地球への帰還は
日本へ転移するための魔法陣があるダンジョンで今二人と戦っている相手はドラゴンだ。このドラゴンは僕が闘ったことのあるドラゴンとは違い二足で立ち前足を巧みに戦闘を行っている。立っていることもあり大きさは優にビル五階分にも上るほどの大きさで迫力が段違いだ。それもそのはず、このドラゴンが魔方陣を守る最後の相手だという。
扉のあった階層をダンジョン地下一層とすると、一層目から魔法的防御が施されたフルプレートのスケルトンだったり僕がギリギリ捉えられるほどの速さを持つトラの様な魔物が出てきており、そこでこのダンジョンの難易度は超鬼畜だということを思い知らされた。そもそもほかの世界への転移自体が禁忌であり神の怒りに触れるという。神のごとき力を持っている仲間を持っていれば特に気にしない問題なのか分からないが、とにかくほかの人に使われるわけにはいかないものである。したがって世界の門番は強くなければならないわけだ。
地下十五層を過ぎたあたりからは完全に僕は戦闘に参加できるものではなくなり、なるべく邪魔しないように端っこで戦闘を観察していた。しかし戦闘の度合いが高すぎるだけで理解できないものではなかったので見て学ぶことに徹していた。二人の階層攻略スピードはすさまじいものでここまで来るのに休まずに来ている。このダンジョンには休むスペースは無く常に魔物に狙われる環境にある。そんな環境に僕がついていけるわけがないがアルマタリスにダンジョンに入る前に持久力と精神力が上がる魔法をかけてもらっていた。この魔法が凄く、二人について行けるだけの持久力と精神を手に入れていた。
そして現在地下66層、最下層である。二人も僕と同じバフがかかっているがここまで数多の魔物と戦ってきた身でありながら何の衰えも感じさせることなくドラゴンと戦っている。守護の力が使えたら少しは役に立ったかもしれないがアルマタリスの浄化の力を抑えるのと自動で行ってくれている自己防御でこの力の大半を使ってしまっている。今は前のように空間を断絶することもできないのだ。
ドラゴンはその巨体を動かすだけで挑む者の行動を制限しおまけにドラゴンの鱗は頑丈で傷こそつけれてはいるがどれも浅く二人は決定打を打てないまま膠着状態が続いていた。先に痺れを切らしたのはドラゴンの方だった。ドラゴンの胸部から喉元にかけて赤く発光し、口からメラメラと炎が溢れ出す。そして灼熱のブレスを撒き散らそうとする。
しかしその動作が大ぶりでブレスを吐く前にアルマタリスが魔法でドラゴンの口元を鋭い氷塊で貫く。その痛みからブレスは中断され代わりに耳を劈くような咆哮がダンジョン内に響き渡る。
それを待っていたかのように焔は駆け出しドラゴンへ急速接近する。向かう先はドラゴンの胸部。そこに張り付いた焔は手にしている刀をドラゴンに突き立てる。その刀は微かに発光しながらそれまで歯が立たなかったドラゴンの体を貫く。
僕のギフトのような鋭利になる魔法でも組み込んだのだろうか。焔は刀を突き刺したままドラゴンの胸部を十字に切り裂く。その後焔はすぐにドラゴンから飛び退きこちらへ戻ってくる。
十字の傷はたちまち膨らみ、その傷口から大量の血と共に烈火が出鱈目に飛び出す。それに合わせてアルマタリスが巨大な水の膜を中空に作り出しドラゴンと僕たちの間に壁を作った。おかげでなんの被害もなく灼熱の風をやり過ごすことができた。
ドラゴンの発炎器官は胸部にあると焔は言っていた。この様子からしてその話の通りでこれでドラゴンはブレスを吐けなくなるようだ。
「決まった!」
そう僕は嬉々としていたけど焔の顔はより真剣な顔つきに変わる。
「本番はこれからだ。こっからはお前を気にかけてやれないから死なないように動けよ。守護の力がお前を守ってくれるとはいえ直撃を喰らえば一定時間そのバリアは剥げるからな」
「もしもの時は私が守るけど当てにしすぎないでね」
本番はこれから?そう疑問に思っていたらドラゴンはそれまで使っていなかった巨大な翼をはためかせ、全身の傷口からは発炎器官の制御を失った業火が燃え盛っている。そのおかげで体は先ほどまでよりも大きく見え、まるで自身の偉大さを誇示するオーラのように見えた。その翼からは無数の魔法陣が現れどの魔法陣もこちらを向いている。それらが激しく発光し無数の弾丸のように炎球を発射してくる。
炎球はアルマタリスが張った水の膜を意図も容易く貫通しこちら側へ向かってくる。火の雨と形容してもよいほどの猛攻にダンジョンは揺れ、土煙も酷いものだった。焔は炎球を華麗にかわしながら近接攻撃を仕掛けんとする。アルマタリスは何かを詠唱すると土の壁や先程よりも分厚い水の壁などを周囲に張り攻撃に備えていた。その壁たちでカバーしきれない箇所からは炎球が降り注いでくる。僕は避けるのに精一杯で近づくことなんて考えられなかった。1年間の修行と僕の体に纏っている守護の力のおかげでなんとか避けられている。直撃こそしなかったものの掠ったものはいくつかあったので守護の力が無かったらどうなっていたことか。
次第に炎球の攻撃の密度は小さくなり視界が開けてくる。目を凝らすと焔はドラゴンのすぐそばまで迫っておりアルマタリスはそれに続こうとドラゴンに向かって走っていっている。ドラゴンは魔法から自らの体を活かしたものに攻撃を変える。しかしその体捌きは発炎器官を壊される前までのものと見違えるほど洗練されていた。先程までは脅威として見られていなかったのだろう。それがこれまでの攻撃により本気になった。振り下ろす腕は完全に焔を捉えている。その腕が当たる瞬間に焔は刀で往なし、即座にその腕へと飛び移りそのまま燃え盛る炎をものともせず体を駆けてゆく。ドラゴンは逆の腕で焔をはたこうとするがそれをアルマタリスが許さない。氷塊をいくらか飛ばしそのうちの一つがはたこうとしていた腕に命中する。痛みに悶えたドラゴンが激しく揺れるが焔はすぐさま肩に飛び乗り腰を落として刀を袈裟斬りの形に構えると刀はその刀身を伸ばしていった。そのまま横薙ぎにしてドラゴンの首を斬り落とした。首を失った巨体は力なく地面に倒れていく。
あれほどの相手に無傷で倒してしまう二人の強さに驚きつつも僕は焔とアルマタリスの方へ向かう。
「ほんとにすごい戦いだった」
「そうだな。俺も倒すのは少しばかり難しいと思っていたが、アルマのおかげだな」
そういわれるとアルマタリスは少し照れた顔をしていた。実際にはこのドラゴンは焔一人でも倒せるほどの相手だったらしいけど体の一部を犠牲にしないと勝てないと予想される相手だったらしい。
そこでふと疑問に思う。以前僕が戦ったドラゴンよりも圧倒的に強かった。何かが違ったのか焔に聞いてみることにした。
「今戦ってたのはエンシェントドラゴンだな。最上種の一つ下の種族だが強いことには強い。お前が戦ったことのあるやつはエンシェントドラゴンの一つ下の種族のレッサーエンシェントドラゴンだ。今のお前ならそいつを簡単にとまではいかないが倒すことができるだろうな」
そういえば、あの時どうやってそのドラゴンに勝ったのかしっかりと覚えていない。それに今の僕なら倒せるということは以前は一体どうやって勝ったのだろうか。そんなことを思っていると、焔たちは部屋の最奥にある扉を目指して歩いて行っていた。僕も駆け足でついていく。
扉を開けると部屋の隅には机といすがあったり本棚があったりした。質素な見た目だが部屋の真ん中には大きな魔法陣が光り輝きその存在を主張している。焔は訝しげな顔をしつつ魔法陣に近づき跪き何やら手をかざしている。
「これは......すまない奏太」
「もしかしてここまできて帰れない...とか」
恐る恐る聞いてみる。本当だとしたらこれからどうしたものかわからない。焔は頷いた。どうやら最悪の事態になったらしい。
「そうだ。この魔法陣は偽造されている。元の魔法陣は破壊されてしまっている。ここの管理を担っていながらなぜ気づかなかったんだ!」
クソっ!と怒りを露わにしたがすぐに冷静さを取り戻す。それから焔は考え込んで今の事態を飲み込んだのか僕たちに向き直る。
「誰かこの魔法陣を使って向こうに転移したらしい。しかも魔方陣を使えなくするっていうおまけつきだ。リーを送り込んだ時は何も異常は無かった。つまりここ一年以内に使用され破壊された。とりあえず犯人はリーに捜索させることにしよう」
「ちょっと待ってよ。この魔法陣を使ったってことは少なくともさっきのエンシェントドラゴンよりも強いやつが地球に行ったってこと?」
「ああ、しかもこんな工作までしていくやつだ。碌な奴じゃない。お前の故郷に何かされる前にそいつを押さえなきゃならんな」
「でもこの魔法陣じゃないと地球に帰れないんだよね?」
じゃあどうすれば良いのか、そうだ。
「焔かアルマタリスなら同じような地球に帰れる魔方陣を作れるんじゃないの?」
淡い期待を込めて聞いてみたがそれは無情にも叶わない。二人とも首を横に振った。
「この世界での各所への転移の魔法陣を生成することでさえ、俺たち二人で作れるかどうか怪しい。星間の転移となれば無理なことはわかるだろ。それに転移の魔法は古の魔法で今扱える者は俺とアルマタリスしかいない。ということは新しい転移魔法陣を生成することは不可能だ」
つまり本当に帰れないってことか?帰れることを強く意識していたせいでショックはかなり大きかった。それにここまで連れてきてくれた焔たちにも申し訳ない。今はこの現状がただただ悔しかった。そう落ち込むなと焔は声を掛けてくるけど落ち込まずにいられるわけがない。焔は続けて言葉を発する。慰めの言葉かと、そんなものはいらないと考えていたがその内容は希望そのものだった。
「しかし転移魔法陣はここだけでない。俺がこの場所の管理人なだけであって、他にも転移魔法陣は存在するということを聞いたことがある」
何だって!まだ完全に終わった訳じゃないらしい。もしそれが本当なら絶対に見つけてやる。そして家に帰るんだ。そんな希望を投げかけられ僕は自然と笑みがこぼれる。しかしながら焔の言葉には少し引っ掛かった。
「聞いたことがあるってことは詳しくは焔でも知らないという事なんだね」
「ああ、差し当たって俺たちが次にするべきは他の転移魔法陣の捜索だ」
転移魔法陣が複数あることの確証はないけど、今はこの希望に縋るしかない。
「ともかくこれからのことを話し合いたい。こんな場所じゃ窮屈だ。一旦結界の中に戻るぞ」
今この場ではどうすることもできず、もどかしさを感じながらも僕たち三人はダンジョンを後にし再び結界内に戻ることにした。




