見つけた道
ふと目を開けると僕の目の前には、部屋の隅で俯いて座っている少年がいた。
「兄貴、まだ見つからないのかな」
その声に聞き覚えがあった。
この声は楽!?楽だよな!僕だ!奏太だよ!
しかし、楽は僕の声に反応しなかった。まるで聞こえていないようだった。
無視しているの?僕は本気で楽のこと心配してたのに、それはひどくない!?
怒りや悲しみが混ざったまま楽の前に立って、楽の肩に手を思いっきり置いた。・・・が僕の手は楽の体をすり抜ける。びっくりして後ろに仰け反る。
何なんだ?僕、死んだのか?
驚いていると、楽は立ち上がってその顔は何か決意に満ちた表情だった。
「母さんや父さんにはダンジョンは危ないから行っちゃダメって言われたけど、何もしないなんて兄貴を見殺しにしてるのと一緒だ。行かなくちゃ。確か僕の職業に合った武器は・・・」
*
「んん?ら、く?」
目を開けるとそこには荷物が多く積まれていた。荷物と一緒に体が揺れる。
「ここは・・・荷馬車か。じゃあ、今のは夢?妙にリアルだったな。・・・楽」
意識がはっきりしたところで荷馬車から顔を出して外を見る。外は僕が東水に着く前に見た景色と同じように草原が広がっていた。そよ風に吹かれながらまったりしていると、おじさんが気になった。荷馬車はゆっくり動いていたから馬車から降りて、先頭に向かう。
「何かありましたか?」
「いえいえ。今のところ、特にこれといった事はありませんでしたよ」
「そうですか。今ってどこらへんですか」
「たった今東水が見えなくなったところですよ」
どうやら寝ていたのは少しの間だったみたいだ。それなら中に戻らせてもらおうかな。
「何かあったら呼んでくださ・・・あれは?」
後ろに戻ろうとした時、草原のあちこちから影が見えてきた。小さいのが多くて、大きいのが一つ。
「ゴブリン!?やっぱり出たか。奥の方はホブゴブリンか?あいつまでいるなんて聞いてないぞ。全く遠回りの道から行くしかないか」
遠回りか、ちょっとやだな。それに何もしなかったのに護衛ってことでお金を貰いたくもないし。
「僕が対処しましょうか?」
「いいのかい?ならお願いしよう。まぁ、危なかったら戻って来てくれ。一応、逃げるための道具はあるから」
道具があるのか。使わないってことは高いんだろうな。なら、もっと負けられないな。
「分かりました。では行ってきます」
僕はゴブリンの方を見て数を数える。前にゴブリンが五匹、その後ろにホブゴブリンが一匹か。ウルだけで充分かな。他にもモンスターがいるかもしれないし、出来るだけ馬車の近くで戦おう。五十メートルは離れているけどウルなら対処可能だ。僕はウルを引き抜いた。
ホブゴブリンたちがこちらに気づき、接近してくる。ウルとロープに魔力を流しながら先頭のゴブリン目掛けて投げた。ウルは一瞬でゴブリンの腹に刺さる。ロープを左手で引っ張って、ウルをゴブリンから引き抜くとゴブリンはお腹を抑えながら地面に倒れた。少し動いていたけど、出血でこのまま絶命するだろう。ロープを伸ばしたまま僕は次のゴブリン目掛けて、横にロープを振るった。ロープは金属だけど、ある程度は柔軟性があって、こうやって使うことで鞭を使うように戦える。これは海で練習していた時に気づいたことだ。ウルはそのゴブリンの腹を切り裂き、切り裂かれたゴブリンはその場で倒れた。他のゴブリンも流れで倒していく。
その流れの勢いで、ホブゴブリンにも同じ方法で攻撃する。けれど距離感を見誤りウルはホブゴブリンの後ろを通り過ぎてしまいロープの部分が当たってしまった。すると、ホブゴブリンはロープを掴んできた。僕はすぐに魔力を逆流させて、高速でホブゴブリンに近づく。ロープを掴んでもらってるから、固定されているのと同じで魔力を逆流させれば近づける。距離を詰める間にギルドを引き抜き、ギルドに魔力を込める。けれど、今回もギルドは光らなかった。ギルドをホブゴブリンの腹に突き刺し、速度の勢いに乗ってホブゴブリンを倒れこませる。すぐにギルドを引き抜いて、止めに首を裂く。この殺し方にもなれてきちゃったな。
荷馬車に戻って、おじさんに片付いたことを知らせる。
「面白い戦い方をするな」
「そうですか?それより何事も無かったようで良かったです」
「ところで、倒したゴブリンたちはどうするんだ?」
「どうもしませんけど」
何故だ、っていう感じの顔をしてきたから、こっちから聞いてみる。
「何か問題でもありましたか?」
「何か問題って、兄ちゃんはギルドにモンスターの素材を売って儲けてるんじゃないのか?」
そう見えたのか。まぁお金は報酬でもらう分で足りそうだしギルドに寄るよりすぐに用意をしてセントラルに行きたいから今はいらないかな。
「僕はそういう仕事はしたことないですね。魚でならやってましたけど今はお金に困っていないのでこのままにしておきます」
「それは勿体無いな。もしよかったら、私に譲ってくれないか?もちろん報酬は上乗せするつもりだ。」
ついでだから別に良いか。準備で余ったお金は精々水と携帯食料くらいにしか回さないだろうから浪費できる分が増える。
「分かりました。それでお願いします」
流石に五体満足で全部を馬車には載せれないのでゴブリンとホブゴブリンは各所部位だけ剥ぎ取った。
剥ぎ取りの最中にゴブリンたちの中から石のようなものが出てきた。これは魔石というらしい。なんでもこの世界の道具には欠かせないすごい石だという。
「兄ちゃんのおかげで思わぬ収穫があったな。お金だけじゃ、ちと寂しい。困った時にはこのロデイク・カールを頼ってくれ。あとすまんが、後ろに積むの手伝ってくれるかい?」
「分かりました」
ゴブリンは手分けして積んで、ホブゴブリンは二人で協力して積んだ。だけど、ホブゴブリンたちのせいで僕が座るスペースが無くなってしまった。
「ありゃりゃ、座る場所がなくなっちまったな。すまないが隣に座ってくれ」
「隣、失礼します」
「また何か出たら守ってくれよ」
信頼したような声でロデイクさんは言って、再び馬車は大陸中央を目指して進み始めた。
*
どのくらいたったのかは分からないけど、空が暗くなり始めたところでようやく町らしきものが見えてきた。特に道中でモンスター襲われることはなく、町へ到着した。
ロデイクさんに町について聞いてみると、どうやら中継地点の町のようだった。
「中央の国までってあとどれくらいかかりそうですか?」
「そうだなぁ、リンブルまでは二週間ってところか。あ、リンブルってのは中央の国のことだな。正確にはセントラルの南にある国だが」
「二週・・・!」
思わず声が出てしまった。思ってた以上にかかるのか。そうだよね、国と国を移動するからそのくらいは普通か。
「はぁ」
僕を見てロデイクさんは笑っていた。しまった。ため息漏れちゃってたか。
「若い子にため息は似合わんぞ。先に宿に行っていてくれ。私はホブゴブリンたちを売ってくるよ」
宿はホブゴブリンを譲ってくれたからと言ってたロデイクさんが取ってくれた。なんか申し訳ないな。
宿に着いて部屋に入ってから、そんなことを思いつつもベッドに寝転がった瞬間に意識を奪われた。
*
それから色んな中継地点の町や村を挟んで夕方ごろようやくリンブルの町が見えてきた。ロデイクさんと色々話したりしていたり、道中の魔物を相手にしていたら結構時間を忘れちゃっていた。ロデイクさんは天照王国出身じゃないらしいけど、天照王国に出入りするうちに喋り方が今みたいに現地人みたくなったそうだ。
町に入ると広場みたいな場所で荷馬車がいっぱい止まっていた。列に並ぶように僕が乗っていた荷馬車も停められた。馬車から降りて、荷物を降ろすのを手伝おうとしたらロデイクさんに止められた。
「そこまでして貰わなくていいよ。ほら、護衛の報酬だ。今回は本当にありがとうな。助かったよ。それと、これは聞いて意味が分かるか?」
僕にお金を渡した後、ロデイクさんは英語で話し掛けてきた。普通に聞いても断片的には分かっただろうけど、本や魔力のおかげで日本語を聞いているのと同じように聞こえた。うん、この国で会話することになっても大丈夫そうだ。
「大丈夫です。ちゃんと分かりますよ」
ロデイクさんは回りくどくありがとうということを話していた。
「それなら良かった。じゃあ」
それからロデイクさんは荷馬車の方へ行って荷物を一個ずつどこかへ運ぼうと動いていた。
「また困ったりしたら、僕を頼ってくださいね」
そう言うと、ロデイクさんは背中を向けたまま僕に手を振った。とは言ってももう一生会うことはないかもしれないのだけど。
*
「さて、じゃあ僕も買い物をするか。まずは前の街で買い忘れたリュックがあると良いんだけど」
荷馬車を停めた広場は市場のようになっていて、色んなものがあった。
一つ一つ店を見ていると、リュックを売っている店があった。小中大の大きさがあったけど、大だと腰のポーチに引っかかったから中にしておいた。
リュックを買った後に携帯食料を10日分くらい買っておいた。水の方は魔法で『クリエイト・ウォーター』って言うのがあったから買っておいた。ロデイクさんからは金貨1枚を貰う約束になっていたけど小包にはもっと入っていた。
余ったお金で夜ご飯を適当に食べた後、広場の先の大通りの奥にあるギルドに入る。セントラルにはどうやって行くのか聞いてみようか。
「あの僕、セントラルに行きたいんですけど、ここって中央に当たるんですよね?でもセントラルが見えなくて・・・どうやったら行けますか?」
すると、女性のギルド職員は驚いて、説得するように答えた。
「セントラルには転移陣で行き来をするようになっていますが、そこに行くには最低でもギルドのハンターランキング1万位に入っていないと立ち入り禁止エリアとなっています」
セントラルに入るにはギルドでハンター登録をして、なおかつランキングで1万位に入らないといけないのか。佐倉さんが言ってなかったけど、中央のギルドにしか分からなかったことなのかな?それにしても、またお預けか。
「そう・・・ですか」
「おっ、奏太じゃないか。どうした?そんなにがっかりして」
露骨にがっかりしていると、隣から声がかけられた。隣を見るとそこにはロデイクさんがいた。さっき別れたばかりだからなんだか気まずい。
「えっと、セントラルに入りたいんですが色々規制があるみたいで、それにギルドのハンターっていうのにも登録していないので、僕だと入れないらしいんです」
「確かハンターのランキングで1万位に入ってないとダメってやつか」
ロデイクさんは少し考え込んで僕を担当している人に顔を向けた。
「おい、姉ちゃん。こいつは、1万位に食い込める実力は持っているぜ。このロデイク・カールに免じてこいつをセントラルに行かしてやってくれないか?」
「ダメですよ。規則は規則ですから。流石のロデイクさんに言われてもこれは変えられません」
「そうか」
ロデイクさんはこちらに向き直り申し訳なさそうにしていた。
「力になってやれなくてすまんな」
「いえ、ありがとうございました」
「流石の」って言われてるからロデイクさん、顔広いんだろうけどそれでもダメなら抜け道はないんだろう。それから、僕はギルドを出ると後ろから声をかけられた。
「おーい!奏太!」
「ロデイクさん!?どうしたんですか?」
そう聞くとロデイクさんは紙を僕に渡して来た。
「古いものだけど良かったら使ってくれ。私にできることがこのくらいですまない。じゃあ、達者でな」
ロデイクさんがまたギルドに入っていくのを見た後、紙を開いて見た。
「セントラルもリンブルも書いてある。これは・・・大陸中央の地図?これなら行ける!」
僕は地図を頼りにすぐにセントラルへ向かった。
東水にて、
「ヘックション!」
「風邪ですか?珍しいですね」
「そうかな?でも、一つ大事なことを思い出したんだよ。お客さんの中にセントラルに行きたいって言ってた子がいたんだけど、セントラルに入る条件のことを伝え忘れてた」
「やっちゃいましたね、先輩」