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変わり所

「あれ?机の中に入れてたはずなんだけど・・・」


僕は一人教室でため息混じりに独り言を言いながら忘れ物を探していた。忘れ物というのは楽から貰ったお守りである。


楽が物心ついた後に初めて貰ったものなのだ。そのお守りは緊張をほぐしてくれるものだという。


兄弟間の初めての贈り物だった。お守りをプレゼントしてくれた楽にはとても優しい弟になってくれたものだと感動した覚えがある。そしてそのお守りを高校受験の時にも持ち歩いていたし、今も毎日持ち歩いている。


そんな大切なものを今日に限って手放してしまった。


「不気味な地震だったけど周りに何の影響も無かったから、少し教室に残っていても大丈夫だよね」


それから2分くらいしてようやくお守りを見つけた。光助や累はもう避難しただろうか。

グラウンドに行こうかと思ったその時、僕の視界をとてつもない閃光が襲う。


しばらく経って目を開けると視界に広がるのは元いた教室ではなく、そこは広く薄暗い空間だった。完全な暗闇ではなく、所々で鉱石が光っている。そのため、影もできる。影の不気味さもあったが、それ以上に、この空間に僕は既視感を覚える。


「どこかで見たことあるような・・・あ、夢で見た場所そっくり・・・」


そして恐怖心に駆られた。


「こんな暗くてどこかもわからないところに一人なんて・・・な、なんで僕だけ・・・そうだ・・・他にも誰がいるかもしれない」


息を吸って、思いっきり声を出す。


「誰かー!いたら返事をしてください!」


……


「誰かいないんですかー!」


僕のわずかな希望が折れそうになったその時、小さく音が響く。


「ギギィ・・・」


(たしかに誰かいる!よし!方向はこっちかな?とにかく今は誰かに会いたい。早く早く早く!)


僕が声の元に必死に走って辿り着くと、確かに一人いた。


「やっと人と会え、た・・・」


声の正体を知ると同時に僕は恐怖で動けなくなった。

そう、そこにいたのは一般の人の半分くらいの身長をした、棍棒を持った二足歩行の動物。例えるなら“ゴブリン”


「ギギィ!!」


ゴブリンは僕を認識するとすぐにこちらに走り、棍棒を僕に向かって振り下としてきた。


「ひっ!」


しかし、その攻撃は僕の腰が抜けて尻餅をついたことにより、棍棒が股の間に振り下ろされ間一髪避けられた。


(に、逃げなくちゃ!殺される!)


けれど、腰の抜けた僕にできるのは後ずさることだけ。次第に壁に追い詰められていく。


(嫌だ!嫌だ!嫌だ!)


僕は恐怖から目を瞑ってしまう。

そして、背は壁へ当たる・・・はずだったが僕の体は壁に吸い込まれていった。

背中が壁につくだろうと予想していた僕は予想を裏切られ、受け身をとれずに後ろへと転がった。

予想を裏切られたことで体が回転して下半身も壁の中に入っていった。


「へっ?」


視界の急な変化に驚きつつ、僕はすぐにゴブリンを警戒した。

何分、何十分も僕が通り抜けたであろう壁を凝視した。それだけ恐い体験だった。

かなりの時間が経過してさすがにもう来ないと、ようやく気を抜くと緊張が解けたせいか体から力が抜けてしまい地面に伏せ、そのまま眠りについた。


少しして起きると、多少混乱しながらもこの場所を記憶から探る。

この場所とここに来た経緯を思い出し、少しは落ち着いた。

あたりの状況を確認すると道は奥へと繋がっていた。どうせ今ここからは出られないと考え、僕は道の奥へと進んで行く。


「どのくらいの広さがあるんだろう。こんな道を掘れるなんてやっぱり人がいそうな気はするんだけど」


この道には原理は分からないが電気でも火でもない灯りがあるため、その明るさが少しは僕を落ち着かせてくれているのだろう。

奥に進むと一つだけ部屋があった。

そこは休憩所のようで椅子、机、本棚などがあり、一応くつろげる空間になっていた。

この場所が不思議だったのと外のゴブリンが恐くてこの部屋から出たくないのが相まって、ここに留まる事にした。


部屋の状態を見てから、まず本棚へと向かう。本棚には三冊しか本は無かったのだが、この場所のことが少しでも分かるかもしれないと思い本を手に取る。

どうやら物語の類だった。読み進めていくと次第にその内容に興味を持ち、今の状況を二の次にしてしまう程に熱中していた。僕はその一冊を早々に読み終える。

本に書かれていたのはまるでお伽話のような話が本当にあったかのように捉えてしまいそうなものや、地球のことをとても珍しいように書いてあるものまであった。結局、全部目に通してもよく分からなかったのだ。

本棚に本を返し、本棚の上にもう一冊の本を手に取る。その本には栞が挟まっており、栞には『魔刀』と書いてあった。


「この本絶対に変な本だ」


と口にしながらも読んでみると、初めてこの場所やこれからどうするのが良いのかが書いてありそうな本だった。僕はどんどん読み進めていく。

どうやら、ここはダンジョンと呼ばれる場所で五層から成るもので最終層のボスを攻略することで外に出られるようだ。僕は今大一掃にいるらしい。

そして魔法も存在するようだった。普通なら信じはしないが、あんなファンタジーな生物を見てしまったのだ。普通に信じてしまう。もし、本当に魔法が存在するなら是非とも使ってみたいものだ。


そして最後の一ページ

『ここから生きて帰りたいのならそれ相応の力を身につけろ。だが未熟な者には少しキツいだろう。そこでこれらのものをお前にやろう。何事も経験が大事だ。若いうちは飲み込みも早いんだからな。技術を体得しやすいように魔法を施してやる。すこしはこれがお前を助けてくれるはずだ。“技術早熟”』


最後の一文字を読むとその本から文字が消えて無くなり、机に置いていた栞は短刀に変わっていた。そして僕は体に何か入ってくる感覚を味わった。

しかし、気持ちの悪いものでもなく、むしろ心地の良いものだった。


「少しだけれどここの事も分かって来た。それに、何事も経験…いずれやらなきゃいけないんだ。なら今この気持ちが残っている間になんとかしなきゃな」


それから僕は、最後の一冊を手に取る。それには先ほどの短刀の基本的な扱い方が書いてあった。短刀には魔法が付与されており、血振りとかそういうものはいらないようだった。

そして、さっきまで本を読んでいた時よりも本の内容がすっと頭の中に入ってくるような気がしてきた。これも“技術早熟”とやらの恩恵なのだろうか。

同時に短刀を振り回して使い方を身に着けていった。そして、全く形にはなっていないが少しは扱い方を体になじませたところで意を決して僕は部屋を後にする。

生きて帰るために僕は戦わなければならない。

≪ダンジョン≫

地球上には見られない魔物という生物が住まう迷宮。ダンジョンには自然的に造られたものの他に人為的に造られたものもある。ダンジョン内は魔力で満たされており地上と比べ強力な魔物が多いとされている。ダンジョンの多くは階層を持っており、各階層ごとに多くの魔力が集まる場所が存在する。そこにはボスと呼ぶにふさわしい魔物がいるのだという。またダンジョンには自己修復機能が備わっており、これによって倒された魔物が個体によって異なるが一定時間で再生する。ダンジョン各所に生成された宝箱も同様である。

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