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あんなペンネームを付けてしまったのに、  作者: 凛々サイ
3章『お互いの秘密を重ね過ぎて、』
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3章 2.私は日暮里で、心情ほころぶ。

「おい、水戸みと……。緊張するぞ……」

「なぜあなたが緊張するのですか」

「だって、だって……、誰だって緊張……」

「会うのは私ですが」


 土曜日、ついにこの日がやってきた。

 私は水戸の車の後部座席に乗り、日暮里駅へ向かっている。やばい、心臓が爆ついている。仕事でもなかなかここまでバクバクする日は滅多にないぞ。


 今週はとにかく怒涛な1週間だった。今日の予定を無理やり開けるため、仕事を平日にずらしてもらい、学校はほぼ行けず仕舞いだった。普段はなるだけ学校を休まないように土日や祝日、夜に仕事を入れてもらうように水戸にはスケジュール管理をしてもらっている。だが、今日と言う日の予定を開けるために水戸にまた無理なお願いをしてしまった。


「水戸、色々迷惑かけてすまないな」

「今に始まったことではありませんが」


 水戸ははっきり言ってエリート中のエリートだ。腹黒く成果主義を貫き、生産性の低い事はあまり好まない。そのおかげで今の私がいるといっても過言ではない。

 だが、そこには時折、人間臭さも垣間かいま見せる。


 私は過去に一度このアイドル業から身を引こうとしたことがある。


 ちょうどその頃、私には人生で二人目となる戸籍上では父となる男がいた。

 だが、当時中学生だった私にまで女として手を出すというハイパー鬼畜で、母に暴力までふるうというドラマにもそこまで酷い奴あんまいないっしょ、な地獄に落ちやがれ野郎だった。そんな毒男と母親がついに離婚をしたわけだ。

 そこと重なるようにアイドル業もなかなか起動に乗らず、なにもかもがうまくいかなくて、自暴自棄になっていた時期がある。今となっては笑い話に出来るし、ばかげていると思うが「この世で私が一番不幸だ」なんて当時は思ってたわけで。


 だがそこにはいつも水戸がいた。


「……いつも助けてもらってばかりだな」


 水戸がバックミラー越しに私をちらっと見た。


「私はあなたのマネージャーですから」


 いつも言葉少なく冷たくもあるが、この水戸の優しさがじんわりと心に染みる。

 あれ、私ってS派だと思ってたけど、もしかしてⅯ派なのかもしれない。


「到着しました」


 車を日暮里駅近くの駐車場に止め、水戸と少し歩くと、そこに見えるのはずらっと真っ直ぐに並ぶ繊維店だ。道路の両側約1キロにわたって90店舗以上の店が並んでいて、洋裁などに使われる布や材料がそれはそれはもうたっくさん売られている。

 ここは大正初期からあり古めかしくもある歴史ある繊維街なのだ。


 私がまだそれはそれは愛くるしい幼子だった頃、洋裁をしていた母や祖母に連れられ来たことが何度かある。空港も近いせいか、最近は外国人の姿も多く見られるようになり、より国際的になりつつある場所の一つだ。


「私はさりげなく気配を消して近くに座る。変装してな。水戸、あとは宜しく頼む……」

「名残惜しそうですね」

「……ちょっとな」

「『腐女子のJK』様ですか」


 そう、今日私は初めて『腐女子のJK』と対面するのだ。直接ではないが。


「私の『神』だからな!」


 水戸へにこやかにそう答える。

 一体どんな女子なんだろうか。

 メールをやり取りする限り、少し奥手で健気そうな印象だ。


 もし可能なら私が『最上さいじょうまこ』だと伝えた上で、本当の友達になりたい、と密かにそんな願いを抱いている。

 だって、本性を知っているのは家族や仕事関係以外ではアイツ以外見当たらない。綺麗さっぱりなこの自分で話せる同世代の奴なんて()()()以外にいないのだ。


「立石隆斗(りゅうと)、以外か……」


 水戸と日暮里駅の近くで別れた後、とぼとぼと歩きながら一言呟く。

 立石とはまだまだ話し足りないことが多そうだ。『クリンク』の件だってそうだ。身近に同じような創作活動をしている者はそんなに多くはいないはず。似た趣味を持っている者と出会える事自体が奇跡に近いはずなんだ。

 

 私はなぜか今、アイツに会いたいな、と思ってしまった。

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