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壁を越えて

奥の部屋を後にし、この空間に入ってきた所まで僕は引き返していた。


「もう一度確認しよう」


短刀を振り回す。感覚自体はもう体に慣れており、後は本番でどうなるかというところだけだった。


「・・・よし」


意を決し壁を抜け周囲を見回す。しかし、まえいたゴブリンはどこかへ行ってしまったようだ。敵の場所が掴めないからこそ、僕は充分に警戒をする。


「ギギィ…」


その時、またあの声が小さく聞こえてくる。若干怖気付くがすぐに声のした方向に進む。

僕が今立っているところから道が左右に分かれており、声はすぐ右から聞こえた。

息を潜め、壁を背にしてその道の様子を見る。そこにいたのは忘れもしない、ここに来て初めて会ったゴブリンと同じだった。こちらに背を向けており、気付かれてはいなかった。短刀を持った手に力が入り、緊張から足が震える。今から命の奪い合いをしようとしていることを直に感じ、なかなか動けない。

ふと、ポケットにしまったお守りを思い出した。


楽、僕に勇気をくれ。


祈りながら強くこれを握った。すると、少しずつ緊張が解けていくのを感じた。落ち着きを取り戻した僕は足も充分に動かせるようになり、深呼吸をする。

もう一度意を決し、覚悟を決める。

僕はゴブリンに向かって走り出した。戦闘の経験のない僕ではこの一撃を外せばもう終わりだろう。ゴブリンが、走ってきているこちらに気づき、振り向いた時にはもう遅い。一歩手前まで僕は迫っていた。そして渾身の力を込めて短刀を突き刺す。さきほど確認した刀の振り方もへったくれもなった。


「やー!!」


短刀はゴブリンの腹部を深く突き刺さる。気持ちの悪い感触が僕を襲うがそんなものに構っているほどの余裕はなかった。

ゴブリンはもがき苦しみ、そのたびに体揺れ動く。そのせいで刺さった短刀はゴブリンの体を抉り、より一層ゴブリンの肉の感触を味わう。目に涙を浮かべながらも体重をかけてゴブリンを押し倒し、ゴブリンの上に馬乗りになる。

その拍子にゴブリンは手に持っていた棍棒を手放した。そこからは力比べだった。必死に僕を引き剥がそうとするゴブリン。しかし上を取っている僕をゴブリンの体躯では引き剥がすことはできなかった。


「頼むから早く死んでくれ!!」


どのくらいたっただろうか。すでにゴブリンの手からは力が抜けており、目からは光が消えていた。ようやくゴブリンを殺したことを認識する。その直後、僕の体に何か力のようなものが入ってくる。


「レベルアップってやつかな?はは・・・」


僕は無理に笑って見せる。僕の気持ちは極限状態にあった。人生で初めて命を奪ったのだから無理もない。だが、それを深く考えてしまえば、生き残れないと無理やり割り切りる。


もう一度ゴブリンを見た。

ゴブリンは革製のポーチを持っており、その中には水の入った小さな水筒や携帯食料、包帯が入っていた。ゴブリンとの戦いの戦利品としてポーチを頂いていく。それを腰に巻きつけて僕はまた歩を進める。


ここはダンジョン。どこから敵が出てくるかもわからない場所で気を抜いてしまったら、その時点で経験の浅い者は人生に幕を閉じてしまうのだから。

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