プロローグ
夢を見ていた。
夢の中の俺は、ドーム球場のど真ん中に特設されたステージに上がっていた。
目の前にはサイリウムを高々と突き上げて俺たちを待ってる人がわんさかいて、見上げるとそれは五階席までびっしり詰まっていた。
この真っ暗な会場を照らしている色とりどりのサイリウムは、俺たちへの期待を顕現させた光そのものだ。光はここにいる一人一人の想いを一つに繋ぎ合わせて、何層もの巨大な円を作り上げている。
その中心地に立つ俺は、視界いっぱいに広がる極才色のパノラマに見惚れて思わず生唾を呑み込んだ。
そして、次の瞬間。
いくつものスポットライトが、一斉に俺たちを照らしだした。
途端に湧き上がる歓声。
そいつに釣られて心臓がドクンと早鐘を打つ。逸る気持ちをグッと堪えて、咄嗟に俺はメンバーの表情を窺った。彼女たちもこちらを見て――笑っている。
俺たち五人は同時に頷いて、それから全員でオーディエンスに応えた。
「「「「「こんにちは、今日は一緒に世界一のライブを創っていきましょう!」」」」」
――それでは聴いてください。
……。
…………。
………………。
残念ながら夢はここで終わっている。
そりゃそうだ。俺たちにオリジナル曲なんてもんは存在しないのだから。つーかなんでよりによってこんな夢見てんだよ。現実と差がありすぎて死にたくなるんだが……。
意識が覚醒するに連れてあの最悪過ぎる光景が蘇ってくる。
だだっ広い視聴覚室、その最前列で突っ立ってる俺と宮下先生。そしてそんな俺たちからひたすら目を逸らそうとする部員たち。
いきなり先生が声を張り上げる。
――おい誰か、相沢と一緒にバンドを組みたい奴はいないか?
「ああああぁぁぁぁ!」
発作のように叫んで枕に顔を埋めた。そのまま布団で簀巻きになって高速ローリング。はみ出た足でバタバタ。とどめに何度も顔を枕に打ち付けてやった。
なんでんなことになったんだ!
何度繰り返したって疑問と後悔は払拭されやしない。寧ろ更に解像度を上げて襲い掛かってくるだけだ。
それをどれだけ分かってても俺は「うわぁぁぁ」だの「うおぉぉぉ」だのとにかくひたすら喚きまくっていた。盗んだバイクで走りだす勇ましい不良少年とは対照的な、あまりに惨めで情けない十五の朝がそこにあった。
そうやって無様に吠え続けながら、ふと思う。
一体、何処から間違ったんだろうな。
いや、そもそも最初から間違ってたのかも知れない。
それでも全て間違わなければこんなことにはならなかったはずだ。
俺のクヨクヨタイムは五秒で終わりやしない。やな感じーの一言であっさり切り替えられるほど楽観的じゃないし、前向きにもなれないからだ。
だから一人で反省会を始める。
絶賛上映中な俺の黒歴史の幕開けは、恐らくあの場面からだ――。