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あんなペンネームを付けてしまったのに、  作者: 凛々サイ
2章『そこから始まる二人の夢に、』
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2章 7.僕はコンビニで、イケメンに叫ぶ。

「由衣、どこ行ったんだよ……」


 今日僕は妹の由衣と浅草に来ている。『東京スカイタワー』も綺麗に見えるしお気に入りのスポットだ。その浅草寺で、今日はとあるリベンジと願掛けをする予定だ。由衣も行きたいと言ってきたので一緒に連れてきている、はずなのにちょっと目を離したらいなくなってしまった。由衣のスマホに電話をしても出てくれない。


「連絡が来るまで待つしかないか……」


 仕方なしに、飲み物でも買おうかと近くのコンビニに入った。

 すると栄養ドリンクコーナーの前で、長身ですらっとした真っ黒なスーツ姿の男性があり得ないほどのドリンク剤を腕に抱え、まだ掴み取ろうとしている。

 すごく目立つ。その髪型はびしっとオールバックに決められ……、ってどこかで見たことがある気がするんだけど……。


 するとその男性はいきなりこちらへ振りむいた。

 腕にあふれんばかりの『眠眠撃破』を抱えて。


「あなたは立石様ですね」


 やはり、『最上さいじょうまこ』のマネージャー水戸みとさんだ……!


「は、はい……」


 コンビニの中でなぜか二人の間に冷たい空気が吹き抜ける。

 ……と思っていたら冷蔵庫から流れ出る冷気だった。


「あなたもこれが欲しいのですか」

「い、いえ!」

「ずっとこちらを見つめていたので欲しいのかと」


 そんな葬式会場の従業員並みな恰好した抜群スタイルの非の打ち所がないイケメン男性が『眠眠撃破』を大量に買い占めようとしてたら誰でも見つめるかと……


「先日は急に失礼いたしました。……最上さいじょうの説明不足で色々と困惑されたでしょう」

「い、いえ……」

「あの後、彼女は嬉しそうにしていました」

「え……?」


 嬉しそうに……?

 リピートアフタミーと言いたい。


「彼女がなぜあのような性格になったのかご理解いただければ私としても安心です」


「せ、性格……?」


「最上は、家庭事情が少し複雑でして、父親がいないのです。母親も病弱で働けずでして。長女の彼女は父親の代わりとなり、一家の大黒柱なのです。()()()()()()()姿()からは逃れられないのです。学校ではあなた様しか素性を知りません。何卒ご理解、お付き合いの程、宜しくお願い申し上げます」

 

 ……どういうことだ。


 大量の『眠眠撃破』を抱えながらかなり真剣にそんな衝撃的なことを言って、そのまま去っていく水戸さんの後ろ姿をぼーっと眺める。


 『最上まこ』は家族の為に、父親の代わりに、自分を押し殺してまでアイドルをやってるとでもいうのか……?

 学校でも偽りを続けて。友達も作らずに……?


「……ちょ、ちょっと待って下さいよ!」


 はっと気が付いた時は時すでに遅しだ。

 コンビニ店内で大声を出してしまった僕を皆が見つめている。


「す、すみません……」


 思ってもみない行動をしてしまった自分を恥じらっていると、数メートル先で立ち止まった水戸さんは振り向き僕を冷静に見つめていた。『眠眠撃破』が今にもこぼれ落ちそうだ。


「少し喋り過ぎました。今は時間がなく。申し訳ございません」


 そのままレジに行き支払いをスマートに済ませ、大量の『眠眠撃破』の入ったレジ袋を持つと瞬く間にいなくなってしまった。


「どういうことだよ……。なんでそんなことが許されるんだよ……」


 あの凄まじい性格も父親の代わりでああなった、って言うのか……?


 その時スマホの着信音が鳴り響いた。由衣からだった。


「お兄ちゃん、ごめん~。マナーモードにしてて気が付かなかった~。今ね、雷門の前にいるよ~」


――


 雷門の前まで行くと、これでもかと言うほどにスマホであのでっかい提灯の写真を撮っている妹がいた。


「由衣、探したんだからな~。どこ行ってたんだよ」


 由衣はシャッターを押す手を止めると、なぜか目を輝かせながらとっても嬉しそうに僕へ振り向いた。


「まこちゃんに会いに行ってたの!」

「え!?」

「あのタワーの前でね撮影やってたの見つけてね~」

「撮影!?」


 道理でマネージャー水戸さんがあのコンビニにいたわけだ。

 ……だがなぜあんなに『眠眠撃破』を買い込んでいたのだろうか。


 由衣には水戸さんと僕が面識があるってことは言わないほうがいい気がするな……。色々質問されても困るし……。


 由衣から撮影現場の様子を聞きながら浅草寺の雷門をくぐると、目の前に飛び込んできたのは日本で最も古い商店街の一つ、仲見世通りだ。

 ここは約250mもの長さに約90店舗ものお店が並んでいて、美しく並んだ電飾の看板と活気あふれる雰囲気に気分も盛り上がる。


「まこちゃん、私に手振ってくれたの~。だからこの間のお礼言ったんだよ~」

「お礼ってまさか……」

「お兄ちゃんのことはもちろん言ってないよ~。喜んでたって言った~」


 ……僕が『最上まこ』の『エンジェラー』つまり大ファンだということはあの本人には知られていないようだ。にこやかに話す妹の横で胸をすごく撫で下ろした。


「あ、あのおもち美味しそう~」


 由衣と美味しい食べ物を食しながら、浅草寺へ向かう。ちなみに食べ歩きは禁止されているので、店の前で食べていると、ここを行き交う様々な人々が目に入る。外国人や日本人、老若男女、色々な人々が過ぎ去るこの場所はまるでテーマパークのようだ。


 僕は何かあればいつもこの場所へ願掛けに来る。


(『ゲイのおっさん』と一緒にプロのイラストレーターとプロの小説家になれますように……!)


 本道の目の前に到着し賽銭さいせんを入れると手を合わせた。

 いつもこうやって願掛けをし、そして『おみくじ』を必ず引く。実は僕、この寺では『凶』しか引いたことがない、と言えばにわかに信じられないだろう。だが本当だ。2年連続『凶』なのだ。


 だから『リベンジ』なんだ……!

 『凶』を今年こそ『大吉』に変えるために……! 


「やった~! 大吉だ~!!」


 隣でぴょんぴょんと跳び跳ねて喜ぶ妹の横で僕は……。


「お兄ちゃん、手が震えてるよ~。何だったの~?」

「……」


 この手に握るのは……、想像にお任せする……。


 未来に不安しかない僕はいつものようにおみくじを境内に結び、『東京スカイタワー』を遠目に見ながら帰路を目指す。


「まだまこちゃんいるかも~? お兄ちゃんも行ってみる?」

「いや、いいっ!」


 内心、すごく行きたい、行きた過ぎる……!

 学校では決して見られない大天使ミカエルな『最上まこ』がすぐそこにいるわけだ。


 だがそれは偽りの姿だ。家族のために自分自身を押し殺した姿――。


 僕は今まで彼女の一体何を見ていたのだろう。彼女を知ってからもう3年。あれほど見続けていたのに、一切彼女の思いや本当の姿を見ようとしていなかったのかもしれない。


 あの本来の姿を知ってまだほんの少しだけど、あの『最上まこ』に対して今まで感じたことのないような別の何かを感じる気がした。

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