セントルへ
一年過ごした空間を去った僕たちは山を下り、例の防壁を越えてセントルまで戻ってきた。
道中は焔が周囲の環境に溶け込む魔法を使ってくれたおかげで難なく街の門まで戻って来れたわけだ。今ではこの魔法による犯罪を減らすために対抗する魔法を各国が鋭意開発中らしい。
焔が門番の兵士に三人分の通行手数料を払い、僕たちは街の中へ入った。
「よし、ここからは別れて行動しよう」
「とりあえず僕たちは何をしたらいいの」
宿屋を見つけたりダンジョンに行ったりとやれることは考えれるけど何か他にやるべきことがあるかもしれないから聞いておく。
「まずはダンジョンに潜るためにはハンターになる必要がある。ハンターの登録を行なっているのがギルドだ。登録には金がいるからこれをもっとけ」
焔から銀貨10枚が入った麻袋を手渡される。
セントルのギルドには以前行ったので大体の道はわかるが一年前のことなので結構あやふやだ。焔がギルドの方向を指差ししてくれたのでなんとかなりそうではある。
「焔はどうするのさ」
「俺は三人泊まれる宿屋を探してから情報を集めようと考えてる。夕方ごろに“メッセージ”で伝えるからな」
合流などにも使える“メッセージ”はやはり格段に便利なものだと感じる。携帯がないこの世界では必須級の魔法だろう。
しかし、この魔法をみんなが使っているのだろうか。使っていないのだとしたらこの魔法が広まっていない何かしらの理由があるのかもしれない。
とりあえず僕たちはギルドへ向かうことにする。記憶と方向を頼りに街を歩く。街の中央広場に出た僕たちは見覚えのある建物を見つける。
あれは記憶に久しいギルドだ。ギルドに訪れると、懐かしい気分になった。外見や内装も東水のものとほとんど一緒だ。
入り口から真っ直ぐに受付の看板が見え、そこに列ができていた。左側の受付はハンター用の受付とも書いてある。僕たちはハンター用の受付の列に並び自分たちの番が来るのを待つ。
入り口から左手には食堂があり各々で盛り上がっている。見た目は厳つい人ばかりではなく僕と同じように普通な見た目をした人もいれば僕よりも年下の人もいた。
右手には掲示板のようなものが見える。その辺りには武装した人達がたむろっていた。依頼を選んでいる人たちは等しく自信に満ち溢れていた。
アルマタリスも珍しそうにギルド内を見渡していた。待ち時間は決して短くなかったためアルマタリスと会話する時間は十分にあったけど彼女からの僕に対する好感度が底抜けて悪いだろうからな。僕は気まずくて話すことができなかった。
アルマタリスからも話してくることはなかったので僕たちは会話することなく順番が回ってきてしまった。
「こんにちは!ハンター協会セントル支部の受付担当、クロエです。今回はどのようなご用件でいらっしゃいましたか」
受付の担当をしてくれた女性は綺麗な金髪で元気に話しかけてくれた。それにしても、サラサラの金髪の人なんて初めて見た。
クロエさんのロングヘアーは耳よりも後ろの位置で大きく束ねられたツインテールに結ばれて後ろの方に流されている。そして縛っているゴムには何かの花の飾りがついている。
「沈丁花・・・」
アルマタリスが小さい声で呟く。多分僕と同じで彼女の髪留めを見ていたのだろう。そういえばアルマタリスが封印されていた場所にも蓮の花があったな。もしかするとアルマタリスは花が好きなのかもしれない。
そしてまたクロエさんの方を見やる。瞳は赤色っぽいがそれよりも濃い色をしている。鮮紅というのが正解かもしれない。ずっと見つめていたらその瞳に取り込まれてしまいそうだ。っと、こんなにまじまじと見るのは失礼だった。直ぐに視線を外したけれど後から恥ずかしさが込み上げる。
アルマタリスも見定めるかのような目でクロエさんを見ていたけれど直ぐにその視線を外した。
クロエさんはニコッとしてこちらの要件を待っている。
「ええと、実は僕たち、ハンターになりたいのですが」
「ハンター登録をご希望の方でしたか。それでしたら、銀貨一枚とこの用紙に必要事項をお書きください。必要でしたら代筆も致しますよ!」
僕はこの国の言語が何なのか知らない。でもこの世界の各国の言語って地球にあるものと同じなものもある。日本語だったり英語だったり。
そしてこの用紙は英語で書かれてるみたいだ。しかしもしかしたら英語に似た全く違う言語なのかもしれない。僕は心配だったので代筆をお願いすることにした。
「代筆をお願いします」
それから僕たちは生年月日や経歴などを聞かれた。どうやらこの世界も地球と同じように十二ヶ月で一年のようだ。それよりも経歴には悩まされた。師の下で修業を重ねてきてようやく町に下りることができるようになった、という設定にしたけどこれでいいものか。ちなみにアルマタリスも同じ設定にしてある。
「書類の方は大丈夫です。では、何か実績などはございませんか?」
「実績ですか」
「はい。例えばゴブリンを倒した証明に体の一部を提示していただいたり、何かの大会で優勝されたりだとか」
「ゴブリンなら・・・」
倒したことあるって、言おうとしたけど証明できるもの何も持ってないじゃん。出せるものもないのでさっきの言葉を取り消し、ないですと答えた。
「畏まりました。では実技のテストを受けてもらいます。順番が来たらお呼びいたしますので、それまでお待ちください」
待ち時間があるということなのでどうしようかと考えていると時計が目に入った。もうお昼か、ちょうどお腹も空いてきていたし何か食べて時間を潰すか。
アルマタリスにご飯にしようと話すとコクっと頷いてみせる。
特に何事もなく昼食を済ますと、ちょうどクロエさんから呼び出しがあった。僕たちはクロエさんの案内に従ってギルドの地下へと連れてこられた。
「ここは地下に設けられた闘技場です。あなたが外に出ても自分の身を守れないようならハンターとしては活動が十分にできません。なので、ここであなたの戦闘技能を計らせていただきます。あの鉄格子の奥からゴブリンが一体出てきます。それを撃破できればこの試験は合格となります。もし、あなたが死んでしまいそうになった時には私がそれを止めますのでご安心ください。試験は1人づつ行います。まずはアルマタリスさんからお願いいたします。それでは準備ができたら申してください」
アルマタリスは一歩前に出て準備ができた合図を送る。すると奥から最近ご無沙汰だったゴブリンが現れた。前までよく見ていたその姿に安心すら覚える。
そんな感傷に浸っていたら耳にヒュンという音が聞こえた。少し目を話した隙にゴブリンは血に転がっており小さな体には不釣り合いの大きな氷柱が刺さっていた。
なんと悲しいかな。命は儚い。クロエさんは拍手をしてくれている。なんとも言えない気持ちになったけどこの気持ちを振り切り次の僕の番に備える
ゴブリン一体か。ギフトもウルもいつも通り。準備万端だな。
「いつでも大丈夫です」
クロエさんに手を振って合図を出しながら言う。
それから少しして格子が上に上がっていき、暗闇の中からゴブリンが姿を現した。手には木の棍棒を持っている。格子がまた下がりゴブリンが出てきた道を塞ぐ。それと同時に雄たけびを上げながらゴブリンが突っ込んでくる。
ただ突っ込んでくるだけならば。
「ウル!」
ウルは真っ直ぐに飛んでいき、その直線上にはしっかりとゴブリンがいた。勝利を確信すると同時にこれでハンターになれるという安堵も味わっていた。だが・・・
「ッ!?当たってない!?」
ウルは高速で飛んでおり、普通のゴブリンではまず対処不可能なものだ。しかし、目の前の現実は違う。ゴブリンは見事にウルを避けてこちらに向かってくる。何かおかしい。こんな芸当ができるなんて焔が召喚した二体目のゴブリンキングを思い出させてくる。いや、今はそんなことを考えるべきじゃない。
僕は打って出ることにした。走り出してゴブリンを目前にする。ゴブリンが棍棒を振り下ろすより先に僕のギフトが首を捉える。その至近距離の攻撃は避けられることなくその首を討ち取った。
一呼吸済ませて、クロエさんに合図を送ろうと振り返る。クロエさんは僕に拍手をしていてくれた。笑っている顔はまさに天使の様だった。まあ、営業スマイルなんでしょうけど。アルマタリスを見た時とは違うがドキッとした。
ん?クロエさんって八重歯なのかな。笑っている口元から少し歯が覗き込んでいた。かわいいからオッケーです!
「おめでとうございます。これでようやくあなたはハンターになることができます。ここの後処理は係りの者がいたしますので奏太さんたちは上へお戻りになっていてください。ハンターライセンスを発行するのに少し時間がかかりますので少々お待ちください」
「分かりました」
地下から受付のところまで上がってきた。さて、何をするか。ご飯は食べちゃったしな。アルマタリスは僕の後をついてきているが何も話さないので特にやりたいことはなさそうだ。どうしようかと悩んでいると掲示板が目に映った。依頼ってどんなのがあるのかな。
掲示板の前にいる人たちの横に立って依頼内容を見る。セントルの周辺警護や街の夜の見回りなどがあったけどこれらは少数だった。
「ダンジョン関係のものが多いな」
依頼の大多数はダンジョンの探索であった。それほどこの世界にダンジョンは影響を及ぼしているのであろう。
ダンジョン関係の依頼を受けてお金を稼げって言われてるし、警護とかは一旦保留でいいだろう。色々依頼を見てミロウのダンジョンが近場にあることがわかった。
「奏太さんとアルマタリスさんはいらっしゃいますか」
そうこうしているうちに、あちらの準備はできたようだ。
「ライセンスが出来ました。これであなたはハンターとして依頼を受けることができます」
「ありがとうございます」
ライセンスのカードを見ると5,124,681位と右下に載っていた。
「ハンターにも順位というものがございます。依頼によっては順位を指定されているものもありますのでご注意ください。それとハンター同士の戦闘は決闘というギルド公認の形でしかみとめられていません。もしそれを無視した場合は最悪死刑となりますのでお気を付けください」
笑顔でさらっと恐いこと言うな、この人。
「そういえば、さきほどまで掲示板をご覧になっていたようですが、何か気になったものがございましたか」
「一応、ありましたが・・・」
「でしたら、どうぞお申し付けください」
僕は掲示板に貼ってある探索依頼と書いてある依頼書を指差した。
「ではミロウのダンジョンの探索依頼を受けたいのですが」
「承りました」
受付で手続きを済ませるとミロウのダンジョンまでの地図と現在攻略が進んでいる第3階層までのマップがライセンスに入っているようで使い方を教えてもらった。
マップは攻略に必須で情報としても価値が高いものなのにどうして無償提供してもらえるか聞いてみた。どうやらマップ提供者には多額の報奨金が出ることや国が推奨していることも背景にあるらしい。
受付を離れてどうするか考える。まだまだお昼13時でダンジョンまでは徒歩で片道30分くらいの距離だ。早速行ってみるか。この距離だし馬車とか使わずに歩いても問題なさそうだ。
アルマタリスにもその旨を伝えると了承してくれた。特に用意するものもなかったから、すぐに出発した。




