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夜空、言葉を紡いで

ミロウのダンジョンの3階層の攻略を終え、アルさんたちのパーティー“ルミーユ”と組んだ僕たちはセントルへ戻ってきていた。そしてそのまま流れで夜ご飯を一緒に食べることになった。


ギルドへ今日の収穫を報告した後、ギルド内にある食堂へ向かう。報奨金がそれなりにあったようだし、僕たちのパーティー加入のお祝いとして今日は奢ってくれるそうだ。


六人で向かい合うように腰掛けれる円卓に座り、机の上に置いてあるメニューが配られた。そのメニューはどれも聞いたことのないもので何が何だか分からない。アルマタリスも久しぶりの現世に同じ感想を抱いているのだろうか。


アルさんは近くを通りかかった店員のお姉さんに声を掛けて呼び止め注文を始める。


「ラッキ4つ、それと・・・お前らはどうする」


ラッキとはなんなのか。今頼んだものは食べ物なのか飲み物なのか。さっぱりわからない。とりあえず同じものを頼んでみるか。


「僕も同じので」


「私も同じものをください」


そう僕たちが言うとアルさんは笑って見せた。


「うし、わかった。姉ちゃんラッキ6つで。あとは食べ物だがこっちで頼んでおいていいか」


ラッキは飲み物なのかな。それとアルさんが食べ物を頼んでくれるなら任せよう。これ以上僕がメニューを見たところでどうしようもないしね。


「お願いします」


アルさんは食べ物を5、6品頼んでくれた。食べ物を待っている間、少し話しているうちに直ぐに飲み物が到着した。そんな些細な時間の中で僕はアルマタリスが笑ってセリナさんと話しているのを横目に見ていた。


届いたラッキと思われる飲み物は白濁していた。不思議そうに見ているとアルさんがよっしゃと言いながらジョッキを持って立ち上がった。


「今日はみんなのおかげで3階層のボスを攻略できた。そしてこれからは未踏破の地で戦うことになる。不安はあるが全力で楽しんで攻略しよう。明日からの攻略のために、それと今日から俺たち“ルミーユ”に加わる仲間の奏太とアルマタリスのために、乾杯!!」


「「「乾杯!!」」」


みんな立ち上がってジョッキを合わせる。カンッと音が響きその後にアルさんはジョッキに入っている分の半分以上を飲み干した。


すごい飲みっぷりだ。そんなに美味しいのかな。どんどんこの飲み物に興味が湧いてくる。見た目こそ原液を割って飲むあの飲料に似ているが果たして。


恐る恐る飲んでみると良い香りが鼻を突き抜ける。味はブドウのような風味に何か薬草のような香りが付けられている。美味しい。確かにいけるな。料理に合わせて飲んだらもっと美味しそうだ。


そう思っているとフライドポテトのような料理と塩気の効いた豆が机に並ぶ。それらを食べつつ、ラッキを飲む。おお、これは止まらない。それからも頼んでいた料理が運ばれてきていつの間にか僕のジョッキは空になっていた。


段々体がポカポカしてきて自然に笑みが溢れてくる。それと同時に気分も高揚してきている。特段何かが面白いと言うわけでもないのに声を出して笑ってしまいそれを見てアルさん達も笑っている。


「おぃおぃ、いい飲みっぷりだなぁ」


とろんとした目で、しかも声もなんだか変になったアルさんが話しかけてきた。


「違う酒もいけるんじゃねぇかぁ」


「その辺にしておけ、奏太が困っている」


テリーさんがアルさんを制止する。するとアルさんの標的が僕からテリーさんに移り2人の談笑に変わっていった。


待った。アルさんはなんて言っていた?酒とか言ってなかったか?つまりこのポカポカは僕が酔ってるからってことなのか?


お酒なんて飲んだことないし今の自分の状態がお酒によるものなのかも分からない。この世界ではお酒は15歳から飲めるらしいけど、それでも僕は地球出身の日本育ちだ。お酒は20歳からという常識を持っている。


・・・まあいっか〜。気分いいし、みんなとのおしゃべりも止まらないし。なんだか本当にアルさんたちのパーティーの仲間になれている気がする。


その後の酒の席ではみんなのオススメのお酒だとか趣味だったり、そして僕が修行していた一年にあったアルさんたちの行動を聞いた。


どうやら僕と出会った時には街道を通る商人の護衛にて経験を積んでいたらしいがそれぞれが十分に自信を持ったことでダンジョンから溢れてきた魔物の討伐にシフトしたようだ。


確かダンジョンの魔物の方が原生の魔物より強いんだっけ。きちんと段階を踏んで成長していっているようだ。そしてダンジョンに挑めるほどの実力をつけ今に至るという。


それから僕とアルマタリスのことについての話しになった。どんな師匠のもとで鍛錬を積んでいたかと聞かれた際には魔法と武術に秀でた師匠に僕は武術、アルマタリスは魔法を学んだということにしておいた。


僕に至っては事実だけどアルマタリスはそうじゃない。ならば魔術と武術を極めた師のもとで修行したということにするのがベストだろう。


そして次は僕たちの関係についての話しに変わっていった。ダンジョンからの帰り道に味方をしてくれていたエディアさん達も今はノリノリだ。


僕は変わらずただの仲間と言った。お酒のせいで本心が出てしまうかもと心配したがそこは自制できたみたいだ。


そして今度はアルマタリスの番になった。アルマタリスはラッキのジョッキを隅に置いており、新しいお酒を一口含んでから話した。僕はアルマタリスの回答を息を呑んで待つ。もしかしたらセントラルで聞いたものとは別のものになっているかもしれない。


「特にこれといったものはありません。奏太さんと同じく仲間だと思っています」


アルマタリスは僕のことを仲間だと思っていると言ってくれた。そこに少し安堵する。人前を気にした発言かもしれないが少し嬉しい気持ちになる。


そしてその嬉しさからか談笑していた時にアルさんにオススメされたお酒を追加で頼んですぐに飲み干してしまう。それにまたアルさんがのってきたが、今度はパーティーのみんなもいい飲みっぷりだとか、私と対決しましょうだとか僕を囃し立てる。


それで更に気分が良くなった僕はもう一杯と他の席の片付けをしているお姉さんに向かって注文した。


そして3杯をセリナさんと対決して飲みきったときに店の閉店時間ということもあり僕たちルミーユは食事を切り上げてお別れとなる。明日の集合時間と場所をギルドの外で話し合ってからそれぞれの岐路につく。


僕とアルマタリスは焔が取ってくれた宿屋に向かって歩いていた。夜風が涼しく気持ちが良い。しかし依然体はポカポカしており胸の鼓動も鳴りを潜めない。お酒のせいだろうか。


食事の時の気分が冷めやらぬままとりあえず何か話したかった僕は1人でに話し始める。アルマタリスが反応してくれなくたっていいとも思っている。


「僕さ、魔法を使ったりだとか魔物と戦ってみたりだとかこの世界に来てから初めてだらけで不安しかなかった。地球にいる時には全部無縁のものだった。だからさ、焔とかルミーユの人達だとか・・・ア、アルマタリスがさ僕に寄り添ってくれてとっても安心したし頑張ろうって思えたんだ。だから今はただ地球に帰りたいって思ってるんじゃなくてね、みんなのために何かお返ししてから帰ろうと思ってるんだよ。ルミーユのみんなにはダンジョン攻略って形で返そうと思ってるけど、君や焔には何を返せばいいんだろうね」


閑散とした街には僕の言葉だけが響いている。その言葉もやがて夜空の闇に飲み込まれるように溶けて消えていく。僕は話し続けた。


「でもね、焔はおっかないんだよ。修行をさせてもらったことや色んな経験を積ませてくれたことには感謝してるけど嘘で僕の弟を人質にとったり、君さえ殺す覚悟を持って僕に頼んできた。本当に同じ人間なのかって誰かを疑ったのは初めてだったよ」


また僕の発した声が響いている。しかしこの静けさにこだましたのは僕の声だけではなかった。フフっと隣から声がした。アルマタリスの方を見やると彼女は口元に手を添えて微笑んでいた。


ただただ嬉しかった。セントラルを離れてから彼女が僕に対して初めて笑顔を見せたのだ。彼女が僕に本気で嫌悪感を抱いているのではないか、一緒に行動することは迷惑なんじゃないのかとずっと考えていた。


けど今彼女が見せた笑顔に少し安心する。そして高揚し舞い上がった僕は更に言葉を紡ごうとする。


しかし、自らの想いとは別のものが込み上がってくる。僕は口に手を押さえながら、道の隅へと駆け出す。


おえええ〜


気分が上がったせいだろうか。気持ち悪くなってきて吐いてしまった。


そんな僕にアルマタリスが駆け寄って背中をさすってくれる。段々と落ち着きを取り戻した僕は涙目で彼女にお礼と謝罪をする。


「大丈夫ですよ」


何でだろうか。今の彼女は今までの雰囲気よりも丸く、それこそセントラルでのお別れ会の時に見せていたあの雰囲気に近しいものを感じる。


今ならアルマタリスの本音が聞ける気がする。僕はギルドの食堂での回答をもう一度聞いてみる。


「アルマタリスは僕のこと仲間って思ってくれている?」


アルマタリスはまた少し笑った。


「はい、それはもちろん奏太さんは仲間だと思っていますよ。そして第二の生を与えてくれた命の恩人でもあります」


ここには2人だけしかいないのだ。それに今の彼女の雰囲気。確かに僕のことを仲間と思っていてくれそうだ。内心ホッとした僕は少し気恥ずかしくなり視線を下に逸らす。


でも、とアルマタリスは続けた。


「奏太さんのことは嫌いではないです。ですが苦手ではあります。貴方からはゼノ様と同じ魔力を感じます。それはとても懐かしく暖かいものであります。しかし同時に知り合って間もない別人からその魔力を感じるので、気持ちが良いものではないのです。知っているのに知らない、その感覚に慣れていないのです」


なるほど、アルマタリスのこれまで僕を避けていた行動にはこんな理由があったのか。確かにゼノさんと同じ魔力を見ず知らずの僕から感じたら頭の整理が追いつかないだろう。しかし、どうして今になって距離を近くすることができたのか。


「けれど今の奏太さんを見て分かりました。奏太さんの嘔吐している姿をゼノ様とはあまりにも重ねられないです。あなたとゼノ様は違う。そう自分の中で区切りをつけることができました」


まさかの僕が調子に乗って初めてのお酒を飲みすぎ吐いた結果からもたらされたものだった。ゼノさんは一国の王子。確かに飲みすぎて吐いている姿は想像できない。いやそれ以前にそんなことして欲しくない。僕も吐いた甲斐があったというものだ。


しかしこれで良いものかという葛藤があったことは否めない。だがこれで僕らの関係は最悪のものではないと知ることができた。アルマタリスにしても僕を僕として見てくれるようにもなった。


僕からしてみれば全てが上手くいった夜になった。


「命を救ってもらったのにも関わらず今まで不遜な申し訳ありませんでした」


アルマタリスは律儀に頭を下げて謝ってくる。その様子に僕は慌ててそんな事ないと直ぐに返す。


「これからもよろしく頼むよ」


「もちろんです」


宿屋に着く頃には僕の声が闇に掻き消えてしまうことはなかった。

酒の力ってすげえってきっと

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