邂逅
地図を貰ってからすぐに、広場に出て馬車を探した。あたりはすっかり闇に飲まれていたが幸い今から発つ馬車が一台あった。どこに向かうか聞いてみると、これまた運のいいことに大陸中央の国、オルモンド中立国のセントラルに一番近い都市“セントル”に行く予定だった。馬車代を払って乗せてもらう。
次の日に備えて今から寝ておこうかな。明日は野営して一つの町を介してから明後日の朝に着くそうだ。目を瞑ろうとすると、この馬車に向かってくる足音が聞こえてきた。音のした方に目を凝らすと武装した男女が迫ってきていた。
男性と女性は二人ずつだった。強盗かな?でもこんな開けた場所でやるのか?それとも乗客なのかな?僕はギフトに手をかけながら、聞いてみた。
「すいません。夜遅くにどうしたんですか?」
すると、長い剣を携えた男性が答えてくれた。
「ああ、俺たちはこの馬車の護衛を務める者だ。俺はアル、こっちの盾を持った男はテリー、弓使いの女性はエディア、杖を持ってるのがセリナだ。よろしく頼む」
「護衛の方々でしたか。僕は奏太って言います。こちらこそよろしくお願いします」
馬車が動いてからもアルさん達と話している。アルさん達はこの世界についていっぱい話してくれた。これは馬車が休む時まで寝れそうにないな。それくらい新鮮味に溢れていて面白い。
その話しの一つに、町と町や都市間はどこの国でも完全には安全に繋がっていないらしく、モンスターが出ることも多々あるようだ。そういった危険地帯を開拓しようって言う声も上がってるみたいだけど、そこで出現するモンスターはハンター育成のために必要らしくそれは出来ないのだという。なんでも大体百年置きにセントラルから魔物の大群が押し寄せてくるんだそうだ。それに備えるためらしい。前回の襲撃は17年前のことだったそうだ。丁度僕の生まれた時と同じだな。
そんなことを話していると、いつの間にか、もう馬車が休む時間になってしまった。アルさん達は交代制で見張りをするみたいだ。僕は安心して眠ることができた。
*
ドン!! グヂャ・・・
「何だ?」
大きな音で目を覚ました僕は、急いで外の様子を確認する。すると、アルさん達がホブゴブリン二体と戦っていた。辺りにはゴブリンが十体程倒れていた。ホブゴブリン相手でもしっかり連携をとって安全に対処している。凄い。素直にそう思った。
アルさんと戦っているホブゴブリンの一体が体勢を崩す。その隙を逃すまいとアルさんがトドメを刺しに行く。そして見事一体を倒した。けれど、もう一体はアルさんが居なくなったところを狙って、テリーさん達に突っ込んできた。そこで、テリーさんはエディアさんとセリナさんの前に立ち、大きな盾で突進を抑えた。
「くっ!!通さぬよ!」
ホブゴブリンは持っていた木の棍棒をエディアさん目掛けて投げた。危ない!
「甘いわ」
僕がウルを投げようとした時、二人の前方が光り、何かに当たったように棍棒が弾けた。どうやらセリナさんの魔法によるもののようだ。
「ありがとね」
エディアさんがお礼を言っているうちに、テリーさんを相手するのに夢中になっているホブゴブリンを、アルさんが背後から斬り、最後の一体が倒された。
「素晴らしかったです!」
興奮してつい言葉が出ちゃった。
「いや、まだまだだ。改善すべき点なんていっぱいあったしね」
アルさんは笑ってそう言った。テリーさん達も同じように頷いている。ちゃんとお互いのことを分かってるんだな。羨ましいな。
アルさん達がモンスターを剥ぎ取っているのを眺めていると、辺りが明るくなってきた。もう夜明けか。眠気はないから、睡眠は充分取れたんだろう。
剥ぎ取りが終わり、アルさん達が馬車を守る態勢が整ってから馬車は動き出した。
*
中継の町に着いて、アルさん達は剥ぎ取った素材を売りに行くついでにご飯を食べるそうで、僕もついていった。馬車が次に発つのは昼過ぎからだそうだ。アルさん達が素材買い取りを受けているうちに、僕は食堂で席を確保しておく。
食堂を見ると酔っ払った人たちが掴み合っていたり、依頼の紙を見て仲間と相談している人たちもいる。今までギルドの素材買い取りと質問窓口しかみてこなかったから、ギルドって落ち着いてるのかと思ってたけど・・・うん、僕の想像していたギルドの様子だ。僕はこっちのほうが好きだ。そんなことを思っているとアルさん達の買い取りが終わったみたいで食堂に来ていた。
「皆さん、ここですよ!」
食堂がうるさいくらい賑やかだったから僕も大きな声で呼んだ。それでもちょっと不安だったから手も振っておいた。すると、手を振り返しながらこっちに向かってきてくれた。
「待たせたな、奏太」
「いえいえ」
「早速食べ物を買いに行きましょう!」
勢いよくエディアさんが言ってくる。凄い食欲だなぁ。
「私もお腹ペコペコです」
おっと、こっちもか。
*
皆んな食べ物を持ってきて、食べ始めている。そんな中、テリーさんが口に物を運びながら聞いてくる。
「奏太君はどうしてセントルに行きたいんだ?」
う〜ん、許可なしにセントラルに入ろうとしてますなんて言えないしな。
「観光です。セントラルを見てみたいと思ったので」
とりあえずの嘘にテリーさんが反応した。
「それは珍しいね。まぁ、私も小さい頃は興味を持ったものさ」
「どうして興味を持ったんですか?」
やっぱり大きいからかな?それか世界の中心だから?
「私は小さい頃、親からセントラルについてよく話されたんだよ。親もハンターだったからね。だから、セントラルの魔物と戦うハンターに憧れるのと同時にセントラル自体にも興味を持ったんだ」
「そうなんですか。じゃあテリーさんは前回のセントラルの戦いには参加はされてないんですよね」
「いや、もう私は四十過ぎだからね、戦ったさ。小さな魔物とだが。それに今は新しい目標もできたからね」
ええ!?テリーさん四十過ぎてたの?全然見えないよ。
「新しい目標ですか?」
テリーさんが答えようとしているところにアルさんが割り込んで答えてくる。
「そうだぜ。俺らはダンジョン踏破を目標にしているんだ。だから、その準備に色々してるんだ。今回の護衛も準備に必要な金を集めるために受けたんだ。途中で狩った魔物は俺らの好きにして良いって言われたからな」
ダンジョンか。あまりいい記憶はないけど何も経験していなかったら僕もきっとワクワクしていただろう。
「どうしてダンジョンを踏破しようと?」
「そりゃ、未知の地。誰も知らないんだぜ。そんな場所を踏破するなんて絶対に楽しいだろ!今はこの大陸のことなんてギルドで聞きゃ分かっちまうんだよ。そんなのつまらないだろ」
その質問にアルさんは当たり前だろと言わんばかりの表情で答えた。
「そうですね。僕もそう思いますよ」
「そうだろ!ま、食べながらもっと話し合おうや」
僕はすっかり忘れていた頼んだラーメンを思い出した。そのラーメンはまだ温かかった。
*
馬車に戻りセントルに向かう。今日は野営の予定だったけど夜も進み続けるらしい。予定より遅れているからだそうだ。
夜になるまでアルさんたちと話し続けて夜になると僕は一言かけて眠りについた。起きるともう町に着く手前で門を潜っているところだった。馬車は広場に留まり、アルさん達もギルドに報告してから朝にやってる宿屋に行くようだ。
「じゃあな、奏太。楽しかったよ。また会えたらその獲物を使ってるところ、見せてくれよ」
僕の腰にあるウルとギフトを指さして笑って言った。
「はい、こちらこそありがとうございました!」
アルさん達と別れた後、ロデイクさんから貰った地図をもう一度見る。もうこの町から、セントラルが見える。場所を見失うことはないだろう。さっき潜った門から外に出てセントラルに向かう。近くに来たことにより気持ちが高ぶって、ついつい早歩きになりながら。
*
セントラルの麓付近までくると壁があった。壁には衛兵が複数人おり、突破するのは難しそうだった。けれど、しばらく付近の叢に観察していると兵が居なくなる時間があった。どうやら二時間置きに見張り交代するみたいだ。それに次の見張りが来るまで、十分ぐらいかかっていた。タイミングよく行けば突破出来ることが分かったから、次の時に越えよう。
そして、ついに見張りが動いた。今だ!僕は走り出して壁付近まで迫る。壁はウルをフックショットのように使って越える。衛兵が突然来るみたいなハプニングはなく、難なく越えると、そのまま山を登り始めた。山を見てみると斜面は登りやすくはあるけど、それでも戦闘に適してはいなさそうだ。
壁から休憩をとりながら、歩みを進めていると辺りは暗くなり、冷たい風が当たってくる。そこまで高く登ったのかな?時間も大分経ったはずだからそんなものなのかな?
結構寒いな。そうだ!こういう時のためにこれがある!
「プロテクト!」
言葉を放った瞬間に寒さが薄れていった。完全に無くなった訳ではないけど、それでも前よりはマシだ。
それからも順調に登っているけれど、本当に何にもない。殺風景で何だか精神にもきてる気がする。
そんな時、山に穴が空いている場所が上に見えた。
近づくとそこはまだ奥に続いていそうな洞窟だった。洞窟の地面は山のような斜面は無くて、とても歩きやすかった。けれど、こういう何か手が加わった所には絶対に何かいる。洞窟はあまり広くはなかったけれど、戦えるだけの広さは充分あった。きっと魔物とかはここに住んでるんだろう。それから広さは違うけど同じような空間を何箇所か通って行き止まりのところまで来た。
おかしいな。結局、魔物とも出くわさなかったし、あの紙を書いた人もいない。どうすればいいんだ?
「こんなところで何してるんだ」
後ろから声を掛けられた。突然の出来事だったから、咄嗟にギフトとウルを抜いてしまった。声の主を見ると、僕と同じくらいの背をした男の人が立っていた。男の人は戦闘に不向きそうな服を着て、剣を腰にかけている。
「ああ、俺は別にお前に危害を加えるつもりはない。ん?前言撤回だ。ちょっと失礼」
そう言うと、男の人は目を閉じて僕に触る。その瞬間、僕は何かから見られているような感覚を覚えた。男の人が手を離すと、その感覚が消えた。やっぱりこの人に何かされたのか?
警戒してまた武器を構え直したけれど、男の人は満足そうな表情でこちらに向いていた。
「久しぶりだな、ゼノ」




