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18/31

それはどこまでも綺麗で

遅くなってすいませんでした!

ギルドでセントラルについて聞いた後、すぐに宿屋に戻った。気持ちの焦りを抑えて、口頭では落ち着いて舞衣さんに今から出て行きたい事を伝えた。すると、舞衣さんは困ってしまい、あたふたしていた。そんなとき、奥から頭にバンダナを巻いて、理沙と書かれた舞衣さんと同じようなエプロンを着た女性が出てきた。


「お母さん、この奏太さんが今日からの分キャンセルしたいって。どうしよう…」


舞衣さんは理沙さんにすがるような声で助けを求めていた。舞衣さんの話を聞いて、理沙さんが僕に言う。


「駄目だよ!5日分、お客さんの分で取っちゃってるんだから、急に変更されちゃ困っちまうよ」


その事を聞いて、僕はこればっかりは仕方ないと思う反面、一刻も早く行きたいのに行けないことが悔しくて拳を握りながらも落ち込んだ。


「そうだね・・・少なくとも今日分はいてもらうよ。食事の材料をもう用意しちまってるんだ。明日と明後日の分は今から変えることは出来るけど、どうする?」


「じゃあ、明日と明後日の分はキャンセルをお願いできますか?」


「分かったよ」


「我儘を聞いてくれてありがとうございます」


すると理沙さんは、何かを悟ったような表情でこちらを見る。


「いいさ。ほら、最後の日なんだ。この町を楽しんでいきな」


僕は頭を下げてから宿を出た。


「今思うと僕、全然この町について知らないな。まだお昼を回ってないし、明日にはここを発つから理沙さんが言ってたように今日は観光でもしよう。でも、その前に昨日教えて貰った時計の店に行こうかな」


まず時計の店に行って、色々時計を見ていると銀貨1枚から金貨5枚くらいまでの時計があった。どうせそこまで高いやつを買っても意味はなさそうだし、時間が確認できればいいから銀貨5枚くらいのやつでいいかな。そう思い、銀貨5枚の時計を買った。


時計を買った後は大通りに出て、この町に入ってきた門とは逆の方向に足を運ぶ。

進んでいくと市場のような所に着き、人で賑わっていた。屋台やら家型の店もあって、物を探すのならここで十分なくらいに店がたくさんが出ていた。色々気になって色んな店の商品を見ていると、ある出店で出ている魔法紙が目に留まった。種類がいくつかあってそのうちの一つが気になった。


「『プロテクト』か。すいません、この魔法ってどんな効果があるんですか?」


「その魔法は、使った人を色んな状態異常から守ってくれるものです!便利ですよ!特別にお値段をお安くして銀貨75枚です!どうですか?」


銀貨75枚か。買っても生活できるほどのお金はあまりそうだな。それに、山となると高山病とか恐いし、気温も厳しくなりそうだ。ならお買い得かな。


「じゃあ、買います。金貨でも良いですか?」


「毎度あり!釣りを受け取って!ほら、他のお客さんの邪魔になるからどいたどいた!」


お釣りを渡されて、勢いで追い返すように店から遠ざけられた。店員さんと話しができない距離になった時にお釣りが気になり、お釣りを見ると銀貨は10枚しかなかった。


「ひったくられた!?」


店に問い合わせようと思って、あの店に歩みを進めようとすると、人が多すぎてどんどん店とは反対に進んでいった。


算術ができないと見られたか僕の雰囲気なら押し切れると思われたのかもしれない。店の大きさが小さくなっていくうちに怒りが収まっていった。


「これも社会経験なのかな。はぁ、今度からは気をつけよ・・・」


東水って治安があんまり良くないのかな。僕は項垂れながら市場を後にした。


市場から離れて、適当に歩いていると良い匂いが漂ってきた。匂いに釣られて、匂いのする方向に向かっていくと、そこら中から湯気が出ている通りに出た。


「お腹すいてきたな。お昼も近いだろうし、ここで済ましちゃおうかな。こっちに来てからはご飯は宿屋でしか食べたことないから知らない名前の料理が結構ある」


中華街のような通りを歩いていると、ふとある看板が気になった。


「あの黒麦麺って何だろう?こっちに来てから面とか食べたことなかったからお昼はここにしようかな」


店の暖簾をくぐって中に入ると、日本でもよく見るカウンター席とテーブル席があった。働いている人は一人しかいなかった。おそらく、この人が店長だろうな。


「いらっしゃい!一人かい?一人なら、こっちの席に座ってくれ」


店長に指されたカウンター席に座った。料理を注文しようと思ってメニューを探してみたけれど何処にも無かった。


「店長さん、メニューとかってないんですか?」


「うちは黒麦麺とお酒しか扱ってないから、必要ないと思って置いてないんだ。今黒麦麺作ってるところだから、もうちょい待ってな。ひょっとして兄ちゃん、酒も飲むかい?」


そう言って、店長は黒麦麺なるものを作り始めた。


「いやいや、僕は未成年なのでお酒なんて飲めませんよ!」


「未成年?兄ちゃん、もうとっくに成年に見えるんだがなぁ。仕事をしていりゃ、その年から成年として見なされるんだが・・・でも、未成年かどうかなんて酒を飲むのに関係ないぞ。15歳を過ぎなきゃ飲めないだけだ」


「そうなんですか。でも、飲みませんよ。教えてくれてありがとうございます」


少し微笑みながら答えた。この国って日本っぽいところあるのにこういうところは違うんだ。世界が違うから当たり前か。


「へい、お待ち!」


色々考えている間に出来上がったみたいで、目の前に黒麦麺が出された。


「蕎麦?」


目の前に出されたのは、ザルの上にのったグレーと黒色のつぶつぶがある麺と汁だった。


「いただきます」


蕎麦と同じなのかどうかと、不安になりながら食べてみると・・・うん、美味しい。けど、まんま蕎麦だ。蕎麦と分かってからは普通に食べていった。


「ご馳走さまでした」


「あいよ」


店を出て、また街を探検するために湯気のない方向を目指して歩いていく。


「意外と道、長いな。しかもどこもかしくも食べ物の店みたいだし」


店を見ているうちに、だんだん湯気が無くなり周りが明るく見え始め、店がない住民街に出たみたいだ。そして、周りを見渡した。


「んん〜ここ、何処?」


見たことない木造の建物が並んでいるから、どう見てもここは知らない所だ。帰れるかな?でも、まだお昼なはずだから時間はある。一旦、中華街っぽいところに戻ろう!来た道を戻れば勝手に宿屋の方に行くはずだ!


「ここ何処?」


進んできた道を引き返して中華街に入り真っ直ぐそこを抜けて、市場に通じる道に戻ってきたはずなのに今度はレンガの建物が並んでいる。時間はあるけど、流石にヤバイ気がしてきて冷や汗がどんどん出てくる。


「これからどうしよう。宿屋の場所を聞こうにも、そもそも知らない場所で人に聞く勇気がない。でも、進まないと何も分からないし・・・ああ!もう進むしかないじゃん!」


僕は宿屋見つけに必死に東奔西走した。


空はだんだん赤く染まっていき、風も冷たくなってきた。


「はぁ、はぁ、はぁ、進むたびに景色が見たことないものになってる。これは野宿ルートかな。理沙さんに申し訳ないな」


僕はもう諦めて、空を見上げた。空からゆっくり視線を落としている時、気になるものが見えた。


「あれは公園?随分高い位置にあるな。高い?そうか!高い所から見渡せば良かったんだ!」


宿屋を探す手段を見つけて、勢いよく公園に向かった。公園は海際の崖の上に作られていて、崖の側には柵があって、落下を防止していた。柵ごしに町を見てみる。


「綺麗・・・」


夕焼けとその陽に照らされている町、そして町の奥には海があった。海の遠くの方は焼け、手前の方はその赤に満たされていくように薄く赤を含みながら青く輝いていている。町は僕が見てきた建物の色を忘れたように橙色に飲み込まれていた。幻想的な景色を作っていた。


「すごいな・・・こんな綺麗な景色見たことない。・・・っと、だいぶ見惚れてた。ええっと、宿屋は分かんないな。ならギルドを探そう。あんなに大きい建物ならすぐに分かりそう」


ギルドを探していると、ギルドらしき建物は発見出来たけど複数あった。その中で門に一番近いギルドを目指すことにした。


「僕が町に入ってすぐに見つけれたのは一つだったから、たぶんあれが僕の知ってるギルドかな。違うギルドだったとしたら聞けばって、元のギルドの所在地が分からないから聞きようがないか。あれが違ったら、今日はもっと走り回ることになるな」


不安の中に少しの期待を持って駆け出した。


空は暗くなってきているけれど、ギルドが見えてきた。完全に夜になる前にここまで来れたのはあの公園からギルドの方向に一直線に伸びる道に出れたことが幸いしたらしい。ギルドの入口に立って質問受付の所を見ると佐倉さんが見えた。良かった、戻ってきたんだ。ここからなら宿屋までの道は分かる。

宿に帰ると受付には、理沙さんが立っていた。


「観光は楽しかったかい?」


「はい!また、来たいと思いました」


そう答えると、理沙さんは微笑んで、


「そうかい。それは良かった。また来た時はうちにも顔を出しておくれよ」


「はい!そうしますね!」


「あっ!そうそう、徒歩で町の間を移動は大変だろう?ここから近くの西門出口に朝一番に馬車が出る。どこに向かう馬車か確認してみるのはどうだい?」


馬車か。お金もあるにはあるからそれもいいかもしれない。


「ではそうします。教えてくれてありがとうございます」


会話を済ませて、支度をして銭湯に向かった。銭湯から上がってから、部屋に入って今日買った『プロテクト』の使い方が書かれた紙を読んだ。これもイメージから成る魔法だった。魔法ってみんなこんなこんなものなのかな?試しに使ってみると確かに体が何かに覆われる感覚とともに寒いとか暑いとかそういうものを外部からは感じなくなった。これが売られたときに詐欺られたから、これも偽物かと思ったけれど、どうやらこれは本物らしい。プロテクトの確認をし終えた後は、明日は早くなりそうだからそのあとすぐに寝た。


チュチュチュ


「んん、もう朝か。時間はっと、まだ4時。朝一番は5時半だっけ?もう出る準備をしたほうがいいかな」


普段着は畳んでポーチに入れて、ギフトとウルを腰に掛ける。受付の所まで降りて、銀貨3枚を払った。


「お世話になりました」


「頑張ってくださいね」


「しっかりやっていくんだよ」


「はい!」


宿屋を後にして、西門出口に向かう。西門出口が近くなって来ると馬車の数がどんどん見えて来る。さて、中央に行く馬車はどれかなっと・・・あれかな?


「すいません。僕、大陸の中央に行きたいのですが、この馬車に乗せて連れて行って貰えますか?」


「馬車?まぁそうだけどこれは荷馬車だよ。中央に商品を運ぶんだ。それでもいいんならいいよ」


「それでも良いです。ありがとうございます」


おじさんは僕を一瞥して、何か良いことを思いついたような顔をした。髭を生やしたその見た目が厳ついせいで少し身構えてしまう。


「腰に掛けてあるのは、剣かい?もし戦えるのなら、護衛として雇われてくれないか?報酬は出すさ」


中央に向かうための手段が手に入ったのと同時に、護衛をすればお金まで貰えるならありがたい。


「僕で良ければ、引き受けますよ」


「そうかい、ありがとう。じゃあ、何かあったら呼ぶから荷台に乗っていてくれ」


荷台に乗ってしばらくすると馬車が動き出して少し揺れる。まだ睡眠時間が足りなかったのか、だんだん瞼が閉じていき、次の瞬間には意識が途切れた。

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