遠い昔からの約束
「久しぶりだな、ゼノ」
は?いったい何を言っているんだ。勘違いかな。
「ゼノって、僕のことですか?」
戸惑いながらも、さっきの言葉の確認をする。
「いや、何でもないさ。それよりここに来た目的は?」
この人は普通にハンターの可能性もあるし、ここに来た理由を言ってもいいのか?もし、ハンターだったらギルドに訴えられて面倒なことにならないか?でも、ダンジョンの最後の所の紙を書いた人かもしれないし。いや、でも・・・
「ここに来たのは元の世界に帰るため、か?」
「っ!!」
驚いて目が少し見開き、体も少し跳ねる。
「そうか。まぁ、中に入って話そう」
そう言いながら、男の人は目の前の壁に手を当てた。すると、壁に暗黒の空間が現れた。そして、その人は僕に手招きしながら、その暗闇の中へ入っていった。
「完全にバレてるよね・・・紙の人ってことが分かったから別にいいのかな?それよりこれ、入って大丈夫なのかな?」
恐る恐る右手を暗闇の中へ入れる。それからまた引き戻した。
「良かった、ちゃんと手が付いてる。なら、大丈夫そうだよね?」
安全確認をして、僕も暗闇の中へ入っていく。暗闇を抜けるとそこには草原が広がっていた。草は踝くらいまで生えている。川も流れていた。けれど、ここは円状に壁に囲まれていた。そして、中心には家が建っている。その横には桜の木も生えていた。まだ咲いていないようで、綺麗な花は見られない。ふと、見上げると不思議なことに月のようなものがあった。山の中のはず、だよね?
色々考えながら、あの家を目指して歩き始める。さっきの人が見当たらないから、たぶんそこにいるはずだと思うけど・・・
家の近くには色んな花が咲いている。家の扉は開いている。中に入ると、すぐリビングがあって、テーブルとか椅子がテーブルを挟んで向かい合うように置いてある。その椅子にさっきの人はすでに座っており、もう一つの椅子に座るように促してくる。その通りに椅子に座ると、その人が話してきた。
「俺は焔だ。お前の名前は?」
「僕は奏太って言います。内海奏太」
「そうか、奏太か」
「そんな事より、僕は元の世界に帰してもらえるんですよね?」
ここまで来ておいて、ダメって言わないよね?
「そうだな。だが一年後にはなりそうだな」
「一年後!?なんでですか?」
一年後なんて、そんな遅くに帰ることになったら・・・家族や光助たちのことも心配なのに。
「ダンジョンの最後に書いたように、お前にはやってもらいたい事がある」
「何ですか。そのやってもらいたい事って?」
聞くと、焔さんは一呼吸を置いた。そして真剣そうにそれでいて少し微笑んで言った。
「神殺しさ」
「神・・・殺し?」
何を言っているんだこの人は?
「そう。この山には浄化の神、アルマタリスが封印されている。その封印が約一年後に解けるんだ。結界も張ってあるから、封印が解けたと同時に殺す、もしくはその力を再封印してもらいたい。アルマタリスは人の文明なんてすぐに消せるほどの力を持っている。そんな神が世に解き放たれたらどうなるか。勝手に押し付けて悪いが頼まれてくれないか?」
「人の文明を消せる神を殺す?そんなの僕に出来るわけないじゃないですか!」
気持ちが整理できずに声を荒立てる。
「いいや出来る。何のためにダンジョンに呼ばれて、魔法を与えられたと思う?それにお前の中には神と同等の力が眠っている」
「そんな事、あるわけが・・・」
「あるんだよ。お前を待ち続けて長い時が経った。そして、お前はそれ相応の力を持ち合わせている。この世界のために頼まれてくれ」
焔さんは頭を下げて言った。頭を下げられて、僕も少し激昂した気持ちが収まった。それから、今の話について考える。
「・・・もし、本当にそんな力が僕にあるのなら助けたい、と思います。少しだけかもしれないけどこの世界の人たちにもお世話になったし、それにこの世界に来たのが必然だったとしてもダンジョンでの経験と魔法を掛けてもらってなかったら、僕は今生きてはいなかったでしょう。それに関しては、本当に感謝しています。けれど、僕の中の不安が解消されなければその頼みを受けることはできません。だから戻りたいんです。もう、大切なものを失いたくないから」
頭の片隅でウルの最後がちらつく。
「不安とは?」
「家族と友達の安全です」
「本当にそれ以外にはないのか?」
「分かりません。でも今考えつくならこれくらいしかないです」
「そうか・・・それならば話は早い。お前に、お前の家族とクラスメイトの安全を見せればいいんだな。少し時間はかかるが見せれるぞ」
「ほんとですか!?」
「早くて一週間だが、約束しよう。これは絶対だ。なんせ俺は何千年も前の約束すら違えたことはない」
焔さんは胸を張って答えた。
「あははっ、すいません。少し面白かったので」
千年って。表現が壮大だなぁ。
少し間をおいて焔さんは口笛を吹いた。するとカラスより少し大きく赤い鳥が一匹、焔さんの腕に留まった。
「よしよし、これから重大な任務を与えるがいいか?」
オルトさんがその鳥にそう言うと、その鳥は「任せて」と言う感じで頷く。
「お前はこことは違う世界に行ってほしい。そこで奏太の弟を見張っていてくれ。この山の地下にあるダンジョンから世界を渡ってくれ。任せたぞ」
そう言いながら焔さんは鳥に首輪をつけて、”シェア“と言ってから鳥を放った。鳥は僕の手を突っついてから家の外に飛んでいった。血、出ちゃった。嫌われてるのかな?
「リーがすまんな。それでお前と親しい者を判別できるようになるんだ」
なるほど。それならよかった。あの鳥、名前はリーっていうのか。
「じゃあ、さっき着けた首輪は何です?」
「リーにつけた首輪は、首輪の持ち主の意思を受け取りやすくするんだ。だからあっちの世界でも俺の指示に従ってくれる。つまり俺とリーのパスの役割を果たしてくれる。あとシェアだが言葉通り、対象の一部を共有できる魔法だ。これでリーが見たものを俺たちも見れる。だがリーの目は二つしかないからふたりで共有するなら片目だけになる。と、まあこんなところだ」
なるほど。そうやって確認させてくれるのか。やはり魔法は偉大だ。しかしまだ疑問が残る。
「どうしてダンジョンに向かわせたんですか?」
「殆どのダンジョンには終わりがあるが、一部のダンジョンにはこの世界とお前の世界を繋ぐ道みたいな役割を持ったもある」
「じゃあ、今色んな所で見つかってるダンジョンも最後まで行けば世界を行き来できたかもしれないってことか」
「いや、見つかりやすいダンジョンはカモフラージュだったり、遺跡なんかを代用してるものだ」
「どうしてカモフラージュなんか」
「そりゃ、領土拡大が目的とかで他の世界に渡られたくなかったからな」
「はぁ。って何でそんなに詳しいんですか?」
「だって、ダンジョンを作った一人なんだから当たり前だろ」
何言ってんだ、と言いたげな顔で返してくる。うん、ダンジョンを作ったなら知ってて当然か。
「ダンジョンを作ったんですか!?」
「お前の通ってきたダンジョンは一方通行でお前専用のダンジョンで俺が作ったものだ。いずれお前をこっちの世界に呼ぶために作ったものだから初心者にも易しくダンジョン内の景色は変わらず、出現する魔物も一度戦った相手だけだっただろ。それに安置まで用意しておいたしな」
難易度はこっちからしてみれば比較的易しかったのかもしれないけど精神的には優しくなかったな。
「世界渡りのダンジョンとなると待ち受ける魔物はドラゴンの比じゃない」
さっきの話の通り世界間の干渉を絶対に防ごうとしているのが分かる。
「じゃあリーはどうなっちゃうんですか!そんな危険なダンジョンに行かせて!」
そうだ。大きさはカラスよりでかいといっても、それでもドラゴンと比べればやはり小さくてかわいいサイズだ。そんなリーを死地もいえる場所に送り込むだなんて。
「大丈夫だ。ああ見えてもリーは太古に存在した不死鳥の子孫だからな。あんななりでもお前よりもずっと強い」
そうなんだ~、なんて納得できないけどここは異世界だ。あの体躯で僕が力負けするところを想像できない。それにダンジョンを作った人が直々言っているんだ。きっと大丈夫なんだろう。
「リーが待ってる時間が勿体無いから、お前の技術を鍛えよう」
「・・・つまり修行をしようと言うことですか?」
「ああ、リーが帰ってくるまでお試しみたいな感じでな。それに今のお前の能力じゃ、アルマタリスに近づくこともできないだろう」
「そもそも神に人が及ぶわけないじゃないですか」
「力の話じゃない。精神的な問題だ。圧倒的な力を感じると人はどうにも動けなくなる。そうなってちゃ困るからな。だから精神も体も鍛えていく」
「ちなみにドラゴンを倒せるってなるとこの世界の基準的にはどのくらいの強さなんですか」
「ドラゴンにも色々いるが、1番弱い個体を倒せるのはハンターでいうと中級者程度だろうな」
中級者か。でもいきなり戦わされてこの短期間でそこまでの力をつけたのなら僕は僕を誉めたい。
「そういえば、そもそも神って人が干渉できる存在なんですか?」
素朴な疑問を言う。神って僕の世界だと信仰やら崇拝の対象で人が神と対話する話もあるけど、現代だともうすっかりそんな話も聞かないから、概念のみの存在だろうと思っているけど。
「干渉は出来るさ。神って呼んでるのは、人を超越した能力を持っているからだ。けれど、能力以外は人なんだ。例えば、見た目か」
見た目が人・・・か。僕にできるのか。
「そんな人が今も産まれて来るなら、ここに来る途中で僕も耳に挟んでもおかしくはないと思うんですが」
「それはそうだ。今、神と呼ばれる存在はアルマタリスを除いて一人としていない。まず、神の存在を知る者も少ない。各国の権力者のみに語り継がれている。過去を秘匿するためにな」
「過去を秘匿?なんでそんなことを・・・」
「この話は長くなる。それに、俺にとっても気分のいい話じゃないんだ。またな」
更なる謎に興味を持ったけれど、それなら仕方ないな。
「んじゃ、ここら辺でお話はやめて、やるか。修業」
笑いながら言ってくる焔さんは、何て言うか恐かった。
*
外に出て僕は開けた場所に案内されると焔さんが「そこら辺で待ってろ」と言い、ある程度離れると少し大きな声で呼びかけてきた。
「それじゃあ、手始めにゴブリンキングと手合わせしてもらう。手合わせといっても殺し合いになる。気を引きしめろ」
そう言うと、オルトさんは右手で地面に触れる。少し経つと、僕の目の前に魔法陣が現れて、そこからゴブリンキングが現れた。
久しぶりに緊張を実感する。ウルとギフトを抜き、戦闘態勢を整える。
ゴブリンキングに動く様子がないな。先に動くか。
そう思って、ウルに魔力を思いっきり加えて投げる。ウルは一瞬でゴブリンキングに刺さるが、そのことにまだゴブリンキングは気づいていなかった。
ウルでの戦闘はホブゴブリンたちとしかやったことないから、それよりも強いゴブリンキング相手には接近の速さ上げたほうがいいよね。プロテクトを使って衝撃とかを抑えれたらいいけど、試してみるか。
それから僕は自分にプロテクトをかけて、ギフトを正面に構えて、これまで出したことのない速さでウルを使って急接近する。その速さに対応できずにゴブリンキングは何もできずにギフトと衝突する。それから、刺さったギフトをゴブリンキングの体から横に斬り裂いて離し、ギフトを逆手持ちにして刃の先端を叩きつけるようにゴブリンキングの首に刺す。刺してからすぐにウルとギフトを抜いてゴブリンキングの体を蹴って地面に降りる。ゴブリンキングは倒れて動かなくなった。
「それがお前の戦い方か?」
「はい、ウルを手に入れてからはこの戦法が殆どですね」
「・・・分かった。じゃあ、もう一戦してもらおう。相手はさっきと同じだ」
そう言うと、また地面に手を当ててゴブリンキングを呼び出す。けれど、今度は焔さんがゴブリンキングに魔法を掛けている。掛け終えたところで、焔さんが「準備できたから攻撃していいぞ」と言ってくる。
取り敢えずさっきと同じ攻め方で行こう。
そう思ってウルを投げる。ウルはゴブリンキングに刺さると思っていたが高速であったはずのウルは避けられて、宙を裂く。
嘘でしょ!?あんなに速かったのに・・・どうしようウルを回収しようにも投げた時みたいに速く戻したら、手が逝っちゃう。少し速めで戻そう。その間左手は空くからギフトだけで対応するしかないか。
そんなことを考えていると、ゴブリンキングは動き出していた。走りながら向かってくる。僕もゴブリンキングに向かって走り出す。あと少しでゴブリンキングの拳が届きそうな距離になったところで、目くらまし用にファイアボールを撃つ。ファイアボールはゴブリンキングの顔で弾け、黒煙が広がった。そのうちに、体に向かってギフトを振るう・・・が、これをゴブリンキングは自らの腕で受け止めた。
体も硬くなってるのか。使えるかわからないけど、また光ってくれ!
ギフトに魔力を思いっきり込めた。けど、結局ギフトは光らなかった。そうこうしていると、ゴブリンキングは僕を押し返す。後ろに思いっきり吹き飛ばされて体勢が崩れたところに、すぐゴブリンキングは迫ってきていた。
「ここまでか・・・?」
また弱音を吐いた。そんな自分が嫌になる。もう一度状況を確認していると気づいた。
ゴブリンキングの後ろにもう一つ、影が見えた。ウルだ。まだウルで攻撃は出来ていない。もしかしたら、一撃を入れられるかもしれない。それに、ウルは僕にとっての希望でもあったんだから。
そうだね、せめて一矢報いてから力尽きてやろう。
覚悟を決め、ゴブリンキングが殴ってくる瞬間を見極める。脇の辺りにすり抜けれる空間ができる瞬間を見逃さずに、そこに倒れ込んで入り込み、股を抜きゴブリンキングの背後に出る。それと同時にウルが手元に返す。すぐに体勢を立て直し、ゴブリンキングを見る。ゴブリンキングもこちらを見ており、最初と同じように向かい合っている。なんとか隙を作って見せる!
今度はファイアボールをゴブリンキング付近の地面に目掛けて撃つ。感覚や反応が強化されてるなら、聴覚も厄介だから爆発音と土煙に紛れるためにファイアボールを連射しながら近づく。ゴブリンキングに攻撃できる距離まで詰めたけど、一歩下がってワザとファイアボールを止め、足音を聞かせる。すると、やっぱり黒煙の中から拳が横に薙ぎ払われた。そして、狙っていた攻撃後の硬直を逃さない。腕の下を姿勢を低くしてすり抜け、腹を斬る。
刃は通る!
斬られた痛みに動揺したところも逃さず、その隙にウルに魔力を込めて首元目掛けて投げる。その投擲は見事に当たり、すぐに引き抜いて一歩下がる。しばらくして、ゴブリンキングは力尽きた。
「はぁ、はぁ、はぁ、危なかった」
胸の鼓動を抑えようと気持ちを落ち着かせていると、焔さんが近寄ってきた。
「よくやったな」
「ありがとう・・・ございます」
褒められて素直に嬉しかった。色んな感傷に浸っていると、焔さんが切り出す。
「途中からの戦術の組み立て方は良かった。だが、見直すところも多く出てきたぞ。回避に倒れ込みを使っていただろ、受け身も取らずに。体術が必要だな。他には、剣の力を扱えていなかったな。これも慣らしていく必要がある。それに、折角の二刀流なんだから、その利点についても修業する必要があるな。じゃあ、明日からは体術を修行していこう」
焔さんは手を出して、「ほら、晩ご飯を食べるぞ」と言って、立ち上がるのを手伝ってくれた。
はは、ご飯はいいけど、毎日こんな感じじゃないといいな・・・
淡い期待を馳せながら家へと歩いて行った。
もうすぐクリスマスですね。皆さんはどのように過ごすのでしょうか?私はゲームでもしていると思います。付き合っていたりしたら、もっと楽しい日になっているんでしょうかね。ともあれ、残り少なくなった今年を楽しく過ごしましょう!




