守護の力
焔が作ったゴーレムを倒して数日が過ぎ、楽の身のことにも多少踏ん切りがついたころ焔が真剣な面持ちで僕を呼んだ。最終試験が終わってから今日まで初めにあった頃と変わらない焔だったから只ならぬ雰囲気を感じる。
「試験を乗り越えたお前に託す物がある。ついてこい」
焔はそういうと僕を家の地下へと案内した。まさか今まで住んでいた家に知らない地下があったなんて驚きだったけど、それ以上に降りた先にあった石碑に目を奪われる。その石碑は微かに暖かい光を纏っており、何かの模様が刻まれていた。その体裁からただのオブジェクトではないことは明らかに分かった。
「何なの、これは」
その光は僕を魅了した。目を離せない。まるで僕を呼んでいるかのようだった。
「これはゼノが生前に持っていた力を封印しているものだ。俺らが住んでいるこの空間もこの力によるものだな。あの石碑に然るべき者が触れるとその力は継承される」
ゼノさんの力が封印されている石碑。焔が僕をここへ呼んだということはそういうことだよね。
「本当にいいの?焔」
焔は少しだけ険しい表情をしたがすぐにいつも通りの無頓着のような顔に戻った。
「最初から決めていたことだしな。それにこの力を手に入れないとアルマタリスには辿り着けない。この力はもうすぐ消滅する。この空間を維持することもできなくなるだろう。力が完全になくなる前に新たな依り代が必要なのさ。奏太、覚えているか。この力が何の力なのか」
しっかりと覚えている。焔のゴーレムを倒すまでの修業の日々の中、僕は焔からゼノさんについてのことを聞かされた。ほんの一部だろうけど、そのなかにゼノさんの力の話も出てきたのを覚えている。
「守護の力。万物を隔絶する神の領域の力」
「そうだ。アルマタリスは浄化の力を持っている。全てを無かったことにできる力だ。あの子と対面するからにはその力を無効化することが必要だ。それがこの力にはできる。奏太、石碑に触れてくれ」
僕は恐る恐る石碑に近づく。魅了されてはいるが同時に少し畏怖のような感情も煽られている。本能的にこの力の強大さに気付いているのだろう。ゆっくりと歩いていき、ようやく石碑の前に立つと後ろから焔の声が聞こえた。
「すまない。お前は普通の人間のようには戻れなくなってしまう。許してほしい」
そんな浮かない顔の焔は初めてだ。本当のことを言ってくれているのだろう。
「大丈夫だよ。皆を救って元の世界に戻るためならそのくらいなんてことないね」
僕は右手を石碑に添える。すると石碑からとてつもない魔力の流入を感じた。その流れは止まることを知らず、ものすごい力の前に僕は意識を手放しそうになる。
我らをお救いください
あの強大なものどもからどうか
我らを守る絶対の力
頑張って耐えて意識の境界線に立っていると声のようなものが僕の頭を錯綜する。力と同じくそれも止まらない。次第に頭痛がひどくなり、僕はようやく意識を落とした。
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目を覚ますと轟音と大地を揺らすほどの戦いの中にいた。空は真紅の闇に覆われ絶望感を醸し出す。そこら中から勇ましい声、悲鳴、放心した者の声が聞こえる。眼前には二階建ての一軒家よりも大きい四足歩行の生物や二足歩行で人型の生物などがこちらに向かって走ってきている。僕の横からは装備をした人たちがその巨大生物に向かって走り抜けていく。一目でわかる。これは・・・
戦争だ
後ろを振り返ると城壁に囲まれた町のようなものがあった。僕は町の方へ走ろうとするが、足が動かないどころか巨大生物たちに向かって走り出した。僕はさっき横を走り抜けていった兵士たちをあっという間に抜かし人型の巨大生物の前に立つ。人型は僕を叩き潰そうとするがそれが僕に届くことは無く、逆に人型の腕は無残にも奴の胴から離れ無力に地に落ちた。瞬間、石碑に触れたときに聞こえた声が微かに聞こえた。人型が後ずさるがその瞬間に奴の首が宙を舞う。そして僕は次の獲物に手をさし伸ばす。
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少しまぶしい光が僕の視界に映りだす。ぼんやりと目を覚ますといつも見ている天井に手を伸ばしていた。どうやら僕は地下から家のベッドまで運ばれたようだ。僕が起きたことに気付いた焔はコップ一杯の水を僕に渡し、ベッドの横に座った。
「もうお前が意識を失った翌日だ。どうだ。どこか変わったところはあるか」
気持ち悪いとかそういうものはない。いたっていつも通りの僕だ。
「特には。本当に僕はゼノさんの力を手に入れることはできたのかな」
意識が飛ぶほどの力を受けて体に何も変化がないとなると逆に不安だ。
「ああ、しっかりと継承されている。自分の胸を見てみろ」
そう促され上裸になると胸の真ん中にどこかで見た模様が焼き付いていた。その模様は微かに光っており何故か力強さを感じさせた。
「それはゼキアの国章だ。石碑に刻まれていたものと同じだな。ゼキアは前大戦時にゼノが属していた国家で守護の力を作った国家でもある」
守護の力には国家が関わっているらしい。確かに神の力とも呼ばれるものが一個人の力であればそれほど恐ろしいものはない。
「守護の力を託されてゼキアの国章も与えられている。ゼノさんは一体何者だったんだ」
感嘆が無意識に言葉になってしまった。それに焔は答えた。
「ゼノの本名はゼノ・ゼキアだ。あいつは一国の王子だったんだよ」
ゼノさんって王子だったのか。その事実に驚いている僕を他所に焔は話を進めていく。
「早速で悪いんだがその力の扱い方を学んでもらいたい。力がお前に継承されたことによってこの空間もアルマタリスの封印も弱くなりつつある。元から少なかった時間がさらに無くなったというわけだ」
また修業か。それにもうすぐこの場所ともお別れになるらしい。快適で過ごしやすかった。哀愁を感じると色んな意味で辛かった修業の日々でさえいい思い出に感じてしまう。あと少し、あと少し頑張ろう。そしたら皆に会える。
ベッドから起き上がりご飯を食べたりと身支度を済ませ、外へ出ると焔は刀を携えて僕を待っていた。これから行われるのはやはり戦闘での経験のようだ。
「いつでも準備はできてるよ。ところで僕の目の前にいる焔はゴーレムなのかな」
焔は首を振る。そうか、焔本人と手合わせするのは今回が初めてだ。
「早速始めよう。お前のファイアボールで合図してくれ」
僕は真上に向かって手を伸ばし、ファイアボールを打ち出した。それが天井に当たり爆ぜたときが始まりの合図という訳だ。ファイアボールが天井に到達するまでに一秒ちょっとかかるだろうか。打ち出してすぐにウルとギフトに手をかける。
ドンッ!!
爆音が聞こえた。瞬間、焔の姿が消える。直感がささやく。もうそこにいると。遅れて魔力感知が僕の真横に大きく反応した。すぐに横を見ると焔の刀は既に眼前に迫っていた。太刀筋はしっかりと僕の首を捉えていた。僕の双剣では間に合わない。絶死一撃の攻撃だった。一秒とかからず僕の首に到達する。そう僕はこの瞬間に死んだ。死んだはずだった。しかし、焔の刀は僕の首に届くことは無く首の一歩直前で止まっていた。刀が震えているので確かに焔は力を込めている。僕が唖然としていると焔は一歩引き刀を僕から離し刀を納めた。
「それが守護の力の一部だ。お前を覆っている魔力の層が強化され全ての攻撃を受けなくなる。お前はほぼすべてのモノから殺されることは無くなったってわけだ」
普通にやばい力だ。いきなり強くなり過ぎじゃないか。
「しかし、この力でもってもアルマタリスの浄化の力を一回相殺できるだけだ。一度守りの力を剥がされてしまったら元に戻るまで時間を要すらしい。だからその間は前までのお前と変わらないから気をつけろよ」
焔の目にも止まらぬ一撃をも防いだこの力でも浄化の力の前では相殺することが精一杯なのか。
「て言うか、焔強すぎない?」
「いや、お前が油断し最初の一歩を認識できなかっただけだ。慣れれば、守護の力なしでも互角に戦えるだろうよ」
焔はへらへらとしながらさっきの戦いが始まる前の位置に歩いて行った。
「次は守護の力でこいつを倒してもらう」
そう言って焔は地面に手をつけた。すると地面がボコボコと音を立てて段々と人型に形を作っていった。3メートルはあるだろうか。焔は巨大な土のゴーレムを作り出した。
分かったとウルとギフトを引き抜こうとすると焔に止められた。
「武器を使わずに守護の力だけで倒すんだ」
一体どう言うことだ。
「守護の力は守るための力でしょ?それで一体どうやって倒すんだ」
「思い出せ。守護の力は万物を隔絶する力。つまりあらゆるモノを切断できる。ここの結界も空間を切断して作られているしな。容量は魔法と同じだ。切断したいモノとそれを切るイメージをしっかり持てばいい」
簡単に言ってくれるが、初めて使う力なんだ。そう簡単にイメージは湧いてこない。
「そうだな、俺のゴーレムの腕を切った時のイメージをこいつで投影してみろ」
言われた通りにやってみる。しかしゴーレムに変化はない。やっぱりだめだったようだ。
「焔、やっぱり僕には・・・」
諦めていたがゴーレムの左腕が肘の辺りでずれ始めた。ズドンと大きな音と共にゴーレムの大きな片腕が地に落ちていった。
「イメージさえできれば簡単だろ。簡単だがとても強力な力だ。間違っても俺に使うなよ、マジで」
あはは、と苦笑いで返す。本当に気を付けなければいけないな。これだといとも簡単に人なんて殺せてしまう。
「ほら。こっからゴーレムを動かすがさっきみたいにゴーレムを思う存分切り刻んでやれ」
そうだ。まだゴーレムを倒し切れてはいなかった。それに攻撃もしてくるとなるとイメージを構築する暇があるのか。
ゴーレムは真っ直ぐに突進してくる。その大きな巨体を持っているならば突進は相手にとって有効打だ。それにスピードも中々に速い。けれど避けれない程じゃない。焔の距離の詰めを体験した後なら見える動きは対処できる。軽々とゴーレムの突進を避け距離を取りつつイメージを練るのに集中する。ゴーレムは切り返して再度こちらに突進してくる。イメージは完成した。僕は一歩後ろに下がる。ゴーレムは右腕で僕に殴りかかろうとしてくる。しかし、それは届くことは無かった。ゴーレムの身長が急に低くなる。両足が切断されていたのだ。速度をのせたゴーレムの体が地面をずる。右腕と頭も次第に地面に落ちていった。ゴーレムの体は僕に一歩届かなかった。
「ちゃんとできた。できたんだよね?」
「しっかりできてるが・・・」
焔は微妙な顔をしていた。
「思う存分とは言ったが、いくらゴーレム相手といえど惨いな。ダルマより酷いぞ」
力を使うのに必死だったけれど確かにこの惨状には何にもいえない。やりすぎたな。
「とはいえ、力の使い方は大体わかっただろ。これでようやく準備は整った。決戦の日は追って連絡するそれまで修練でも積んでおいてくれ。ゴーレムが欲しかったら俺を呼べよ」
僕がこの世界に呼ばれた理由ももうすぐ終わるそうすれば帰れるんだ。もうすぐ帰るよ、皆。
≪守護の力≫
万物を隔絶することができる力。神の力と呼ばれたこの力は先天性の物ではなく後天的に創られたものだ。守護の力は常時継承者と外界との間に結界を作り敵の攻撃から身を守る。またこの結界により外部の魔力を遮断してしまう。継承者は結界が破られない限り魔力の補給が不可能となる。力の継承さえも。




