰かに強引に手を引かれ、新宿駅の東口から歌舞伎方面へ向かっている。交番の近くで堂々とあんなことを……!


「やっぱりアイツだ……!!」


 あの変態男田中だった。するとその由衣の背後にいかにもチャラそうな男達が数人付いていくように歩いている。


「なんであんなにいるんだよ……! 田中だけじゃないのか……?」


 男達は横断歩道を渡っている。あと50メートルぐらいだ。帰宅中の人達の間を素早くすり抜けながら、死に物狂いでどうにか駆けて行く。男達は変態男田中を含め、4人はいるようだ。その背中がどんどんと近くなる。青に点滅中の横断歩道上で、人と人の間をうまくすり抜け、時には激しくぶつかりながらでも必死になって追いかけた。


 見えた!

 由衣の腕を握っているのは変態男、……田中だ。


「由衣!!」


 追い付いた!

 青点滅の横断歩道をぎりぎりで渡り切ると、妹の名を叫んだと同時に由衣の腕を掴み、引っ張るように自分の元へ寄せた。変態男田中は後ろからふいをつかれたせいか由衣の腕から手を思わず離したようだ。


「なんだ~?」


 やっと到着したのはいいが、にやついている男達の前でもうまともに立ってられない程に息が上がっていた。


「……い、妹に手を出すな」

「誰だ~?」


 変態男田中が僕の顔をまじまじと見ている。


「お兄ちゃん……、ごめんなさい。あまり役に立てなくて……」


 僕の後ろで隠れる由衣は、少し震えていた。


「遅れてごめんな、由衣……。十分だよ、この男に()()会えたんだから……」

「あ~、お前、この間日暮里にいた何も出来なかった兄ちゃんじゃん」


 目の前の憎たらしく喋る変態男田中は、思い出したのか僕の顔をじろじろ見ながら相変わらずしたたかに笑っている。


「……確かにあの時、僕は何も出来なかった。けどっ、だけど! 今日はもう後悔しない日にするって決めたんだ……!!」

「へ~、そうなんだ、かっこい~」


 男達はにやにやしながら始終どうでも良さそうに話を聞いている。


「お前は騙した……。ネットでもめちゃくちゃ言って……!! まこさんは、まこさんはな、これまでどんなに苦労してきたか、お前は知らないんだ……。まこさんはな、すっごく頑張ってるんだ……!! それをあんなでたらめででっちあげるなんて……!!」


「何、君って『エンジェラー』なわけ~? そりゃー大好きなアイドルのスキャンダルは辛いよね~。事実でも」


「だから事実じゃないって言ってるだろ!!」


「はいはーい。今日呼び出したのだって、俺をひっかけるためっしょ? どうせボイスレコーダーでも忍ばせてんでしょ~。その手には乗らないよ~」


 憎たらしいその顔で全てお見通しといった表情だ。周りの3人も同類なのか余裕の表情だ。


「そんなもの持っていない……!」

「またまた~。見え見えすぎるっしょ。それにさー、今日誘ったのはこの由衣ちゃんだよね~? 『RAIN』にもしっかり残ってるし~。これって由衣ちゃんの枕営業? あ、パパ活って奴かな~? 由衣ちゃんが捕まっちゃったりして……」


 今にも泣きそうな由衣をじろじろ舐める様に見ながらいやらしい目つきをしている。そんな変態男が視界に入る度に、吐き気さえする。


「違うに決まってんだろ!! 僕が頼んだんだ……、お前と会うために……! 僕、僕は……、お前のやったことは決して許さない……。まこさんに、謝ってほしい……! 」

「お兄ちゃん……」


 僕を気遣ってくれている妹の心配そうな声が届く。


「ははっ、謝るだって~? 面白い事言うなよ、坊ちゃん。なんで俺が謝らないといけないわけ~? 俺が枕営業されかけて、ジュースまで掛けられたっていうのによ~。俺が謝られるほうっしょ?」

「……なんでそんなでたらめで酷いことが言えるんだよ……。由衣目当てで近付いたくせに……。そしてまこさんをネタにして金をもらったんだろ……!?」

「はー? ほんと冗談言うのやめてくれよ~。ちゃんと実在する出版社だよ? 名誉棄損めいよきそんで訴えることも出来るんだよ~? だいたいこんな細っこい腕で、妹も大好きなアイドルも守るってわけ? もっと筋肉付けた方が身のためだね~」


 変態男田中に腕を掴まれた僕は身動きが取れなくなってしまった。


「離せっ、離せって!」

「お兄ちゃん!」

「由衣! もうここから離れるんだ!」


 どうにか変態男田中の腕を振り払おうと激しく抵抗すると持っていたスクールバッグが地面へ投げ出されてしまった。その勢いでサイドポケットからスマホがはみ出してしまっている。その画面にはアプリの起動中画面が映し出されている。録音アプリだ。


「なに~? やっぱり録音してんじゃーん。嘘つき野郎め」


 変態男田中が僕の体を押し飛ばすようにして乱暴に2人の知らない男に僕の体を預けると、僕のスマホをスクールバッグから拾い上げ自分のポケットに入れた。僕は男2人にがっしり腕を捕まえられていて完全に抑えられてしまった。録音もばれてしまい、由衣がこんな僕を見つめたまま顔面蒼白になっていてその場に立ち尽くしている。そんな由衣に変態男田中ともう一人の男がじりじりと近付いている。


「由衣っ、いいからはやくここからっ……!!」


 どうにか振り払おうとするが、僕の腕を掴む男2人にこの体をがっつりと固定されていて身動きが全く取れない。


 ……なんて頼りない兄なんだ。

 妹一人守れないなんて……。

 どうして僕はいつもこうなんだろう。

 勇気を絞り出しても結果は同じだっていうのか……?

 僕はやっぱり僕でしかないって神様は言いたいの……?

 僕はまこさんを救いたかったんだ、なのに、なのに……



 ――僕にはやっぱり何も出来ないっていうの?



 その時だった。


 とてつもない勢いで変態男に何かがぶつかった。


 由衣の目の前で、その変態男田中が左側に吹っ飛ばされ、その隣にいた男に勢いよくぶつかり、パチンコ玉のように一緒に仲良く転がった。


「くそっ、なんだ……!」


 すると目の前には蝶のようにひらひらと舞うような美しい何かが現れた。


 男達に戦闘モードのまま、僕にその勇ましく美しい横顔を見せてくれた。


 それは紫の花柄の戦闘服をまとった……じゃなくて、ひらひらとした軽やかなワンピースを身に着けたロングヘアーの少女――


「まだ諦めるのは早いぞっ! 立石!!」


 不適な笑みを持つ『守ってあげたい少女ナンバー1』のアイドル、『最上まこ』だった。

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