日本より:冒険者
これは最初にダンジョンに挑んだ者の話。謎の声が人類の頭に聞こえた夜のこと。
「おい、見ろよ学。この投稿、ギルドについて書いてあるぜ。本当にギルドでジョブについて聞けたらしい。俺らも行こうぜ」
「でもこの投稿に書かれてるギルドの場所、ここから相当遠いぞ」
「だけどよ、他の奴の投稿にもそいつの市の市役所で聞いたこともない機械チック音声が流れたって書いてあるんだぜ。試しに俺らの方にも行ってみるのも悪くないだろ。ほら、とっとと行くぞ。善は急げだ」
「善って決まってないだろ」
「うっせーよ。ほら、準備しろって」
「へいへい、太郎様のお望み通りに」
そう話しているのは二十代半ばの男性二人。いつも太郎が話しを勝手に纏め、学を引っ張っていく。今回も同じような形で太郎は学を車に乗せ、市役所に向けて走らせた。太郎たちは大方冗談と思い、遊び半分だった。ゲームは好きだったが、現実と仮想の区別をはっきりつけていたから。
太郎たちは市役所に着いたが辺りに自衛隊の姿はなかった。まだ派遣されていなかったのだろう。
そして、市役所に入りその投稿が本物だったことを確信した。市役所内部には非現実的な映像が壁に張り巡らされていた。太郎たちは息を飲む。そして、高揚感が凄まじかった。ギルドに質問すると答えてくれることを思い出し、あれやこれやと質問していった。そして、ある質問を投げかけた。
「ダンジョンってのはどこにあるんだ?それに俺らはダンジョンに入れるのか?」
すると一つの映像が地図に変わり、無数のピンが立てられていった。
『今示した場所にダンジョンがあります。赤く示した場所は比較的難易度が高く、青く示された場所は比較的難易度が低くなっています。そしてあなた達がダンジョンに入れるのかどうかという質問の答えは、可能です。戦闘職に就いているのならダンジョンに挑むのは難しくないでしょう。しかし、命の保証がされているというわけではなく命を失う可能性もあるので挑む際には充分にお気をつけください』
ギルドからの答えを聞いて、太郎たちの興奮は最高潮に登った。死んでしまうかもということなど頭の中にはなく、何度も画面越しに見てきた戦闘、探索を自分たちが実際にできると思うと興奮して堪らなかった。
「俺らダンジョンに挑めるってよ!俺、自分でも驚くぐらい今興奮してるぜ!」
よっしゃ!っと両手を上げて喜ぶ太郎を見て、学にも笑みがこぼれる。そして、はち切れんばかりの笑顔で学は言う。
「こうなったら行くっきゃないよな!ダンジョンに!」
「おう!そうと決まれば一番近いダンジョンに行こうぜ!青ピンで示されてるし俺ら二人とも一応戦闘職だから丁度いい!」
こうして二人はダンジョンに挑むまでの計画を立て、準備を進めていった。ダンジョンには魔物がいるらしい。きっとゲームの敵キャラクターのような奴がいるのだろう。
二人は自身のジョブについてお互いで確認しあったり、武器になりえるものを調達したりとして準備が整ったのは質問をした日から3日後だった。二人は早朝、まだ太陽が昇っていない時間に合流してダンジョンの場所へと向かった。ダンジョンの示された場所を確かめてみると、そのほとんどが遺跡があった場所だった。そして、巨大な穴が開いたことも調べてある。そしてダンジョン入り口の周りに自然に建物が形成し始めてきているようだった。
しばらくして、ダンジョンがあるという場所の近くまで来てみたのだが、そこにはあったのはやはり巨大な穴ではなく、見たことのない巨大な建物が建っていた。その建物は神殿のような形をしていた。しかし形は整っていなかった。一部分だけ門のようなものがあり、おそらくそこが入り口なのだろう。門は開いており、その内部ををのぞかせる。内部の中央には斜め下に穴が続いており、おそらくその穴がダンジョンに続くといわれる階段なのだろう。
二人は足早に門へと向かう。しかし、当然その建物の周りには自衛隊が散らばっていた。ダンジョンに挑むにはまず、自衛隊の目を盗むことから始まりそうだ。そう思い二人は建物周辺に止まっていた自衛隊の車などを使って身を潜めつつ、順調に門前まで進んでいった。
幸い門前には自衛隊員は一人しかおらず、どうにかして潜り込むことが出来そうだ。というのも学のジョブは盗賊だった。名前は悪いが、この職業は隠密に長けており自身の周りの音や気配を消すことができる。ギルドからはそう言われ、実際にその効果は確認していた。学を含めて人二人くらいならこの範囲に入ることができる。そしてこの暗がりが重なることで侵入には絶好だ。
ジョブにそのような特性があるとは知っていても、やはり緊張はする。二人は必死に息をひそめて自衛隊員の目を盗み入口へと駆ける。
しかし・・・太郎があと一歩のところでつまずき、転んでしまった。そのことに自衛隊員の一人が気づき、こちらへ向かって来る。
「早く立て!ダンジョンの中に逃げるぞ!」
「っ!すまん!」
太郎たちは急いであの穴まで走っていく。穴の近くに来て確信する。やはり地下に続いている階段があったのだ。太郎たちは急いで階段を降りていき、広がりについたところで階段のそばに身を潜める。そして、後からは自衛隊員が降りて来て、そのまま奥に進んで行ってしまった。
side: 若い自衛隊員
全く、中に入っていった二人組みはどこ行ったんだ。一本道が続いているだけだし、奥に行ったことは確かだと思うが。俺も無断で入ってきてしまったな。連絡入れたとは言え独断で動いてしまっている。後が恐い。
そんな時、前方で音がした。
きっとあいつらだろう。
「大人しく出て来なさい!今ならまだ注意だけで済むようにしてやるから」
最初の言葉はきつかったが、後の言葉は優しく言い放った。しかし、俺の言葉に反応したのは、あの二人組の男たちではなかった。
「ギギィ」
刃物を持った異形の怪物だった。ゲームでこのような怪物を見たことがある。そうゴブリンだ。俺はリアルで見たこともない怪物を見て、恐れおののいた。咄嗟に拳銃に手が伸び、拳銃を構える。そして、思っていたより手に力が入っていたのだろう。構えた瞬間に拳銃のトリガーを引いてしまった。しかしセーフティーが掛かっている。焦りつつも、セーフティーを外しもう一回トリガーを引く。
「っ!!何でっ!!」」
俺が驚いたことは、銃を撃ってしまったこともあるが、それ以上にゴブリンには銃が効いていなかったのだ。ゴブリンは自分に相手の攻撃が効かないことが分かると、不敵な笑みを浮かべて勢いよく俺に飛びかかって来る。
ゴブリンは手に持っていた刃物で俺の横腹を切り裂く。血が服に染み付く。もう一撃入れようとゴブリンはこちらに再度走り出してくる。
(もうお終いだ…)
そう自分の人生を諦めていた時、キィンと甲高い音がなった。
「大丈夫か?」
そう声をかけてきたのは、さっき俺が追いかけていた内の一人だった。もう一人はあの怪物と刃物を交えている。
「学!手伝ってくれ!」
そう言われると、俺に声をかけてくれた一人は、もう一人を手伝いにいった。それからすぐに決着がついた。二対一の状況だ。当然、二人組みの方が有利で勝利していた。そして、二人組のうちの一人が音もたてずに近寄って俺に手を差し伸べてきた。
「ほら、早く出るぞ」
「学、こんな危険を冒してまで入ってきたのにもう出ちまうのかよ」
「人の命が懸かっているのにこのまま探索するわけにはいかないだろ」
「そうだよな。すまん。早く地上へ運ぼう・・・ん?なんだこれ」
もう一人の男は自らが倒した怪物を調べ始めている。その手には不思議な色に光った結晶が握られていた。それを不思議そうに眺めている。
「おい、早く手伝ってくれ」
俺を介抱してくれている男がもう一人を呼ぶ。呼ばれた男はその結晶をポケットにしまいこちらへ向かってくる。男二人から肩を借りながら俺は腹部を押さえつつ地上へ帰還した。
*
太郎と学はこっぴどく自衛隊から注意を受けることになった。しかし太郎はこっそり結晶を持ち帰っておりギルドが日常的になった頃、なんとなしに太郎はその結晶についてギルドに聞きに行った。
その結晶は魔石と呼ばれるもので魔物の体内で生成されるものだという。魔石は砕くとその中に蓄えられたエネルギーを放出する。強力な魔物ほど魔石の大きさと質が高くなり、その魔石に蓄えられるエネルギーも多くなっていくのだという。
この情報を太郎はダンジョンに潜った時のことと共にネットに流した。するとこの情報は瞬く間に世間に広まり、世間には魔物と魔石というものが知れ渡った。
だが、これだけではいくらギルドの情報だとしても完全には信じてはいなかった。しかし、国はこの情報に目をつけ、ダンジョンから魔石を採取することに成功した。魔石を調べていると、やはり砕いたときにエネルギーを発することが確認された。そして驚くことにこのエネルギーは他の全てのエネルギーに代替可能であった。
新しいエネルギー源の発見とその採取箇所であるダンジョンが国中に出現したのだ。この機を見逃すはずはない。ダンジョンに潜るための試験の設定やダンジョンに潜る者の募集を行い始める。
この二人がダンジョンに挑む先駆けとなり、後にダンジョンに潜る者が正式な職業として認可されることになる。そしてそれ続くものも多く現れた。憧れからかそれとも刺激を求めていたのか。
ダンジョンに挑む者、彼らはこう呼ばれた・・・冒険者と。